表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/45

受付係、新たな人生に向けて一歩踏み出す。

「クラージ! ねえ、ちょっと……!」


 港町ルーネ。

 その路地裏。


 足早で歩く僕を、アルルが追いかけてくる。


 ――込み上げるものがあった。


 ギルドに務めていた期間は、決して短くはない。


 たったひとりで苦悩して。

 たったひとりで人を救って。

 大変だったけれど、ちょっとしたやり甲斐を感じていて。


 クビになったのはしょうがない。

 それはわかってる。


 だけど、すこしくらいはいいよね。

 泣いてしまったって……


 視界が滲む。

 頬を暖かいものが流れていく。


「クラージっ……!」


 いつの間にかアルルに回り込まれていた。

 彼女も瞳を潤ませていて、顔が赤く腫れていて。


「アルル……。ごめん、みっともないところを……」


 僕が言いかけた、その瞬間。


 ふわり――と。

 柔らかい感触が、僕を包み込んでいた。


「え……」


 驚愕のあまり、僕は目を見開く。


 ――彼女に、抱きつかれている。

 そのことを理解するのに数秒を要した。


「ア、アルル……。いったい、なにを……」


 思考が追いつかないまま、僕は呟く。


「さっき約束したこと、もう忘れたの?」


「え……」


「私があなたを守る。だから――」

 美しい瞳と視線が合う。

「あなたの喜びも、悲しみも……すべて、私に分けてほしいの。ひとりで、なにもかもを抱え込まないで」


「……ア、アルル……」


「だって……あなたがクビになったのは、私を……」


 彼女の頬を滂沱ぼうだの涙が流れていく。


 その顔は、相変わらず、とても美しくて。

 この世のなによりも綺麗で。


 さながら天使のごとき顔立ちに、僕はしばし見惚れてしまった。


 ――と。


 僕の唇を、暖かな感触が伝った。

 たった一瞬だったけれど、たしかな感覚だった。


「だから、責任を取らせて。私も――頑張るから」


「…………」


 なんだか不思議な気分だった。


 いままで、ずっと僕は迫害され続けてきた。

 どんなに頑張っても、賞賛されることはなく。

 誰を助けても、感謝されることはなく。


 それはもちろん僕が選んだ道なのだけれど、その冷たい反応が当たり前なのだと思っていた。


 でも彼女は、それは違うと言う。

 僕を守ってくれるって言ってくれる。


 こんな。

 僕なんかを。


「う……うう……」

 それを思うと、感情が爆発した。

「うあああああああっ!」


 大声で泣く僕を、アルルはいつまでも抱きしめてくれていた。





 まわりは静かだった。

 路地裏ともなると、人通りはまったくない。


 ただ潮の香りだけが、僕とアルルの間をかすめていく。


「ごめん……。みっともないところを見せたね」


 苦笑いを浮かべながら、僕は頬を掻く。

 さすがに恥ずかしかったので抱擁は解いた。ちょっと名残惜しい気持ちもあったが、いくらなんでも町中だしね。


「ううん……。いいの」

 アルルも同じような気持ちなのだろうか。表情をうっすら赤く染めていた。

「とりあえず、ちょっと休んだら隣町に行きましょう。たぶん、そこに私の知り合いがいるから」


「うん。ありがとう」


 僕はほんのり笑顔を浮かべ、しっかり頷いた。


 これで終わったわけじゃない。

 僕の人生は、これからなんだ。


ここまでいかがでしたでしょうか?


もしすこしでも気に入っていただけましたら、なにかレビューを書いていただけると非常に嬉しいです。


またブックマークや評価も、更新のモチベーションになりますので、ぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 誰よりも頑張ったんだ。だから、褒美を与えてもいいだろう。 誰よりも足掻いたんだ。だから、報われてもいいだろう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ