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おまえを死なせないために。

 ★

 

 アストレア樹海。

 その地下通路を、僕たちはひたすらに進んでいた。


 やはり最初のギミックには相当の力を入れていたようだ。


 道中にも様々な罠が仕掛けられていたが、最初ほどは難易度が高くない。


 未来予知による戦略と、アルルたちの飛び抜けた戦術。

 これさえあれば、いかに大勢の魔物が相手であろうとも、立ち向かうことができる。


「ねえ、C。なんで罠にわざとハマってるの?」


 道中、アルルがこんなことを聞いてきた。


「なんだ。気づいていたか」


「うん。だって、前は魔物のいない通路を案内してくれたのに……」


「もちろん今後のためだ。徒らに進んでいるわけではない。そこは安心してくれ」


「……ならいいけど」


 そうして破竹の勢いで進む僕たちは、現在、細い通路を歩いていた。

 人ひとりがやっと歩けるというくらい、やけに細まった通路だ。


「あ……」


 ふいにアルルが立ち止まる。

 その視線の先には、頑丈そうな扉がひとつ。


「どうした」


 問いかける僕に、アルルは神妙な顔つきで答える。


「……人の気配がする。そんなに多くないけど……」


「む……。魔物じゃないのか」


「うん。魔物は一匹もいない……」


 なるほど。

 骸骨剣士やゾンビたちが連れ去る予定・・だった遺体は、もしかすればここに収容される手筈だったのかもしれない。この扉もたしかに見覚えがあるような……


「どうする? 行ってみる?」


「そうだな……」

 とりあえず未来予知を発動してみる。たしかに魔物は潜んでいないようだ。だが――

「入ろう。大事な用事ができた」


「大事な……?」


 目を瞬かせるネーシャ。

 アルルも同様の反応だ。


 だが、説明している猶予はない。どの道、なかに入ればわかることだ。


 僕は取っ手に触れ、そのまま横方向にスライドさせる。重苦しい金属音をたてながら、扉は嫌そうに内部の状況を晒しだした。


「…………っ」


 室内の光景を見たとき、全員が一様に顔をしかめた。


 ――死体の山。


 そうとしか表現できない光景が広がっていたのである。

 さぞ苦しみながら逝ったのだろう。転がっている遺体の多くが、苦悶に表情を歪ませたまま固まっている。数えるもおぞましい死体の数々が、そこにあった。


「くっ……これはひどい……!」


 右腕で鼻をおさえながら、ネーシャが呟く。


 僕とても、この風景には驚きを禁じえなかった。


 ――いや。よくよく考えればわかったことだ。

 魔物たちは魔王の復活をもくろんでいる。そのために強者の生き血を求めている。


 だから、僕の手が届かない場所においても、同様の暴挙が繰り広げられていたんだ。


 まさか、ここまで多くの被害者を出しているとは思わなかったが……


「ひどい。虫酸が走るわね……!」


 アルルも怒りをあらわにする。

 僕が助けにいかなかれば、彼女もこのような末路を辿っていたのだ。


「ああ……。許せないな。絶対に」


 僕の未来予知によって視えた違和感は、やっぱり間違っていなかった。港町ルーネの冒険者が標的にされるより前から、この陰謀は進んでいたのだ。


 そして。 

 モゾモゾ――と。


 どこからかそんな音が聞こえてきた。アルルもネーシャも聞き取ったようで、二人して目を合わせている。


「C……。まさか……!」


「ああ。そのまさかのようだ」


 目を見開くネーシャに応じつつ、僕はある地点へ向けて歩み出す。そこは瓦礫がれきが積まれており、身を隠すにはうってつけの場所だった。


「……っ」

 そして僕が生存者の姿を確認したとき、彼女はひどく怯えた様子で尻餅をつく。

「ご、ごごごごめんなさい! も、もう暴れないからっ……!」


「ルミア……」


 その女性には見覚えがあった。

 港町ルーネを拠点とする冒険者で、やたらと気の強い女性だ。アルルほどではないが。


 例のごとく僕を嫌っていて、僕がカウンターに立っていると、わざわざ別の係を呼び出すほどだった。


 口癖は「キモい、失せろ」。

 僕に対してはかなり口が悪かった。


 そんな彼女が――瞳を収縮させ、表情を青くし、悲痛な声で懇願してくる。

「た、助けて。命だけは……」

 と。


「ルミア……。よほど怖い目に遭ったんだな」


「え……?」


 ここにきてようやく僕が人間だと気づいたのだろう。彼女の様子が少しずつ落ち着いていく。


「いいや。なんでもないさ」


 僕は仮面のなかで優しく笑うと、懐から液体入りの瓶を取り出す。


 ――S級回復薬。

 これを振りかけられた者は、たちどころに傷が全回復する。

 樹海に来る前、薬屋で買ってきた。かなり値段が張るが、こうなるのはわかっていたから。


「あ……」

 僕に薬を振りかけられ、ルミアは驚きの声を発する。

「こ、こんな高い薬を……。どうして……?」


「決まってるだろう。おまえを死なせないためだ」


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