助けて。Sランク冒険者がわけわかりません
さて。
美少女のアルルと一緒にいたいのは山々だが、さりとてここは洞窟内。長居するには向いていない。
「アルル。これ以上は危険だ。そろそろ出よう」
……Sランク冒険者にタメ口。
これにかなりの違和感を覚えながら、僕は立ち上がる。
だって、仕方ない。
万が一「さん付け」でもしようものなら、ぎろっと睨んでくるのだ。
さすがはSランクの冒険者。風格も圧倒的だ。口には出さないけど。
「う……うん」
アルルもしぶしぶといった様子で立ち上がる。
なんだろう。彼女も名残惜しいと思ってくれているのかな。そんなわけないか。
洞窟内は通路が入り乱れているが、出口に通じる道はひとつではない。魔物が待ちかまえている通路だけを無意識に避けながら、僕は口を開く。
「アルルさん……じゃなくて、アルル。これからどうするの? クリムゾンワイバーン、どこにもいなさそうだけど」
「そうね……」
神妙な面持ちで頷くアルル。
骸骨剣士の登場ですっかり忘れていたが、アルルの目的はクリムゾンワイバーンの討伐。
依頼によれば、この洞窟内に潜んでいるという話だった。
だが、いまのところそんな予兆はいっさい見えない。クリムゾンワイバーンはでかい声で咆哮するから、僕でも気づけるはずなんだ。
「……一度、ギルドに戻って報告してみるわ。なにか情報が得られるかもしれない」
「うん。そうだね。それがいい」
「……それで、さ」
アルルがチラチラこちらに視線を送る。
「ギルドのみんなに、クラージのこと話してもいいかしら。私、あなたをこれ以上放っておけなくて……」
「アルル……」
なんと優しい女性だろう。
冒険者としての強さと正義感を持ちながらも、弱者への優しさも忘れない。そして時たま見せる乙女さながらの表情。
外見的にも内面的にも、アルル・イサンスは素晴らしい女性だった。
けれど――
「……ごめん。それは辞めておいたほうがいいと思う」
「え……」
「僕には視えるんだ。このスキルはたぶん、奴らにとって相当厄介なんだと思う。このスキルを公にした途端、奴らはきっと街を燃やしてでも僕を殺しにくる……」
「そ、そんな……!」
悲痛な声をあげるアルル。
だが、決してこれは僕の見間違いではない。
目を瞑り、対象を《故郷》に絞ってスキル発動すると、やはりみんな殺されているのが視えるのだ。僕を、探し当てるためだけに。
「実際にも、骸骨剣士は秘密裏に行動していたっぽいでしょ? 自分たちの画策を知られたくないんだ」
「そ、それは……。でも、なんのために……」
「魔王の復活。これは間違いない」
これには諸説あるが、魔王を蘇らせるには、人間の生き血を必要とするらしい。それも――できるだけ強い人間の血を。
むかし読んだ文献の内容なので、詳細までは覚えていない。でもたぶん、魔王を復活させるには、まだまだ他の条件が必要だったと思う。それらを奴らは達成したか、もうすこしで達成できる状態にあるんだ。
「……だからできるだけ正体を隠して、裏で奴らの目的を阻止したほうがいい。じゃないと、多くの犠牲が出てしまう」
「そ、そんな!」
アルルがくわっと目を見開き、僕の前に回り込んできた。
「あなたはまた、自分だけ犠牲になろうっていうの!? 大勢の人を助けるために、いままで通り、ずっと汚れ役を……!」
「アルル……」
その切なる眼力に、僕は思わず顔を落としてしまう。
「ありがとう。でも……いいんだ。僕のためだけに、多くの犠牲を生むわけにはいかないだろう?」
「くっ……」
アルルが悔しそうに目線を逸らす。
「だ……だったら!」
そして数秒後、顔を赤くして叫び始めた。
「クラージ。私と組んでよ!」
「へ……」
組むって……なにを。
「私があなたを守る。だから……あなたも、私をずっと見ててよ!」
「…………え」
なんだそりゃ。
それって、場合によっては告白……
「違うの! 違うんだからね!」
さらに顔を赤くして滅茶苦茶に叫ぶアルル。
「あなたはいままで通り、多くの人を助けてるだけでいい。私ができるだけあなたを守るから……あなたも、ちょっとは私を見るように……」
もはやなにを言ってるのかわからない。
Sランク冒険者ともあろう者がどうしたことか。
――でも。
素直に嬉しかった。
こんな僕を、わかってくれる人がいるなんて。
「うん。わかったよ」
だから僕は頷いた。できるだけ、最高の笑顔を添えて。
「う……」
予想外の反応だったのか、アルルが数秒だけ硬直し。
「えいっ!」
「いたっ!」
チョップを見舞ってきた。
「な、なにするんだ! やめてくれよ!」
「ふんだ。乙女心を弄んだ罰です!」
「わ、わけがわからない……」
ひとりため息をつく僕だった。
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