陰キャVS魔王その1
「食らえ、霧双飛燕突き!」
影虎は善方に距離を詰めて刀で突こうとした。
しかし……
「海闊天輪!!!」
「ガボッ……!」
影虎は善方のシャンプーハットから噴出された大量の水によって押し流されてしまった。
「俺の海闊天輪は水をいくらでも出す事が出来るんだよ……どんな量、どんな勢いでもな……」
「くっ、これじゃあ近づけねえ……」
影虎は善方のシャンプーハット改め海闊天輪の強さを思い知った。
見た目の割には非常に恐ろしい武器であった。
「でもだからって攻撃出来ない訳じゃない……ここはとりあえず逃げるしかないけどな……」
影虎は善方から脱兎の如く逃げ出した。
「勝てないと見れば逃げるのかい? 善意ってのはまたそうやってすぐに地に落ちる……」
善方が海闊天輪で水を滝のように噴出させて逃げる影虎の前に回り込んだ。
「うおおおおおおお! やべえやべえ!」
「ハハハハハハハ! 勇者ってのはお飾りかい? 情けないねえ」
必死で逃げ回る影虎を善方はそれ以上のスピードで追い詰める。
「はあっ、はあっ」
「ほらほらもう終わりかい? 本当に君って奴は……」
「俺が何の策も無しに逃げる訳無いだろアホ。地面見てみろ」
「ん……?」
善方は影虎の言うままに地面を見た。
そこには……紫色の毒々しい光を放つ八芒星の一部が描かれていた。
「まさか……これは―――」
「空毒天叢雲!!!」
影虎は刀で八芒星を突き、技を放った。
猛毒を付与された絶大な斬撃が善方に襲い掛かった。
「ぐわああああああああ!」
「流石にこれぐらいじゃ倒せないだろうな……隠行Ⅱ!」
影虎は追撃を掛ける為に隠行で己の身を隠す。
そして更に辺りに大量に芒星を描いていく。
「これをあいつが水を出す前に撃ちまくれば勝機はある……! 行くぞ!」
影虎がその亡星の中央を突こうとしたその時。
凄まじい斬撃が終わり、善方の居た方向を影虎が見てみると。
そこには無傷の善方が立っていた。
「嘘だろ……!? 何であいつ無傷なんだよ……!」
影虎もこれは流石に予想外であった。
彼の目論見では善方は致命傷を受けている筈だったのだが、事実はまるで違っていた。
影虎が衝撃を受けていると、善方が高笑いをして周囲に呼びかけるようにこう言った。
「ハハハハハハ! おそらく影虎君、君は俺が無傷な事に驚いているだろうから特別に教えてあげよう。俺の霊基は“明神秘湯”。水を温泉に変える事が出来る能力だよ……今絶対そんな能力じゃアレを無効化出来ないって思っただろ? 何でこんな事が出来たのかと言うとね、僕の能力で出せる温泉にはどんな傷でも治せる温泉というのも出せるのさ……この意味が分かるかい? つまり俺はほぼ不死身って訳だよ。能力さえ使えればね」
「反則だろ……」
影虎は善方の説明に絶望した。
何しろ無限に水で攻撃出来る上に実質不死身なのだから。
「クソッ……俺一人で勝てる相手じゃない……能力の発動を防げば勝てるって言っても
無理がある! せめて皆の内の誰かが居れば勝てるかもしれないけど……速く来てくれ皆……!」
影虎はとりあえず皆を探す事にした。
だがそれも叶わなかった。
善方は、影虎にこう呼びかけた。
「影虎君……君はどうやら何処かに隠れているようだね……なら炙り出すまでだよ!
海闊天輪、“明神秘湯”!!!」
善方は大量の水を海闊天倫から放出し、そして明神秘湯を発動させた。
「明神秘湯……水を百度の温泉に変える……!」
大量に出された水は、一瞬にして沸騰した熱湯に変わった。
その様子はさながら地獄の大釜のようだ。
周囲の植物は煮え、様々な生き物が熱によって死に絶えた。
その温泉は影虎にも襲い掛かった。
「うわああああ! 熱い熱い熱い!」
影虎はその熱さに悶えた。
しかし熱い程度で済んでいるのが影虎が人間を辞めている事を明確に現していた。
影虎は木々に登って熱湯をやり過ごそうと試みるが、時折新たに熱湯が放たれてしまう。
このままでは街にも被害が出てしまうだろう。
「あいつ……これで俺を誘う気だな……不味いあいつに攻撃しないと……ここは皆が来るまで時間稼ぎをするしかない……!」
影虎は善方に向けて無数の五芒星を描き、その中央を突いた。
「霧双空毒草薙!!!」
無数の毒の斬撃が放たれ、それらは善方に当たった。
善方の体に幾つもの風穴が開き鮮血が迸る。
「ぐふっ……明神秘湯! 水を傷を瞬時に癒す温泉に変える……!」
善方は明神秘湯で自らの傷を癒した。
因みに影虎の猛毒も回復している。
だがその次の瞬間には影虎の斬撃が放たれた。
(時間稼ぎのつもりか……? まあいいか、このまま霊力を浪費してくれるのなら好都合だ……)
善方はそう考えて影虎の斬撃を受け続けた。
そんな風に影虎が時間稼ぎをしていると。
「カゲトラちゃん、大丈夫!?」
エルドレットが影虎の背中に声を掛けた。
影虎はエルドレットの無事を喜んだ!
「エルさん! ご無事だったんですね! 他の皆は……」
「カミルレさんなら居たわ。あそこよ」
エルドレットが指を刺した方向には、木々を足場にしてこちらに向かってくるカミルレが遠くに見えた。
そして程なくして二人の下に辿り着いた。
「カゲトラさんも無事だったのね。良かったわ」
「ああ……カミルレさんこそ無事で良かったよ」
「どうも……というか今何が起こったのよ」
「それは……」
影虎は二人に事情を説明する。
二人は影虎の説明を聞いて状況を理解した。
そしてエルドレットが二人にこう言った。
「それなら三人でどうやって相手を食い止めるか考えましょう」
「分かりました。まずはそうしましょう」
「ええ。急いで考えましょう」
そうして三人で善方に立ち向かう事となった。




