かの者はC。またの名を、クラージ・ジェネル。
「フン。人間が……我に挑むか」
魔王ゼルエルガ・ローゼの声はあくまで落ち着いている。
いままで多くの敵と相対し、そして討ち滅ぼしてきた――そんな圧倒的な風格があった。
「いままで幾万もの人間が我に挑んできた。その結末は……言うまでもあるまい」
魔王ゼルエルガ・ローゼは、星空に照らされる幻影のように、美しく、そして魅惑的だった。溢れんばかりの強者感は、昔とまったく変わらない。
その姿を見て、ゴブリンは精一杯に叫んでいた。
「魔王様! やってしまってください! そんな人間に負けないでください!」
「魔王様ー!」
「どうか我らに希望をー!」
いつしか他の魔物たちも同様に叫んでいた。この場にいるすべての魔物たちが、魔王を信じ、願っていた。ユージェス・レノアの死を。
「ふふふ。すごい熱狂だねぇ」
この状況においても、ユージェスは動じることもなく。
「人気者じゃないか。魔王さん」
「…………下賤な人間めが。我が力によって、消し炭になるがよい」
「ふふ……」
ユージェスの眼光が強く閃いたのは――その瞬間だった。
「口の聞き方には気をつけたほうがいい。魔王ごときが――人間様に刃向かうな」
「なっ……!」
それはまさに一瞬だった。
神速のごときスピードで魔王との距離を詰めたユージェスが、魔王の首を持ち上げたのだ。
「かはっ! アアアアアアッ……!」
「ははははははは! 魔王も呻くんだね! 景観だ!」
魔王ゼルエルガ・ローゼは足をジタバタさせ、懸命にもがく。それでもユージェスは動じない。さらなる力でもって、魔王の首を締め付ける。
「カハッ! カハーーーッ!」
依然として呻き声をあげる魔王。
――そ、そんな。
ゴブリンは思わず両膝をつき、ぽかんと放心してしまう。
ありえない。
あんなに強かった魔王様が、我らの希望だった魔王様が――あの人間に手も足も出ない……?
「ヌアアアアアアッ!」
魔王は全身を闇色に輝かせるや、魔法を発動する。
闇魔法――ニルヴァローガ。
甚大なる魔力でもって大爆発を起こし、近辺を一瞬にして消し飛ばしてしまう強力な魔法だ。
だが……
「ふふ。そんな大技、やらせると思うかい?」
ユージェスは魔王の動きを先読みしていたかのごとく、一瞬だけ魔王から手を離すと。
グサッ――と。
魔王の胸部を、自身の右手でもって突き刺した。
「ナ……!?」
もはや魔王はなにが起きたかすら理解できていない様子だ。ぽかんと放心したように、自身の胸に開いた大穴を見下ろしている。
「さあ……。君のその絶大な力を、俺に分けておくれ!」
「グ、グウアアアアア!」
魔王の悲痛な悲鳴が響きわたる。
魔王の身体から、漆黒の光の筋がユージェスへと吸い込まれていく。
まるで――その力のすべてを呑み込まれているかのように。
「魔王様っーー!」
絶叫しながらも、ゴブリンにはなにもできなかった。全身に打ち付ける絶対的な恐怖が、ゴブリンから抵抗の気力を奪っていく。
ありえない。
ありえない。
ありえない。
あんなに頼もしくて、強くて、我らの希望だった魔王様が――
こんなにも容易く、簡単に負けるなんて……
「ハッハーーーーーッ!」
ユージェスが狂気じみた笑い声を響かせるのと同時に、魔王はぐったりうなだれた。
どこか魅惑的だった影の姿は、力なく手足をだらんとたらし。
代わりに、ユージェスの周囲をドス黒い霊気が包み込んでいて。
理解はできても、信じたくはない。
あの魔王様が――一瞬にして負けたなどと。
「フフ。フフフ」
ふいにユージェスが鼻で笑い出す。そして自身の両手を見下ろすや、目をくわっと見開き、口の両端を大きく吊り上げた。
「フフフ、ハッハッハッハッ! 素晴らしい! これが魔王の力! これが王者の力! 私はこれより、何者にも負けるはずのない、神に匹敵する力を手に入れたのだぁぁぁぁああ!」
ユージェスが両腕を大きくひろげ、愉快そうに笑い出す。
たったそれだけで漆黒の衝撃波が発生し、周囲の木々を押し倒していく。
近くにあった街が、村が――瞬時にして消え去っていく。
それはまさに、瞬きだけで街を滅ぼした魔王のよう。
そしてさらに、驚くべきことが起こった。
天空に――漆黒の城が出現したのである。
漆黒と深紅で彩られた禍々しいその天空城は、魔物たるゴブリンでさえ恐怖を禁じえない。
「くっ……」
ゴブリンは思わず歯噛みする。
ユージェスが魔王城を奪い取ったのは聞いていたが、まさか己の根城をつくりあげていたとは……
★
突如にして現れた魔王。
突如にして消え去った街や村。
突如にして出現した漆黒の城。
その事実に、世界中の人々は恐怖した。
「な、なんだありゃ……!」
ある者は混乱し。
「世界の終わりだぁ……!」
ある者は絶望し。
「わあああああああっ!」
ある者は泣き喚き。
全世界の人々が大恐慌に陥った。
人間だけではない。
魔王にすべてを託していた魔物らも、この事実に絶望した。
もうどうすることもできないと。
魔王でさえ勝てぬ相手に、勝てるはずがないと。
すべての者が諦めた。
だが。
この状況においても、ひとりだけ、立ち上がる者がいた。
彼の名はC。
世界を監視し、世界を導く者。
実の名を――クラージ・ジェネル。
★
「まだだ。まだ諦めるな、ゴブリンよ。未来はまだ――潰えていない」
「え……」
いつのまに現れたのか、両膝をついて泣きじゃくるゴブリンに話しかける人物がいた。
「き、貴様は……!」
忘れもしない。
我が拠点を一瞬にして制圧した監視者。
能力的にはユージェスに似ているようで、その実、奥深き思慮深さを兼ね備えた人間。
「C……。貴様、なぜここに……!」
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