監視者Cに、魔物たちは恐怖する。
勝敗は決した。
あれだけ猛威を振るっていたクリムゾンワイバーンも、魔物群も、もういない。
すべての魔物が狩り尽くされ、あとには静寂だけが残された。
「ば、ばばばば、馬鹿なぁっ!」
老いたゴブリンが奇声を発する。
「ありえない! いったいなにが起こったというのだ!」
「足掻くな。勝敗はすでに決している」
僕は冷たい声でゴブリンを制する。
それに反応するかのように、他の冒険者たちも一斉にゴブリンに視線を向けた。
アルルやネーシャのみならず、ボドルスたち全員の殺気が、ゴブリンに集中する。
「あ、あひぃ……」
さすがに堪えたか、ゴブリンは情けない声とともに後退する。化けの皮が剥がれればどうってことのない、ただの小心者だな。
そして僕の《未来予知》通り、後方に置かれている器具類へと逃げていく。
「C! あ、あいつ逃げるわよ!」
「構わん。行かせておけ」
アルルの呼びかけにも、僕は動じない。あいつにはまだ利用価値がある。ひとまず泳がしておきたい。
ゴブリンは慌てた様子で棒状の器具を取り上げる。
そしていくつかのボタンを押し込むや、棒に向かって大声を張った。
「至急至急! こちらG23地区!」
なるほど。
あれで遠隔にいる者たちと連絡を取り合っているようだな。
「む……!?」
「は、博士……。その光景は……いったいどうなされたのですか!?」
通信カードと似ているが、ゴブリンの利用しているそれは、四人以上の者とも連携が取れるようだ。返ってくる声がかなり多い。
……それだけではない。
ゴブリンがどこかのスイッチを押した瞬間、なんと壁面にいくつもの映像が浮かび上がったではないか。
そのどれもが違う風景を映している。洞窟内であったり、野外であったり、建物内であったり。
その光景は様々だが、ひとつ共通点があるとすれば、映像の中央に魔物の姿が大きく映っていること。あいつらが《声の主》たちか。
「……なるほど。視覚的情報も共有できるとはな」
そんな器具、少なくとも魔術都市ナーロットでさえ普及されていないはずだ。
なぜそんなものを魔物が使っているのか……非常に興味がある。
だが、それはとりあえず後回し。いまは他にやるべきことがある。
僕はつかつかとゴブリンの元へ歩み寄ると、棒状の器具を奪い取った。
「いっ! なにをする! やめろ!」
ゴブリンが必死にも抵抗してくるが、悲しいかな、走り出したアルルに一瞬で無力化された。
「なっ……。あれは人間……!?」
「いったいなぜ我々の拠点に……!?」
壁面上でどよめく魔物たち。
おそらくだが、こちら側の映像も相手に映っている。
僕は大きく両腕を広げて言った。
「聞こえるか! 姑息な魔物どもよ! 私はC。世界の監視者だ」
「な……!」
「なんだおまえは!」
いくつもの声が返ってくる。通信カードのそれよりだいぶ鮮明な声だ。改めて質の違いを感じるな。
「貴様らの拠点のひとつ――G23とやらはすでに制圧した。見るがいい。貴様らの同胞はすでに無力化した。これが我々の力だ」
「ば、馬鹿な……。たったそれだけの人数で……?」
緑色のローブを被った魔物が呆然とした様子で呟く。
「拘束したゴブリンから情報を得られれば、我々の快進撃はさらに加速する。――恐れるがよい。貴様らの命も、そう長くは保つまい」
「お、おのれ……」
「我らを脅す気か……? 人間の分際で……」
「ふざけるな! そんなものに屈してなるものか!」
その反応に、僕はふっと笑う。
「愚かな者どもよ。いつまでそう言ってられるかな?」
そう言いながら、僕はある映像を見つめる。
映っているのは、たくましい角を生やした半人半獣の魔物。見た目だけでいえば、Bランク級の魔物――ミノタウルスに似ている。
「そこの貴様。いまはヤルナ街に溶け込んでいるな。潜伏先は図書館の地下室か」
「な、なに……」
漆黒の瞳孔を大きく見開くミノタウルス。
「ふふ……やはりな」
僕は不敵に笑ってみせた。
からくり自体は簡単だ。
港町で受付係をやっていた際、魔物がその場所まで遺体を運ぼうとするのが視えたから。
――ヤルナ街。
港町からわりと近くにある街だ。
さらにミノタウルスが潜伏している《拠点》は、ここの洞窟よりセキュリティが甘い。地下室への行き方さえ掴めれば、腕のたつ冒険者なら簡単にたどり着ける。
……まあ、街中に無理やり拠点をつくった弊害だな。
「気をつけるがいい。たったいま、この瞬間に……Aランク冒険者を派遣しておいた」
「は……!?」
「ははは。まさか本当に的中するたぁな」
「…………っ!?」
ミノタウルスの背後に、僕が協力を要請した冒険者が姿を現す。彼はアルルに全面的な信頼を寄せていたから、僕の一見意味不明な頼みごとも引き受けてくれた。
まさか、受付係としての経験がこんな形で役立つことになろうとは。
「ば、馬鹿な……。なぜ……!」
ぶるぶる身体を震わせ、ミノタウルスは逃げようとする。
が、僕が派遣したのはAランク冒険者。
みすみす逃がしてしまうような愚は犯さない。
「おらよっと!」
「ぬああああああっ!」
冒険者に襲いかかられ、ミノタウルスは呆気なく倒れ込む。老いたゴブリンと同様、拠点の管理者が必ずしも強いわけではないようだ。
沈黙が降りる。
壁面に映った魔物たちが、あっけらかんとした表情で固まっている。
きっと、誰もが信じられないんだろう。
たった一瞬で、二つもの拠点が潰されたことに――
「これでわかったかな」
僕の発した声に、魔物たちがびくっと身を震わせる。
誰もが恐怖の表情を浮かべていた。Cという、謎きわまりない人間に。
「私にとって、貴様らの殲滅は容易なこと。もし軽率な行動を取ろうものなら――容赦なく殺す。一匹残らずな」
かなり誇張された言い方だが、これくらいがちょうどいい。魔物の行動を数日だけでも封じ込めるには。
「監視者C……なんという化け物か……」
一体の魔物がぽつりと呟く。
「……以上だ。貴様らの英断を、期待している」
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