未来予知があれば、敵の陰謀もお見通しです。
さて。
ゴルゴンロードの自爆を凌ぐことはできたが、まだ終わっていない。
――僕には視えているんだ。
ほどなくして、これから大勢の魔物がギルドに攻めてくるのが。
人間に化けた怪物たちが、いっせいに冒険者たちを襲いかかるのだ。
その理由は明白。
冒険者たちの生き血が欲しいのだ。
だからまず自爆によって人間たちを無力化し――後から襲撃してくる魔物らが遺体を回収する。
そのような手筈になっているようだ。
やはり各地の魔物たちが、魔王の復活へ向けて動き始めている……
これは早急に手を打たねばなるまいか。
それだけの思考を一瞬で巡らせたあと、僕はちらりとアルルを見据える。
『……うん。わかってる』
彼女も僕と同じ予測に行き着いたのだろう。こくりと頷き、続けて念話を送ってきた。
『とりあえず、ここにいる冒険者たちは逃がしたほうがいいわよね? こんな狭いところで戦うのは大変だわ』
『そうだね……。でも正面玄関じゃ駄目だ。魔物たちが待ちかまえてる』
『――それなら、地下から出ていってもらいましょう』
そう提案したのはネーシャ・ミラー。
『緊急脱出用として、地下区画に通じる階段があったはずよ。そこなら魔物たちに気づかれずに逃げられるでしょう』
『…………』
僕は念のため、未来予知でその地下区画を視る。
――うん、大丈夫だ。
さすがにそこまで魔の手は及んでいない。
『そうしましょう。……ネーシャさん、避難誘導は任せてもいいですか?』
『ふふ。もちろんよ』
そして人差し指を自身の唇にあてがうと、妙に色っぽい笑みを浮かべた。
『あなた、見かけによらず男らしいじゃない♡ アルルが惚れるのもわかる気がするわ』
『なっ……』
『ちょっとネーシャっ!』
『ふふ、冗談よ♪』
悪びれもなく笑う年上お嬢様。
『……でも、男らしいっていうのは本当よ。あなたほどの人が、無能だなんだって言われていたなんてね……。気づけなかった私も私だわ』
「ネーシャさん……」
思わず小声で呟いてしまう。
そんな僕にネーシャは一瞬だけ優しげに微笑み――そしてきりっと表情を切り替える。
『ま、湿っぽい話は後ね。いまは各自、やるべきことをやりましょう。――クラージ君、アルル……絶対、生きて帰るわよ!』
『はい……!』
『当然……!』
ネーシャの発破に、僕たちは再度、気合いを入れるのだった。
冒険者たちの避難は想像以上にスムーズだった。
なにしろ全員が現役の戦士たち。
日頃から戦場に身を置いているためか、ネーシャが軽い指示を出したあとは、一切もたつくことなく避難が完了した。
僕としては大助かりである。
なにしろ――
「どーもぉ! 人間さんたち、生きてますかー?」
避難を終えてちょうど、人間に扮した魔物たちが攻め込んできたからである。
その数――五体。
まあ、いくら人間に化けているとはいえ、いきなり大所帯で街を訪れたら怪しまれるからな。そう判断しての人数なんだろうが――見誤ったな。
その数では、二人のSランク冒険者には適わない。
「……って、へ? あれ? あれ? ちょっと」
先頭に立つ好青年ふうの魔物が、目を見開き、後頭部をさする。
「おかしいな。どうなってる?」
「残念ね。魔物さんたち」
アルルが剣を抜き、冷ややかな目を魔物たちに向ける。
「冒険者たちはここにはいない。――あなたたちには、ここで死んでもらうわ」
「馬鹿な……! 策を読まれていただと……!」
青年が表情を歪ませる。
「しかもおまえは……Sランク冒険者の……!」
「あら光栄。魔物に名前を覚えてもらってるなんてね」
「う、う、ウガアアアアアア!」
やばいと思ったのか、青年が本性を剥き出しにして逃走を図る。爽やかイケメン風だった外見が、突如として醜いゾンビ姿に。
「あらん♡ どこいくの?」
艶っぽい声とともにゾンビに立ちふさがるは、Sランク冒険者たるネーシャ・ミラー。
両手で鞭をしならせながら、自身の唇を怪しげに舐める。顔には邪悪な笑みを添えて。
鞭。
あれが彼女の武器なんだろう。
なんだか、イメージにそっくりというか……
「ふふ。簡単には逝かせないわよ。鞭に叩かれる喜び……存分に味わわせてあげるわ」
「ネ、ネーシャったら……」
呆れ顔を浮かべるアルルだった。
その後、ギルド内部からゾンビの痛ましい呻き声が聞こえてきたとして、魔術都市の都市伝説がひとつできあがりました(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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