未来予知で無双するけど、Sランク冒険者がいるから気づかれない。
アルルの動きはさすがだった。
彼女は即座に魔法を発動。
僕やネーシャを含む、室内にいるすべての者に、防御魔法が展開された。
土魔法――プロテクト・ウォー。
対象者を半透明の膜が包み込み、どんな攻撃も一度だけ完全に遮断する魔法だ。
こんな強力な技を瞬時に発動するとは――やはりSランクの名は伊達ではない。
「な、なに!? 二人ともなにやってるの!?」
ネーシャがくわっと目を見開いて立ち上がる。
できれば彼女にもしっかり説明しておきたかったが、そんな時間はなかったようだ。実戦のなかで示していくしかない。
『ネーシャさん、聞こえますか』
僕は通信カードを使用し、念話を送る。ちなみに通話は四人までなら同時に接続できるので、アルルにも聞こえるようになっている。
『いまから二十秒後、あの男が自爆します。――そしてその後、多くの魔物が押し寄せてくるはずだ』
『え……』
彼女が素っ頓狂な声を発した――その瞬間。
「ケ、ケケケケケ……!」
件の男が不気味な笑い声を発し始めた。
不自然な角度で首を曲げ、目を怪しく光らせ、細い舌を突き出して。
「ケケケケ、ハハハハハ!」
奇声とともに男が万歳をする。
その刹那――男の風貌ががらりと変わった。
異様に細かった身体が、ぼこぼこと泡立つように膨張し始める。全身が肥大化し、次第に人間離れした風貌に変わっていく。
そして数秒後には――岩石を模した巨大な魔物となっていた。
ゴルゴンロード。
姿形はまるで岩石そのものだ。図体の中央部分に目と口があることを除いては――だが。
「嘘……。魔物が人間に化けていた……?」
アルルが驚愕のあまり目を見開く。
「ありえない……。そんな話、聞いたことないわ……」
それは僕もそうだ。
人間に化ける魔物など、受付係をやっていた僕でも聞いたことがない。そもそもゴルゴンロードに魔法は使えない。
だから――この街は見過ごしてしまったのだ。人間に扮した魔物の侵入を。
僕がここを訪れたときには、すでに手遅れの状態だったのである。
「ケケケ、ハハハッ!」
ゴルゴンロードは奇妙な雄叫びを発するや、眩いばかりに身体を発光させ。
「ケハーーーーーーーッ!!」
全身を、爆発させた。
閃光。
次いで爆音。
いくら防御魔法が張られていても、これらに伴う苦痛はどうにもならない。
その場にいたほとんどの者が、目を瞑り、耳を塞いだ。
しかしながら――
アルル・イサンス。
ネーシャ・ミラー。
これまで無数の修羅場を乗り越えた経験からか、この程度の苦痛などものともしない。むしろ二人同時に防御魔法をさらに展開し、人のみならず、建物さえも守ろうとする。
だから。
ゴルゴンロードが引き起こした大爆発は、ただ光っただけで終わった。
人も、物も、すべてが無傷。
傷つけられたものはなにもない。
ただの自爆で終わったわけだ。
「嘘。ほんとに爆発した……?」
思っきり目を見開くネーシャ。
続けて念話を送ってくる。
『あ、あなた、いったい何者なの……? 私たちですら気づけなかったことを……』
『これが固有スキル……未来予知。クラージのすごいところよ♪』
『ア、アルル……』
ひっそりため息をつく僕。
なぜあなたがそんなに自慢げなんですかね。
「な、なんだったんだいまの……」
「わからん……」
沈黙が周囲を包み込む。
冒険者たちがそれぞれの顔を見合わせ、いま起きたことを思い返しているようだ。
「す、すげえ……」
そして、ひとりの冒険者が声をあげる。
「さすがはアルル様にネーシャ様……。この事態にも迅速に動かれるとは……」
「ち、違うわ。これを教えてくれたのは――」
『ネーシャさん。やめてください』
すんでのところで僕は念話を送る。
『詳しいことは後で話しますが、この能力をあまり知られてはまずい。むしろ、あなたたちの功績になったほうが都合いいんです』
そういう意味では、アルルやネーシャがパートナーであることは非常に心強い。今回みたいに僕が突拍子もない未来を予知したとしても、すべて『さすがはSランク冒険者様』と片づけられるから。
『ふう……クラージはもう、相変わらずなんだから……』
アルルが優しい表情で僕を見つめてくる。
まわりがどうであろうと、彼女だけは僕を理解してくれている。
それだけで充分だった。
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