たいへんだーあっちの方角から敵が攻めてくるー(棒)
「ねえ、アルル」
「ん?」
「そろそろ起きる時間なんだけど」
「やだ。離れたくない」
――翌朝。
魔術都市ナーロットの宿にて。
同じ部屋で眠った僕たちを、暖かな朝日が出迎えた。
アルルと身を寄せ合って寝る。
最初は気恥ずかしかったけど、恋人となったからには、超えなければならない壁だ。
心中に巡る様々な葛藤を乗り越えて、僕たちは同じベッドで眠った。
――正直、よく寝付けなかったけど。
それでも、僕は監視者C。
恋愛だけにうつつを抜かしている場合ではない。
やらねばならないことがあるんだ。
――が、意外にも甘えん坊だったアルルは、それを許すことがなく。
「やだー。もっと一緒にいたいー」
とベッドのなかで抱きついてくる始末だ。
うん。
改めて言うが、ギャップが半端ない。初対面のときはそれこそ氷のごとき冷たさだったのに、そういう人ほど本質は甘えたがりなのか。
「ア、アルル……。僕も一緒にいたいけど、いまはやるべきことが……」
「はぁ。もう。わかってるって」
アルルは上半身を起こすと、にんまりと笑った。
「今日はたしか、捕まえたゴブリンの様子を見に行く……だっけ」
「うん。それもある」
あとは、老いたゴブリンの拠点に置いてあった器具の数々。あれの解析を、ナーロット魔術学園に依頼しておいた。
あの謎めいた器具からも、なにかしらの手がかりが得られるかもしれない。そう思っての提案だ。先生たちは当初驚いていたが、快く依頼を引き受けてくれた。
その途中報告も聞きにいきたいところだ。
僕は黒装束を身につけ、仮面を被り、頭のスイッチを切り替える。
いまから僕はC。
クラージじゃない。
「さて、では行くとしようか」
「Cかっこいい!」
「どわっ!」
アルルが背後から抱きついてきたせいで、足がもつれて転んだ。
「アルル。こ、これはいったいどういうことだ」
「……へ? どうしたの?」
彼女にとってはこの光景が普通なんだろう。人々に羨望の眼差しを向けられてもなお、まったく動じる様子がない。
「お、おい、あそこにいるのはC様じゃないか……?」
「なんと……アルル様もご一緒とは……」
魔術都市ナーロット。その街中。
僕ことCは、魔物の拠点を制圧したことで名をあげた。
さらにはこの怪奇な防具も相俟って、人々の注目を浴びやすい。《最強の監視者》として知れ渡った僕は、歩くだけで尊敬の眼差しを向けられる。
そして――隣にはSランク冒険者たるアルル。
周囲の人々はエリート同士のカップルとでも思っているのだろうか。
「ああ……俺もC様のようになりたい……」
「ばか、おまえには無理だ」
「せめてアルル様のような方とお付き合いできたらな……」
というざわめきが所々で聞こえてくるので、正直気が気じゃない。こんなん調子狂うわ。
――が、アルルにとってはやはり、ありふれた日常に過ぎないらしい。
まわりの様子を意に介さぬまま、
「C♪」
と腕を絡めて甘えてくる始末。
「!? ア、アルル様が……」
「おいおい、噂は本当だったのか……」
「C様とアルル様が……」
ほら見ろ面倒なことになった。
「おい、やめんかアルル」
「え? なんで?」
なんでってのがあるか。
もう億劫になってきたので、僕は《未来予知》スキルを使うフリをする。
「……数分後、よくわからない謎の集団が攻めてくる。周囲の警戒にあたってくれないか」
「……!? わかったわ!」
大真面目な表情で頷き、アルルは剣の柄を手に取る。
「敵はどこから攻めてくるの?」
「そうだな。あっちのほうからだ」
「わかった。あっちほうからね」
という盛大な嘘をついて、なんとかこの場を乗り切った。
あとでめちゃくちゃ怒られた。
★
「ふんだ」
「まあまあ、そう怒るな」
頬を膨らますアルルを宥めつつ、僕は目的地に向かう。
ちなみにアルルだが、さすがに《恋愛》と《仕事》の切り替えくらいは心得ており、いま拗ねているのも結局は《甘えたいだけ》のようだ。
だから本気で機嫌を損ねているわけではない。
そういったところも愛おしいし、そんな女性がいまや僕の恋人なのだ。なんだか不思議な感慨を抱きつつ、僕は目前の建物を見上げる。
――ナーロット拘置所。
その名の通り、この近辺で罪を犯した者が一時的に収容される場所だ。この街は魔法面に優れているためか、拘置所におけるセキュリティも余所より強力とのこと。
《喋るゴブリン》という未知なる魔物が収容されているのも、そういった理由からだと思われた。
歩くにつれ、無機質な鉄の建造物が見えてくる。
「…………」
アルルがさっと僕から身を離した。やっぱり、ちゃんとモードを切り替えられる女性なんだろう。
「ここに……あのゴブリンがいるのね……」
「ああ。一番奥の部屋に監禁されているようだな」
そしていま現在、いっさい口を割っていないのだという。
魔王様に対する不義理はできない……というのがその理由らしい。こちらがいかに強行的な手段に出ようとも、苦しそうに呻くばかりで、まったく自白しないのだとか。
「あのときは小心者とばかり思っていたが……意外な一面もあるものだな」
「うん。でも……あいつが私たちにした罪は消えないよ」
それはその通りだ。
ゴブリンたちにどんな思惑があるのか知らないが、僕たちはそれを探らねばならない。魔王の復活など、断じて許してはならない。
「あ……Cさんと、アルルさん」
ほどなくして、両脇に立つ門番に話しかけられた。
「ああ。すでに連絡はいれているはずだ。ゴブリンのもとへ案内してくれないか」
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