アルルのドタバタ劇
監視者C。
その知名度は瞬く間に広まっていった。
たった三人で数多くの魔物を撃退したこと。
捕らわれた冒険者の保護。
そして、ヤルナ街に魔物が潜んでいるのを見抜き、的確に対処したこと。
それだけのことをたったの一日でやり遂げたのだから、我ながら大胆だったというか。知名度が爆発的に高まるのも、ある意味で当然といえた。
いまでも忘れられない。
魔物たちとの《通信》を終えたあとの、冒険者らの拍手喝采を。
その全員が、尊敬の眼差しで僕を称えてくれた。
「すげえ! あんたすげえよ!」
「これほどの逸材がギルドにいたとはな……」
鳴り響く拍手のなかで、僕は実に温かな言葉を投げかけられた。
ここまで言われてしまっては、僕としては背中がむず痒くなってしまう。
だって、いままで誰かに賞賛された経験なんて――数えるほどしかないんだ。いつもは無能とかクズとしか言われなかったのに。いきなりこんなこと言われても……
「……む。えっと……」
エコーのかかった男声でたじたじする僕に、アルルはふふっと吹き出す。そして大胆に僕の腕を掴むや、さながら天使のような微笑みを浮かべた。
「お疲れ様。とっても素敵だったわよ、C」
彼女の瞳にも変化が生じていた。
いままでも充分なくらいの好意を感じていたのだが、今度は尊敬の度合いも強く混ざっている。今回の戦いを、彼女も評価してくれたのだろう。
「あらま! 大胆!」
そしていつも通り、それを見たネーシャがからかいだす。わざとらしくハンカチで目元を抑え、涙声っぽい声を出した。
「うぅ……あのアルルが大人の階段をねぇ……。お姉さん、感慨深いわ……」
「って、変なこと言わないでよ!」
顔を真っ赤にして反論するアルル。その反応がいつも以上に可愛くて、僕にしても数秒だけ見惚れてしまった。
――が、ここはあくまで敵の本拠地。グダグダ話すのは適切ではない。
「諸君。改めて礼を言おう。此度の共闘、非常に助かった」
僕は一歩前に踏み出しながら、力強く言い放った。
「だが、これで脅威が去ったわけではない。依然として魔物どもは不穏なことを企んでいる。これに胡座をかくことなく、今後とも気をつけて依頼に励むように。それでは――失礼する」
そうして立ち去る僕ら三人を、冒険者たちはまた声援によって送ってくれたのだった。
一瞬で魔物を葬り去った、監視者C。
その逸話があっという間に拡散されることになるのも、当然の流れだった。
★
「で、でもさ……これはいくらなんでもやりすぎっていうか……」
――魔術都市ナーロット。
その宿にて。
新聞記事を広げながら、僕は大きくため息をついた。
記事にはこう書いてあったのだ。
・神の力を授けられし監視者
・最強スキル《神眼》の持ち主
・魔王さえも恐れぬ大胆不敵な人物
……誇大もいいところである。
やりすぎだ。
「なんだよ神の力って……そんなのがあったら苦労しないよ……」
いまだブツブツ言う僕に対し、同室のソファでくつろぐアルルがくすくす笑う。
「仕方ないじゃない。あえて姿を隠してるんだから、憶測が憶測を呼んでるのよ」
「だ、だって……」
「いいのよ。私はむしろ、クラージへの賞賛はこれくらいじゃ足りないと思ってるわ」
「いやいやいや。充分すぎるってば」
黒装束があって本当に良かった。
姿を晒した状態でこんなに知名度が上がったら――恐ろしくて夜も眠れない。
「はぁ。もういいよ」
僕はぽいっと新聞記事をゴミ箱に投げ捨てる。
そうでなくとも街中がCの話題で持ちきりなのだ。エゴサするだけ毒である。
そのままぷいっと頬を膨らませていると、アルルが僕の隣――つまりベッドの縁――に腰掛けてきた。
「でもね……私、本当に嬉しいのよ。正体は隠してるけど……やっとみんな、クラージのことをわかってくれてる」
「アルル……」
ぽつりと呟く僕。
そういえば――彼女の服装はいつもより大胆だ。
胸元など大きく開けているし、黒いミニスカートもかなり短い。
彼女のガードの堅さはギルドでも有名だし、冒険者として活動するときにはきちんと防具を着用しているのに。
なんだってこんな服装なのか。
だから意図せぬうちに、視線がよくない方向へ向いてしまう。
僕は慌てて首を左右に振り、アルルの話の続きに耳を傾けた。
「私、失職させたことが本当に申し訳なくて……。これで……すこしは償えたかしら」
「…………」
その言葉に、僕はなるほどと思う。
償い。
僕もアルルも、それのために突き動かされてきた。
僕は、見殺しにしてしまった幼馴染み――ユージェス・レノアのため。
そしてアルルは、仕事を追い出された僕のため。
偶然か必然か、それぞれ似たような動機で動いてきたんだ。
それを思えば、彼女の必死なまでの献身っぷりを、痛いほどに理解できてしまったから。
「アルル。ありがとう。もう充分さ」
「え……」
「たしかに僕は職を失ったけど……それ以上に得るものあった。もう充分すぎるほどアルルから貰ってる。だからもう……そんなに追いつめないでいいよ」
「…………」
「それに僕は、アルルといられるだけで幸せさ。君のおかげで――どれほど救われたことか」
「……っ!」
瞬間、アルルが急に顔を赤くする。ぼふっと湯気でも出てきそうな勢いだ。
「……ん? どうしたの?」
「んんんんんんーーーー!」
そしてなぜか地団駄を踏むと、
「えいっ!」
といきなり足を踏んできた。
「痛っ! なにすんだよ!」
「ふんだ! さすがに乙女心を弄ぶのは許しません!」
「な、なにを……」
わけがわからない。
いつも冷静なSランク冒険者様はどこにいったのか。
「はああ、もう。駄目ね。冷静になれ、私!」
「え、えっと。アルル? どうしたの?」
「いや。その……あのね」
そして視線をさまよわせるや、大きく息を吸い込み、意を決したように僕を見据えた。
「あの。す、すすすす好きになったかもしれなくもしれなくもないわ、クラージ」
「…………」
僕はしばらくぽかんと放心し。
「え!?」
とでかい声を発した。
「わ、わあああああああ!」
アルルは顔を真っ赤にしたまま、部屋を飛び出して逃げていった。
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