攻撃開始!
骸骨剣士。
ゴルゴンロード。
そして《博士》こと喋るゴブリン。
それら突然変異した魔物たちは、やはりナーロット魔術学園が一枚噛んでいたらしい。
蘇生魔法を研究する傍らで、対象者の戦闘力を格段に引き上げる研究を行っていたそうだ。
変異種の魔物らは、その段階で生まれた実験体に過ぎないという。
そう思うと納得いくところがあるね。
魔術学園の生徒たちも、未成年にしては強すぎた。
魔法だけなら中級の冒険者にも負けず劣らずときたもんだ。
やはりあの強さは、学問の成果だけではなかったんだ。
「…………」
僕の前を、ゴブリンがいそいそと進んでいく。
――変異した魔物たちを《格納》している場所。
そこに案内してもらっているのだ。どうやらそこは地下室に該当するようで、だから僕たちは薄暗い通路をひたすらに進んでいる。
ちなみにアルルも一緒だ。
彼女が同行することに意味はないが、ついてきたいと言って聞かなかったのだ。ネーシャがニヤニヤ笑っていたのがいまでも記憶に残っている。
「ヌオオオオオッ……!」
ふいに叫び声が聞こえてきた。
そろそろ魔物たちの監禁場所に辿り着くようだ。聞いたことがあるようなないような、奇妙な叫び声が断続的に聞こえてくる。
これもまた《変異種》の特徴か。
魔物にして魔物に非ず。
敵対するはずの人間によって強化された存在……
「ふん。Cよ、貴様がなにを考えているか当ててみせようか」
ゴブリンがニヤついた顔で振り向いてくる。
「――哀れだとでも思っているのだろう。人間を嫌う我々が、皮肉にも人間によって強化され、そしてユージェスの陰謀を叶えるために踊らされていたと……」
「…………」
「ゴブリン……」
黙っている僕の代わりに、アルルが悲しそうな表情を浮かべる。
「実際にもそうじゃ。魔王様を失ったいま、生きる意味は我々にない。このまま畜生のように生き、畜生のように果てるのじゃろう」
「…………」
「だから期待しておるのじゃ。あの絶対的な力を手に入れたユージェスを相手に、貴様はどのような光を見出すのかをな」
生きる意味、か。
そうだな。
僕も《未来予知》というスキルをどう使うべきか、おおいに悩んだものだ。結果的にはユージェスの死が僕の行動変容となったわけだが、そのユージェスはいま、敵となって僕に立ちはだかっている。
「フフ……。似ているのかもな。我々は」
達観したように笑う僕に、ゴブリンは「む……」と顔をしかめる。
「ふん。じゃが野垂れ死ぬ前に、我々にはしなければならないことがある。――ユージェス・レノアへの復讐じゃ。奴を野放しにはできぬ」
「ああ……。そうだな」
かつての親友。
ユージェス・レノア。
彼ともう一度対峙したとき、僕はいったいどんな気持ちになるだろうか。果たして彼と満足に戦えるだろうか。
……いや、いまは考えるのをよそう。
あいつが良からぬことを企んでいるのであれば、それを全力で阻止するまでだ。世界の監視者たる、Cとして。
「ヌガアアアアアアア!!」
ようやく目的地に辿り着いたようだ。牢屋のなかに、一体のクリムゾンワイバーンが収容されている。
それも通常のクリムゾンワイバーンではない。
かつて拠点で対決したときと同様、青色の体表をした変異種だ。
通常のクリムゾンワイバーンはCランクの冒険者でも倒せるが、この変異種となるとそうはいかない。アルルでもひとりでは苦戦を強いられるだろう。
そんなクリムゾンワイバーンの変異種は他にも多く収容されているらしい。いくつもの牢屋に同じ魔物が何体も閉じこめられている。
「……ゴブリンよ。こいつらに知能はないようだが、おまえの指示には素直に従ってくれるのかな」
「ああ……。もちろんじゃが。まさか」
「フ……そのまさかさ」
仮面のなかで、僕は不敵に笑う。
「敵が天空に居を構えるならば、こちらは翼をもって応えるのみだ」
★
「ウガアアアアアアッ!」
「ひゃっほう♪ なかなか刺激的ね♪」
――魔術学園の屋上。
クリムゾンワイバーンにまたがるネーシャが、黄色い声ではしゃいだ。
普通は人間を見た瞬間に襲ってくるクリムゾンワイバーンも、いまはネーシャの下で大人しくなっている。
「うふふ……。いいわねぇ。私の鞭で調教したくなるわ」
「ギ、ギャ……?」
「ネ、ネーシャったら……」
同じく魔物にまたがったアルルが呆れ気味にため息をつく。
「でも、こんな日が来るなんて思ってもいなかったわよ……。まさか魔物と一緒に戦うなんて……」
そう呟くアルルの視線の先には――見るも懐かしい骸骨剣士。
同様にクリムゾンワイバーンにまたがり、アルルを見てケタケタ笑っている。
「ククク。かつては同胞が世話になったようだな、人間よ」
「そうね。あんたたちが協力してくれるなら……すこしは安心できるわ」
ま、アルルにとって骸骨剣士はトラウマものだろう。
Sランクたる彼女でさえ一方的に蹂躙されてたもんね。
ちなみに僕とゴブリンももクリムゾンワイバーンに跨がっている。指示役とはいえ、今回は戦線に出ねばならない。
総勢にして、約五十組ほどだろうか。天空城に向かう勇敢な戦士たちが集まった。
「C。言っておくが、あの天空城はユージェスが魔王城を改良したもの。容易には立ち入れぬぞ」
「ああ。わかってるさ」
不安そうに告げるゴブリンに、僕はしっかり頷く。
いわく、天空城には半透明の防御壁が取り巻いているのだとか。外界からの侵入者を容赦なく弾き返す、強力な結界だという。ユージェスは強大な力を手に入れたので、その強度も大幅に高められているといっていい。
ここから見ても、たしかに紫色の膜のようなものが見て取れる。
ゴブリンの言うとおり、普通に突撃するだけでは侵入できない。
「ほ、本当に大丈夫なのか? あいつはおまえと同じスキルを持っているのだぞ? 加えて、魔王様以上の力を……」
「心配の必要はない。策は練ってある。私にすべて任せておけ」
「しかし……」
「大丈夫よ。ゴブリンさん」
アルルが決意を秘めた表情で言う。
「……Cは、不可能と思えた状況を何度も突破してきた。今回もきっと、なんとか道を切り開いてくれるはず」
「ぬ……」
ゴブリンはなおも逡巡したように視線をさまよわせていたが、やがてヤケになった。
「ええい、ならば全権は任せたぞ! 無様な醜態を晒すでないぞ、Cよ!」
「ふふ。もちろんだ」
僕はしっかり頷くと、右手を空へ向けて突きだした。
「攻撃開始だ! A軍は行軍を開始せよ!」
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