魔物とすら仲良くなる監視者
ナーロット収容所。
犯罪者を一時的に預かる場所なので、当然ながら雰囲気は暗い。どんよりとした鉄の道を、僕は案内されるままに進んでいく。僕たちの足音が嫌に大きく反響する。
それにしても遠いな。
もうずいぶん歩いた気がするが。
「……はは。すみません」
僕たちの心境を察したのか、看守が苦笑いを浮かべる。
「今回の犯罪者はかなり特殊でしたから。特別収容室で、厳重に監視しているんですよ」
「特別収容室……」
聞いたことがあった。
テロの首謀者や、他国からの工作員など、第三者から奪還される可能性がある者。
そういった犯罪者を収容する場所があるのだと。
そう思えば、かの喋るゴブリンはたしかに危険だ。まだ僕たちの知らない力を使って、魔物たちを呼び寄せるかもしれない。そう思っての判断だろう。
「なに。謝ることはない。おまえたちの判断を尊重しよう、看守」
「恐縮です、C様」
ここでも《C様》か……
まだまだ呼ばれ慣れないな。
そしてほどなく、頑丈に封鎖された大扉に行き着いた。他の部屋とは違い、いくつもの鍵が幾重にも張り巡らされている。
「ちょっと失礼……」
看守は会釈すると、脇にあったボタンを慣れた手つきで押していく。そしてひとつの操作を終えるたび、鍵がひとつずつ外れていく。
「と、とんでもないセキュリティーね……」
「フ。こうでもしなくば、大罪者を安心して預けることができまい」
呆れ声を発するアルルに、僕も苦笑まじりに答える。
せっかく捕らえたのに逃げられました――という結末では、笑いたくとも笑えない。
そしてやっとすべての操作を終えたとき、ガシン! と扉が振動した。ようやく僕たちを出迎えてくれるわけか。
「C様、アルル様。くれぐれも……」
「気にするな。おまえたちが24時間、遠隔で監視しているのだろう」
「え!? は、はい。そうですが……」
未来予知で先回りして答えた僕に、看守が目を丸くする。
「心配は無用。ここにはSランク冒険者もいる。万一のことなどありえない」
「……はは。申し訳ありません。あなたがたには無用の心配でしたか」
看守は改めて敬礼すると、僕を見てやや口調を崩した。
「C様。あなたほどの人物に出会えて光栄です。息子があなたのサインを求めておりまして……」
「フフ。求めているのは本当におまえの息子かな」
思いっきり見えたぞ。
この看守が、僕のサイン色紙を家で抱きしめている未来が。
「え……。は、ははは。参りましたね。なにもかもお見通しとは」
「あとで考えておく。それより、いまは――」
「はい。どうか、お気をつけを」
看守が扉を開き、僕たちは覚悟を決めて中に入るのだった。
「ふん。お次は貴様のお出ましか」
「……久しいな。ゴブリンよ」
件のゴブリンは両手を手錠で吊されていた。鋼鉄の椅子に座らされており、両足もきつく施錠されている。この金具自体になにかしらの効果があるのか、緑色にほんのり光っているのがわかる。
「どんな手を使っても無駄だ。儂は絶対に口を割らんぞ」
「…………ふむ」
これは驚いた。
本当にその通りだ。
いかなる手段を用いようとも、このゴブリンが自白する未来がまったく見通せない。仲間を売るくらいなら、このゴブリンは死を選ぶだろう。
本当に驚いた。
あの卑劣な事件の首謀者とは思えない。
「……そのようだな。貴様の溢れんばかりの忠義心には、いかなる交渉術も敵うまい。自白は諦めよう」
「え……?」
「なんじゃと……?」
アルルとゴブリンが同時に目を見開く。
「フフ、ハハハ。そのような甘い文句で儂の警戒心を解くつもりか。そんなものは通用せぬぞ」
「いや。そうではない。貴様の忠義心は本物だ。心から魔王を敬愛しているのだろう」
「…………」
ゴブリンがまたしても目を見開く。老年の魔物とはいえ、さすがに動揺しているようだ。
「……ならばなにをしにきた。儂を殺すか」
「まあまあ。そう早まるな」
僕は仮面の内側で笑うと、看守に用意させた簡易イスに座る。
「ならばせめて、魔王復活に向けてどれほど時間がかかるのか……それだけ教えてもらおうか。これなら支障はあるまい?」
「ふん。それを聞いてどうする。貴様にとって良くない情報しかないぞ」
「だから聞いているのだ。人間の苦しむさまを見るのは、さぞ楽しかろう?」
「…………」
ゴブリンは数秒だけ考え込み、僕をじっと見つめた。
「……ふ。なかなかどうして、面白い人間じゃの。願わくは解剖実験の道具にしたいものじゃ」
「クク。それはご遠慮願おうか」
「……なに仲良くなってんのよ」
アルルが呆れた様子で突っ込みを入れる。
「……よかろう。我らの策に支障のない範囲ならば――話してやる」
「ほ、ほんと……?」
アルルが驚きの声を発する。
それも当然。
収容所のプロたちがどうしても口の割れなかったゴブリンに、限定的とはいえ話してもらえるようになったのだから。
ゴブリンは数秒だけ瞳を閉じると、重々しそうに口を開いた。
「――率直に言おう。魔王様の復活まで、もう秒読みの状態じゃ」
「……む」
「え……!?」
僕は息を呑み、アルルが素っ頓狂な声を発する。
「魔王様の復活に必要なのは、世界各地に広がる宝玉が三つ。それが血の色に染まりきるまで、人間の血を献上する必要がある」
「なるほどな……」
魔物たちが人間を襲っていたのは――魔王復活のため。
今更ながら、その仮説が現実のものとなった。
「……そして、三つの宝玉は限りなく血の色に変化してきている。我らの悲願達成まで……もう間もなくじゃ」
「そうか。もう猶予はないのだな」
「うむ。貴様らがどう足掻いても無意味。――どうだ、こんな情報、聞いてもどうしようもなかろう?」
「ああ。そうだな」
できるだけ、各冒険者ギルドに警戒態勢を敷くよう要請するしかないか。
また僕の目が届く範囲では、未来予知をあますことなく使うほかない。
僕は仮面の内側から、ゴブリンの未来を観察する。
やはり――これ以上は聞けないか。
そう判断した僕は、イスから立ち上がり、改めて礼を述べる。
「協力に感謝する。それだけ聞ければ充分だ」
「ふん。好きにするがよい。もう人間にはなにもできん」
「ふふ、そうはさせんさ」
互いに不気味な声で笑いあうと、僕は改めて身を翻す。
魔王復活まで、あとわずか。
できることをやっておかねば――
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