明るい未来へ
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僕は天空に浮かび上がる幼馴染み――ユージェス・レノアを見上げる。
魔王ゼルエルガーの力を吸収したことで、奴自身にも大きな変化が訪れていた。
ユージェスの周囲を、漆黒の霊気が漂っているのだ。瞳も深紅色に変わっており、より化け物としての感が増している。
そしてなにより、ユージェスから放たれる圧倒的なまでの風格と威圧感。まさに人間としての域を越えた、人ならざる存在となってしまったかのようだ。
――リーレット集落からここまで駆けつけてくる間に、とんでもないことになってしまった……
常軌を逸したスピードで走り出すあいつに、僕もアルルもどうすることもできなかったのだ。
「駄目じゃ……もう、お終いじゃ……」
老いたゴブリンが頭を抱えて呻きだす。たしかこいつはナーロット収容所に捕らわれていたはずだが、いまは詳細を問うまい。頭上で奇妙な笑い声をあげている、あの化け物のほうがよほど問題だ。
「あの魔王様でさえやられてしまった……もう、あいつには誰にも勝てぬ……」
そう言って泣き喚くゴブリン。
他の魔物たちも同様だ。
魔王がユージェスを倒すことに期待していたのか、すべての魔物が一様に暗い表情を浮かべている。
――やはり、な。
その様子を見ながら、僕は脳内でひとつの結論に辿り着いた。
すべての黒幕はユージェス・レノア。
魔物たちは、ユージェスの力をさらに増幅させるための傀儡に過ぎなかった。
考えてみれば、おかしかったんだよな。
魔術学園の技術は、明らかに進歩しすぎていた。死者蘇生など明らかに群を抜いている。
死んだはずのユージェスが復活していることを見ても、おそらく、はるか昔より死者蘇生の術が開発されていたんだろう。魔物たちの持っていた器具類も、魔術学園が秘密裏に開発していた道具に過ぎなかった……
僕が以前から感じていた《とてつもなく大きななにか》。
それがこんなにも大きく、身近にあったなんて……
「ハッハッハーッハ!」
最強の力を手に入れたことがよほど嬉しいのか、ユージェスはいまだ甲高い笑いを響かせている。
そして彼の背後には――さきほど突如現れた、漆黒の天空城。
「C……あれはとてつもないわね……」
僕の隣で、ネーシャがぽつりと呟く。
「あの城から……多くの気配を感じるわ……。しかもこれは……」
「ええ……。魔術学園の生徒たちでしょう」
アルルも首肯によって同意を示す。
「なるほどな。やはり学生どももユージェスの手の内か」
どういった利害関係で両者が協力しているのかは不明だが、さきほど学生たちが急に襲いかかってきたのを見ても、敵側についているのは間違いなかろう。
ユージェス・レノア。
あいつは――最強の力を手に入れてなんとする。
まさか、世界全土を手中に収めようとでもいうのか……?
僕のその疑問は、ユージェスが甲高い声を響かせることによって打ち消された。
「聞こえるか諸君! 生きとし生きる――すべての者たちよ!」
「ぬっ……」
ゴブリンが顔をしかめる。
ユージェスの声が、反響する形で周囲に轟いたからだ。
「なにこれ……。まさか全世界に喋ってるの……?」
アルルも同様に目を見開いた。
あれもなんらかの器具を用いているのだろうか。ユージェスの言動はいちいち常軌を逸している。
「私はユージェス・レノア。最強の力を受け継ぎし者である! 諸君も見ただろう。私はたったいま、史上稀に見る力を手に入れたのだ! これを見よ!」
言いながら、ユージェスは生命を失った魔王の頭を掲げて晒す。
「くうっ……」
ゴブリンが悲痛な声とともにうなだれる。
「私の力は、さきほど消滅した街を見てもわかるだろう。今後私に刃向かう者がいた場合、この魔王と同じ末路を辿ることになる。これをせいぜい覚えておくがよい」
そして頬の両端を吊り上げるや、醜悪な笑みを浮かべて言った。
「世界中の人々よ。私は新しい世界をつくりあげる。……だからまずは、ここ――セントラル王国を支配することを宣言しよう!」
「なにを……」
ネーシャが憎々しげに目を見開く。
――世界をつくりあげる、か。
ずいぶんと大きく出たものだ。
「刃向かう者は容赦なく殺す。それをせいぜい、胸に刻んでおくがよい……!」
なるほど。
世界征服か。
臭い言葉だが、いかにもあいつが好みそうな言葉だ。
あいつはたしかに、相当な力を手に入れた。純粋な戦闘力だけなら、たしかに世界最強といえるだろう。
「ふふ、ははは。やっと会えたと思ったら……とんだ凶行に出たものだな……」
あの優しい表情に。
あの飄々とした態度に。
僕はいままで、どれだけ救われてきただろう。
「C……」
アルルが悲しそうな顔で僕の手を握る。
ユージェスの死によって、僕は抗うことに決めたんだ。
たとえ自身の評判が落ちようとも。
たとえ無能と蔑まれようとも。
僕の行動によって、救われる誰かがいるのならと思って。
「ユージェス。おまえは私を出し抜いたつもりかもしれない。だが……」
――でも、それでも。
僕には視えている。
わずか数パーセントの確率だけど、切り開ける未来が。
であれば。
いままで通り、明るい未来へ向けて、全力で抗うまでだ……!
「ゴブリンよ。ひとつ提案がある」
「て、提案じゃと……?」
「うむ」
そして僕は、自分でも奇妙な感覚を覚えながら、魔物へ向けて手をさしのべた。
「共闘といこう。人間と魔物が結託する未来にこそ、明るい光がある」
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