11月1日【イチョウは稀に性別が変わる】
街路樹が黄色に染まる……って、このイチョウにギンナンって実ったっけ?
すっかり秋も深くなってしばらくすれば雪だって降るだろうってこの時期、下校の時刻になればすっかり陽は傾いて夕暮れ時だ。
いつも通りの道を何気なく歩いてた時だったか。
「カツラッ、一緒に帰るですよ!!」
「ぬぉわっ!?」
背中に衝撃が走ってから可愛らしい声が聞こえて来た。
十中八九、俺の彼女の華丸……通称【マル】だろう。
小学2年生でありながら教師もしてて、それでもって俺の彼女でもある。
もちろん校内でその事実を知るものは居るわけない、だから不本意に抱きつかれると人目に付く場所だったらかなりヤバイわけで……まぁフリとして引き剥がすわけだ。
「一人で帰るのは寂しくはないですか? もれなく私がついてくるです。」
「あぁありがとな。」
頭を撫でてやるととても嬉しそうな顔をするのだが、マルの笑顔を見るたびに俺はタメ息を吐き出すも困った意味合いじゃないんだ。
こんな小さな女の子を愛するなんて俺も父親に似てるなって思ってのタメ息。
その話はまたいつかするにしても……話が少し反れるがこの時期の通学路にはイチョウの木には銀杏がポコポコ実って臭うわけ。
ホテルの厨房で働く俺には生臭かったり激臭には慣れっこだがマルは興味本意で嗅いではしかめっ面をするのが可愛い。
「やっぱり銀杏は臭いのですっ!! なんでこんなのが毎秋落ちてるですかぁっ!? クンクン……くさっ。」
「酪酸って成分が臭いに関係してるんだぜ? あと足の香りもその成分に関わってるぞ。」
だからと言ってどうと言うことはないが少し気になることがある。
この街路樹は植えられた当初はオスのイチョウの苗だと聞かされていたが銀杏が落ちているならメスの樹もある。
苗を植えた仕事に関わっていたのは俺の父さんでイチョウの性別ごときを間違うわけがない。
ギンナンは匂いで近所に迷惑をかけたり道路に落ちた身が潰されるとスリップ事故に繋がる恐れがある、だからオスだけだったのにいったいなぜだ?
「いったいいつからメスの樹が……? 植えたときはオスだけだったはず。」
「イチョウはごく稀に性別が変わるですよ。 よーく覚えておくです。」
は?
性別がかわる?
「そうです。 植物の中にはそうやって種を残す生きる術を持つものがいるのです。 よーく覚えておくです。」
「お、おぉ。」
またひとつこうやってドヤァな顔をしながら平らな胸を偉そうに反らせては教師面してくる、でもそれでいい。
それが彼女だ、そして俺だ。
っと、そう考えて歩けば別れの十字路にはすぐ着いてしまうもんだ。
「私の帰る道はコッチ、明日は土曜だから休みとなると泊まっていくことも出来るですよ? 家に来るですか?」
「マセガキが生意気に誘惑するんじゃないぜ……。」
マルの鼻頭を人差し指でツンッて押してやると夕日のお陰か、それとも本当の照れで紅く染まった顔かわからないけどすぐにそっぽを向いて走っていった。
また明日な。
性別が変わったりイチョウも大変です。