それでも僕らは抗う。
さて。
ゴブリンとの再会を終えた僕たちは、ひとまずナーロットのギルド支部に戻った。
そして魔王の復活まで秒読みであることを報告。
各地のギルドにも報告してもらうことになった。
混乱を避けるため、一般の国民にまで通達することはできない。だからCランク以上の冒険者にのみ本件を通達し、緊急的に警戒体制に当たることとなった。
また僕自身も、近隣の街や村に未来予知を発動し、ひとまず問題ないことを把握している。
全世界を予知するのはさすがに無理だから、これが現状できるすべてである。そうして魔王を復活させることなく、首謀者を捕らえれば僕らの勝利だ。
そしてその翌日。
あとはゴブリンの拠点にあった器具類の謎を突き詰めれば一段落……かと思いきや。
「んもう。振替休日って……」
ナーロット魔術学園。校門前にて。
アルルが残念そうにため息をついた。
校門には、《学園祭の振替休日につき、休校中》という紙が貼られている。
「そうか。一昨日は学園祭であったな……」
「んもー! こっちは急いでるのにぃ」
「……まあ、仕方あるまい。また後日としよう」
おかしいな。
器具の解析を依頼したのは僕じゃないが、ギルドの職員がたしかにアポイントを入れているはずなのに。
……まあ、こんなこともあるか。
『もしもし。クラージ、アルル、聞こえるかしら』
ふいに念話が脳裏に届いてきて、思わずぎょっとする。
この声は……ネーシャか。
『こちらCだ。アルルも一緒にいる。どうした』
『アルルも……ちょうど良かったわ』
ネーシャの声はどこか緊迫感に包まれていた。
そのことに不穏な空気を感じつつも、僕は話の続きに耳を傾ける。
『いま現在、リーレット集落にて大量の魔物が発生した模様よ。ひとまず現地の冒険者が応戦中で、私も急いで向かってるけど……あなたたちも行けるかしら』
『なんだと……!?』
馬鹿な。
――リーレット集落。
地図にも載っていないような小さな集落で、馬車でもここから二時間はかかる。
「…………」
僕たちの対策をすり抜けるような敵の動き……違和感を拭えないが、さりとてたたらを踏んでいる場合ではない。
「アルル。緊急事態だ。馬車の用意を!」
「う、うん……!」
胸のうちにわだかまる違和感を懸命にしまい込みながら、僕らは急いで集落に向かった。
★
ゾンビたちの制圧はそれほど難しいものではなかった。
僕が出した《通達》のおかげで、現地の冒険者が即座に行動することができた。被害者は多少出てしまったようだが、それほど大事には至らなかった。
アルルやネーシャが到着してからは、ほぼ一瞬で勝負がついたしね。やっぱり二人は強い。
だが。
今回に限っては、これで解決とは言えない。
「アルル。やはりこの魔物は……」
「うん。変異してるわね……」
地に伏した魔物たちを見下ろしながら、僕たちは呟く。
ゾンビ型の魔物――フラッグドガー。
本来は茶色いはずの体色が、赤へと変化している。
また、普通は武器を持たないはずのフラッグドガーだが、今回はすべての個体が鎌を使用していた。だから戦闘開始時はかなり混乱したらしい。
ちなみに他の冒険者たちはギルドへの報告など、事後処理を行ってくれている。そちらは彼らに任せて、僕らは事件の究明に当たることにした。
「ま、待ってよ!」
ふいにアルルが、一体のフラッグドガーに駆け寄っていく。
「ネーシャ! これ、カノーネじゃない? ほら、ちょっと前に依頼中に行方不明になった……」
「え……」
ネーシャが真っ青な表情で呟く。そして数秒だけフラッグドガーの屍を見渡すや、静かに首肯した。
「そうね……原型はあまり留めてないけど、この特徴的な顔つきは……」
「ちょっと待て。おまえたちの元同僚が……魔物と化していたというのか」
僕の問いかけに、ネーシャが沈鬱な表情で頷く。
「そうね……。カノーネ……拠点にも遺体がないと思っていたら……」
「……なるほどな。これですべての合点がいった」
震える声で僕は言った。
あまりにも不揃いだった出来事の数々。
それがようやく、一本の線に繋がった。
いつの間にか夕陽は落ちていた。
周囲は永遠の暗闇に包まれている。
空で鳴き声をあげる怪鳥の奇声が――なんとも不気味だった。
首を傾げるアルルとネーシャに、僕は静かに話し始める。
「……アルル、前に私はこう言ったな。私のスキルを知られた瞬間、街を焼き尽くしてでも魔物が私を捜し当てにくると……」
「う、うん……。それがどうしたの……?」
「だが、《未来予知》は一日先までしか視られないという制約がある。私のスキルが知られた瞬間、たった一日で街が壊滅……スキルの情報が筒抜けになっているとしか思えない」
「あ……」
加えて、今回のゾンビ襲撃もそうだ。敵は僕の《未来予知》が届かない場所を狙ってきた。
それだけじゃない。
いままで僕がいくら《未来予知》を使おうとも、一連の事件の全容までは見通せなかった。あのゴブリンも首謀者とまでは言えない。《未来予知》はたしかに透視スキルではないが、これはあまりに不自然じゃないか?
敵はまさに、僕たちの対策をすり抜けて強行に至ったわけである。
「で、でも!」
アルルが必死の形相で反論する。
「私やネーシャ以外に、スキルのことを知ってる人がいるの? あなたが通ってた《学び屋》の人たちは、制約までは……あ」
そこまで言いかけて、アルルは地上のゾンビを見下ろした。
「ゾンビ……蘇生魔法……ま、まさか……!」
「そう。信じがたいことだが――ひとりだけいる。私が以前、狂おしいまでに仲良かった幼馴染みがな」
本当に警戒すべきは魔物の動向ではない。
一連の事件を企てたであろうあいつを、なんとしてでも止めなければ……!
そしてアルルとネーシャを見渡し、ありったけの大声で叫んだ。
「気をつけろ二人とも! 敵はそこまで来ているぞ!!」
瞬間――
轟くような音をたて、闖入者が乱入してきた。
あれは――馬車でも魔導車でもない。
魔導二輪車を使いこなした、ナーロット魔術学園の学生たちだ。
「…………くらえ」
二輪車にまたがったまま、学生らが僕たちに向けて魔法を放つ。
※幼馴染タグ追加しました。
流行りに乗っかったんではなく、構想時からこうなる予定だったので、この流行にはびっくり(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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