かつての対立者は手を取り合って
「きょ……共闘じゃと!?」
ゴブリンがくわっと目を剥く。
「冗談じゃない! 誰が人間などと手を組むものか!」
まあ当然の反論だ。
特にこのゴブリンは人間をとことん嫌っていたからね。
すんなり納得してくれるわけがない。
僕は黒装束をたなびかせながら、すっと身を翻す。
「……では、このままユージェスに屈するのか? あいつは『世界をつくる』と言った。今後、あいつに狙われんとも限らんぞ」
「ぬっ……」
痛いところを突かれたか、表情を歪ませるゴブリン。
「……おい、おまえたちはどう思う」
そして近辺の魔物たちに問いかけるが、みな視線をさまよわせるばかり。魔王を失ったショックにより、冷静な思考状態にないみたいだ。
「俺たちはまぁ……博士にすべてお任せしますよ。博士、頭いいですし」
「お、俺も……」
「おいらも……!」
口々に賛同を示す魔物たち。実力的にはみんなゴブリンより強いのだろうが、ゴブリンはそれを上回る統率力を持っているようだ。
「ったく、おぬしという奴らは……」
苛立たしげに腕を組むゴブリン。
こうして見ると、改めて斬新だな。魔物の頂点に立つゴブリンか。
「……結論を出す前に、ひとつ教えてくれまいか」
ややあって、ゴブリンが重そうな口を開く。
「数日前、おまえたちは我が拠点を襲った。あの動きはまったく想定外……常識を超えておったよ。――Cとやら、おまえの持っている力はもしや……」
「ほう……」
さすがに感心した。
そこまで気づいているとは。
……まあ、たしかにあのときは僕もかなり未来予知を使いまくったしね。
ユージェスが同様のスキルを使っていたことを踏まえれば、バレるのも道理ではある。
僕は数秒だけ黙考したあと、素直に言うことに決めた。
「そうだな。おまえの想定通りだ」
「…………ぬ」
ゴブリンの表情がいっそう険しくなる。
『ちょ、クラージ、いいの……?』
アルルの心配そうな声が念話で届いてきた。
『構わんよ。力を明かしたほうが協力を仰ぎやすい。それにもう……かつてのような暗い未来は視えない』
以前までの僕は、魔物の襲撃を防ぐために能力を隠していた。
けれど、その必要はもうない。
むしろ余計な気をまわすぶんだけ、ユージェスによる被害者が増えてしまう。
「そうか……あの尋常ならざる力を持つ者であれば、あるいは……」
そしてやはり、ゴブリンは僕の告白を前向きに捉えてくれた。
「人間よ……。あらかじめ言っておこう。儂は人間は嫌いじゃ。じゃがそれ以上に――魔王様を慕っておった」
「ああ……わかってるさ」
そうでなくば、きつい尋問に耐えることなどできるわけがあるまい。
「約束しろ。魔王様の仇を――取ってくれ」
そう懇願するゴブリンは、ちょっとだけ泣いていて。
大嫌いなはずの人間にすがることを、まだまだ葛藤しているようで。
それでも、僕をまっすぐに見据えてきた。
「フ……当然だ」
僕はゴブリンに向け、右手を差し出す。
「私はC。世界を監視し――世界を導く者だ」
「フン。大層なことを言いおってからに」
意地悪い笑みを浮かべ、ゴブリンも僕の手を取る。
「この戦いが終わったら、やはり解剖実験の道具にしてやる。楽しみにしておくんだな」
「クク、できるものならやってみるがよい」
「ふふ……」
アルルが達観したように笑った。




