僕はC。正体は明かせない。
ルミア以外にも、洞窟内には多くの冒険者が監禁されていた。
それぞれ別室で閉じこめられているのは、結託による脱走を防ぐためだと思う。被害者はすべて、戦闘を本職とする戦士たち。個々では脅威にあらずとも、結束されればどうなるかわからない。
その意味では、この洞窟の管理者はある程度知能に優れた者と見ていいだろう。所々に仕掛けられているトラップといい、戦闘力だけが取り柄の奴にできる所行ではない。
被害を受けた全員が、ルミアのようにひどく傷つけられていた。なかには、ルミアと同じく心にトラウマを負った者まで……
そういった被害者を除き、そこそこ動けそうだと思った冒険者には、僕は小声で《頼み事》をしておいた。
きたるべき試練を乗り越えるために、間違いなく必要なことだからだ。僕は、僕の無能さをよく知っている。
そして現在、僕は見覚えのある冒険者の拘束を解いていた。
「へへ……。すまねえな」
地下通路の一室。
四角に切り取られた薄暗い室内で、彼は手足の自由を奪われていた。
Cランク冒険者――ボドルス・グイーガ。
冒険者ギルドにおいて、僕が一番《人助け》に苦労した男である。体格に優れているうえに気性が荒い。さらに僕をこの上なく忌避している。毎回、依頼を拒否する言い訳に悩んでいたのを覚えている。
「へ、へへへ。そうか。侵入者ってのは、おまえさんたちかい」
申し訳なさそうに笑うボドルス。
彼のそんな表情を見るのは初めてだった。
「ま、そういうことね」
アルルが澄まし顔で答える。
「あなたもいきなり襲撃されたクチかしら? 不思議な力を持った魔物たちに……」
「ああ。そうだな」
そう呟くボドルスの顔は暗い。
「あいつら、マジで化け物だぜ。さっきなんか、喋るゴブリンみたいな奴がいて……他の魔物を配下にしてた」
「喋るゴブリンが……?」
その言葉に僕は驚嘆を禁じ得ない。
ゴブリンは知能力も戦闘力もたいした特徴を持たない魔物のはず。だから新米冒険者がまず初めに対峙すべき魔物として、ゴブリンが挙げられる。
そんな魔物が……知能を持ち、あまつさえ他の魔物を従えている……?
にわかには信じがたい。
が――ボドルスが嘘をついているとも思えない。
「うーん。それが本当なら、かなり厄介ね……」
思案顔で頷くネーシャに、僕も同様の反応を示す。
「そうだな……。まったく未知の魔物となると、対策が難しくなる」
「そうね……」
いくらSランク冒険者が味方についているとはいえ、油断はできないということか。
まあ、端から侮る気はないが。
「それに……ネーシャ。この違和感は、他の事件とも結びつかないか?」
「え……」
目を丸くするネーシャにくるりと背を向け、僕は歩きながら喋り続ける。
「アルルでさえ敵わなかった骸骨剣士。人間に化けることのできたゴルゴンロード。そして――高い知能を持つゴブリン。その事案すべてが、魔物の本来の力を越えた能力を持っている」
「そ、そういえば……」
「やはり裏があると見たほうがいいな。一連の事件を牛耳っている、大きななにかを……」
現状では残念ながら、未来予知ではそこまで見通せない。このスキルはあくまで将来を予知するもので、透視能力ではないからだ。
まあいい。
それはいずれわかることだ。
いまは、いまやるべきことがあるはず……!
「…………」
そんなふうに考え込む僕を、ボドルスがじっと見つめてきた。
「……どうした。顔になにかついているか」
「いや……そうじゃねえ。あんた、見ねえ顔だよな。Sランク冒険者を連れてるってなると、名前くらいは知ってるはずだが……」
「…………」
「……なああんた、前にどっかで会ったことあるか?」
なんと。
これは驚いた。
変装は完璧なはずだ。
まさか僕の正体に気づいたというのか。
「……会った記憶はない。なぜそう思う」
「いや。この《助け方》はよ、あいつにそっくりなんだ。どうにも間抜けで好かねえ野郎だったが……なんとなく思ったんだ。俺は……あいつに守られてた」
「……ぁ」
アルルが大きく目を見開く。
それでもなにも言わないのは、彼女なりの気遣いだろうか。
「……なんのことだかわからんな」
「はは。そうか」
ボドルスはそう言うなり、にかっと笑う。
「なら、これ以上は俺もなにも言わねえ。それでも――ひとつだけ、言わせてくれ」
ボドルスはまっすぐに僕の目を見据えると、澄んだ瞳で言った。
「――助けてくれてありがとよ。おまえは命の恩人だ。困ったことがあったらよ、今度は俺が助けてやる。だから……次からは頼ってくれや」
「…………ぐずん」
アルルがバレないように泣いていた。
馬鹿め。
そんな反応したら気づかれてしまうじゃないか。
いままでずっと……ひとりで……誰にも気づかれないようにしてたのに……
「ああ……そうさせてもらうとしよう」
僕は努めて涙声にならないよう意識しながら、差し出された握手に応じるのだった。
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