表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/45

アルルのドタバタ劇

 監視者C。

 その知名度は瞬く間に広まっていった。


 たった三人で数多くの魔物を撃退したこと。

 捕らわれた冒険者の保護。

 そして、ヤルナ街に魔物が潜んでいるのを見抜き、的確に対処したこと。


 それだけのことをたったの一日でやり遂げたのだから、我ながら大胆だったというか。知名度が爆発的に高まるのも、ある意味で当然といえた。 


 いまでも忘れられない。


 魔物たちとの《通信》を終えたあとの、冒険者らの拍手喝采を。

 その全員が、尊敬の眼差しで僕を称えてくれた。


「すげえ! あんたすげえよ!」

「これほどの逸材がギルドにいたとはな……」


 鳴り響く拍手のなかで、僕は実に温かな言葉を投げかけられた。 


 ここまで言われてしまっては、僕としては背中がむず痒くなってしまう。

 だって、いままで誰かに賞賛された経験なんて――数えるほどしかないんだ。いつもは無能とかクズとしか言われなかったのに。いきなりこんなこと言われても……


「……む。えっと……」


 エコーのかかった男声でたじたじする僕に、アルルはふふっと吹き出す。そして大胆に僕の腕を掴むや、さながら天使のような微笑みを浮かべた。


「お疲れ様。とっても素敵だったわよ、C」


 彼女の瞳にも変化が生じていた。

 いままでも充分なくらいの好意を感じていたのだが、今度は尊敬の度合いも強く混ざっている。今回の戦いを、彼女も評価してくれたのだろう。


「あらま! 大胆!」 

 そしていつも通り、それを見たネーシャがからかいだす。わざとらしくハンカチで目元を抑え、涙声っぽい声を出した。

「うぅ……あのアルルが大人の階段をねぇ……。お姉さん、感慨深いわ……」


「って、変なこと言わないでよ!」


 顔を真っ赤にして反論するアルル。その反応がいつも以上に可愛くて、僕にしても数秒だけ見惚れてしまった。


 ――が、ここはあくまで敵の本拠地。グダグダ話すのは適切ではない。


「諸君。改めて礼を言おう。此度の共闘、非常に助かった」


 僕は一歩前に踏み出しながら、力強く言い放った。


「だが、これで脅威が去ったわけではない。依然として魔物どもは不穏なことを企んでいる。これに胡座をかくことなく、今後とも気をつけて依頼に励むように。それでは――失礼する」


 そうして立ち去る僕ら三人を、冒険者たちはまた声援によって送ってくれたのだった。


 一瞬で魔物を葬り去った、監視者C。

 その逸話があっという間に拡散されることになるのも、当然の流れだった。


 ★


「で、でもさ……これはいくらなんでもやりすぎっていうか……」


 ――魔術都市ナーロット。

 その宿にて。


 新聞記事を広げながら、僕は大きくため息をついた。

 記事にはこう書いてあったのだ。


 ・神の力を授けられし監視者

 ・最強スキル《神眼》の持ち主

 ・魔王さえも恐れぬ大胆不敵な人物


 ……誇大もいいところである。

 やりすぎだ。


「なんだよ神の力って……そんなのがあったら苦労しないよ……」  


 いまだブツブツ言う僕に対し、同室のソファでくつろぐアルルがくすくす笑う。


「仕方ないじゃない。あえて姿を隠してるんだから、憶測が憶測を呼んでるのよ」


「だ、だって……」


「いいのよ。私はむしろ、クラージへの賞賛はこれくらいじゃ足りないと思ってるわ」


「いやいやいや。充分すぎるってば」


 黒装束があって本当に良かった。

 姿を晒した状態でこんなに知名度が上がったら――恐ろしくて夜も眠れない。


「はぁ。もういいよ」


 僕はぽいっと新聞記事をゴミ箱に投げ捨てる。

 そうでなくとも街中がCの話題で持ちきりなのだ。エゴサするだけ毒である。


 そのままぷいっと頬を膨らませていると、アルルが僕の隣――つまりベッドの縁――に腰掛けてきた。


「でもね……私、本当に嬉しいのよ。正体は隠してるけど……やっとみんな、クラージのことをわかってくれてる」


「アルル……」


 ぽつりと呟く僕。


 そういえば――彼女の服装はいつもより大胆だ。

 胸元など大きく開けているし、黒いミニスカートもかなり短い。

 彼女のガードの堅さはギルドでも有名だし、冒険者として活動するときにはきちんと防具を着用しているのに。 


 なんだってこんな服装なのか。


 だから意図せぬうちに、視線がよくない方向へ向いてしまう。


 僕は慌てて首を左右に振り、アルルの話の続きに耳を傾けた。


「私、失職させたことが本当に申し訳なくて……。これで……すこしは償えたかしら」


「…………」


 その言葉に、僕はなるほどと思う。


 償い。

 僕もアルルも、それのために突き動かされてきた。


 僕は、見殺しにしてしまった幼馴染み――ユージェス・レノアのため。

 そしてアルルは、仕事を追い出された僕のため。


 偶然か必然か、それぞれ似たような動機で動いてきたんだ。

 それを思えば、彼女の必死なまでの献身っぷりを、痛いほどに理解できてしまったから。


「アルル。ありがとう。もう充分さ」


「え……」


「たしかに僕は職を失ったけど……それ以上に得るものあった。もう充分すぎるほどアルルから貰ってる。だからもう……そんなに追いつめないでいいよ」


「…………」


「それに僕は、アルルといられるだけで幸せさ。君のおかげで――どれほど救われたことか」


「……っ!」


 瞬間、アルルが急に顔を赤くする。ぼふっと湯気でも出てきそうな勢いだ。


「……ん? どうしたの?」


「んんんんんんーーーー!」


 そしてなぜか地団駄を踏むと、

「えいっ!」

 といきなり足を踏んできた。


「痛っ! なにすんだよ!」


「ふんだ! さすがに乙女心を弄ぶのは許しません!」


「な、なにを……」


 わけがわからない。

 いつも冷静なSランク冒険者様はどこにいったのか。


「はああ、もう。駄目ね。冷静になれ、私!」


「え、えっと。アルル? どうしたの?」


「いや。その……あのね」

 そして視線をさまよわせるや、大きく息を吸い込み、意を決したように僕を見据えた。

「あの。す、すすすす好きになったかもしれなくもしれなくもないわ、クラージ」 


「…………」

 僕はしばらくぽかんと放心し。

「え!?」

 とでかい声を発した。


「わ、わあああああああ!」


 アルルは顔を真っ赤にしたまま、部屋を飛び出して逃げていった。

 


お読みくださいましてありがとうございました!


【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】


すこしでも

・面白かった

・続きが気になる


と思っていただけましたら、ブックマークや評価、レビューをぜひお願いします。


評価は広告の下側にある★ボタンのタッチでできます。

また、ブックマークはページ内の「ブックマークに追加する」ボタンから行なえます。


あなたのそのポイントが、すごく、すごく励みになるんです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン


何卒、お願いします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 2人がカワイイw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ