11月4日【コバンザメはサメじゃなくてスズキの仲間】
コバンザメは人間にもくっつくらしい。
今日は仕事は休みなんだけど私情の仕事があってノートパソコン持ち込んで従妹の家に安寧を求めてやって来た。
家って言っても由緒正しい家系だから立派な和城に住んでいる。
こんなんじゃ落ち着いて仕事ができないんじゃないかって思うかもしれないが、近くの団子屋の団子を貪りながら気楽に仕事するのが楽しみでね。
「こんにちーっす。 お邪魔するぜ。」
「お邪魔するですよ……それにしてもお城にすんでるとなると将軍様かなにかですか?」
マルもさすがに驚くだろうが俺の血縁関係はすさまじく根深いからこう言う繋がりがあることを覚えておかないと、この程度で驚くようじゃまだまだだ。
手ぶらじゃなんだからお土産の団子も持ってきては居間へと我が家面でノシノシと進む。
子供の頃この城でかくれんぼして迷ってトイレを見つけられず漏らした記憶が懐かしいし、こんなに広大な敷地なのだからいまだにすべての部屋に入ったことはない……それくらいでかい。
それを母親と父親、双子の姉妹の四人で住んでるから部屋もとうぜん余し放題と言うわけでなぜか俺専用の部屋も貸し与えられてるが寒いから冬場はあまり行きたくはない。
「こんちっちー、おぉ……ツボミ、お邪魔するぜ。」
「こんちっちーですわ。 あら、カツラの彼女さんですの。 こんにちは。」
「こ、こんにちわ……です。」
俺は机にノートパソコンを置いて、お構いなしに料理の勉強や旅館の経費などの仕事を次々と集計していく。
お茶を運んできてくれたツボミが背面から画面を覗き込んでは頭のネジがぶっとんだ発言なんかするんだ。
いつものことだがな。
「今月の売り上げがイマイチですわね。 ふふっ、3000万円ほど投資でもしてあげてもよろしいのですわ。」
正直こう言う投資、稀に寄付はしてくれるがツボミはそういう女だ。
なにかと相手の努力に比例してはこういうことをしてくれる。
「足りなくて? なら1億円でもカツラの頑張りならこれくらいの投資は妥当ですの。」
「本当に困ったときにお願いはするけど、そういう優しさに漬け込んで変な男に騙されないか心配だぜ……ツボミ。」
まぁ根はしっかりしてるから、それ以前にそういう性格だから彼氏ができるなんて想像つかないが。
「ツボミさんはお金持ちです……いったいどうやってそんな大金をですか?」
「女には秘密が多い方がミステリアスでしてよ!! まぁ強いて言うならちゃっかり投資からのコバンザメ商法でしてよ!! おほほのほ~。」
「コバンザメ商法の意味きちんとわかってるか? まぁいいや。」
せっかく持ってきてくれたお茶を団子と共にすする。
そろそろ雪でも降るこの季節に熱々のお茶はなかなかどうしてうまい。
「サメかぁ、アブラツノザメとかなら激ウマだから今度刺身でもやってみるかぁ。」
「ちなみにコバンザメはサメじゃなくてスズキの仲間らしいですよ。 私はカツラにくっつくコバンザメなのです。」
「私はカツラの会社にぴったりとくっつくコバンザメですわ!!」
やめてくれ、あまりいろいろくっつくとややこしくなりそうだ。
だけど賑やかな方が楽しいから俺は良いんだけど……なぁ。
母さんが許してくれるかどうかだ。
やはりおこぼれの美味しさは格別なんです、人もサメも……同じ。