第9話 ロアとスキルと演出
前回:おやっさん
黒の青年は頭を覆ったフードを下げて色白の素顔を出す。
長い銀髪は前に垂れ、緑色の左片目だけが覗いてた。 目と口の形だけ見ても無表情だとすぐ分かるぐらい変化が見られなかった。
「貴方は?」
「俺はロア。 バトルメイジだ」
ロアは右手を差し出し、握手を求めた。 自分はそれに応じた。
「自分は......フォント、だ。 よろしく」
「よろしく」
見た目と反してロアは人づきあいに慣れているらしい。 しかし先ほどから全くと言っていいくらい表情が読めない。 固まってるとさえ言える。
「ロアはあの受付と知り合いなのか?」
「まぁね。 俺も話しかけたとき同じこと言われただけさ。 あと、あの顔だからここではちょっと有名人なんだ」
ただの世間話で花を咲かせているロアだろうけど、口の角が全然上がらないうえに目も据わっている。
「あー、ロアも話しかけたってことはそっちも仲間集めているのか?」
「その仲間たちと今日別れてきたところ。 方向性の違いってヤツさ」
バンドかよ。
「フォントは明後日まで暇か? よかったら一杯付き合うか? 奢るよ」
「そんなことしなくてもいいぞ。 悪いし」
「気にするな。 気まぐれか気のせい、気の迷いと思えばいい」
「そうか」
ギルドでの用事を全部終わったところなのでロアの誘いに乗ってみた。 実戦を経験してる彼にこのソシャゲ界で行う戦闘について話が聞けるかもしれない。
模擬線ではリアルタイムで試験官と手合わせたが......そもそも『フェイブレ』のジャンルは戦略シミュレーションRPG。 ゲーム的にターン制になっていて敵味方交互にユニットを動かしたりと想像したのだ。
酒場までの道のりにロアにそれとなく訪ねてみた。
「俺か? 俺は基本後方から攻撃魔法を撃つのが得意だけど、即席パーティーの編成に合わせて前衛もやってたな。 おかげでバトルメイジって中途半端な中衛職についてしまったが」
彼のいうバトルメイジは攻撃魔法と近接戦闘術を併せ持った職種ではあるが......よく言えばオールラウンダー、悪く言えば器用貧乏。 どちらも火力が少ないせいで団体の中では弱点になり兼ねない。
「その分ソロで魔物を狩りに行くのはある程度楽だけど」
「危なくないか?」
「危ないさ。 でも次のパーティーに加入するまでどうにか食い扶持をつないでかないとな」
相変わらずの無表情だが、ロアのため息で彼の苦労を察した。
「まぁ全部が全部で悪いことばかりではないがな。 バトルメイジにしかないスキルも獲得したし」
―――スキル。
それはこの世界でユニットが使える特技のこと。 一人最大四つまで持ち合わせることが出来る。
通常技二つの「アクション」、
条件反射で瞬時に発動する「リアクション」、
そして常時効果を与え続ける「サポート」。
この四つのスキルの組み合わせによって職種が決まったり変わったりする。 ちなみにスキルの習得には専用の武器と装備の熟練度を極める必要があるらしい。
「確か一つの役職に十個以上スキルがあったよな? それをたった四つだけに絞るとは勿体ないな」
「それは仕方がないとしか言いようがないな。 女神は人間の身体にちなんでスキルをつけてくれたんだ。 両腕でアクション二つ、頭部というか頭脳でリアクション、胴体脚部でサポートってな」
限定されたスキルの数にはちゃんとした理由があったけど、変なところにこだわるのはやはりゲームだと言わざるを得ない。
―――
「着いた。 ここが俺の行きつけの酒場―『踊るカッコウの宿り木』だ」
ロアが案内したのは街の南門付近にある酒場だった。 看板には枝の上に翼を広げた鳥が描かれた。
「ここの女将さんは元冒険者で、おやっさんと同じでおっかねぇんだ。 だから新人や魔法職の連中が気軽にここで酒に明け暮れるんだ」
質の悪い酔いどれに絡まれることはないとロアが保証しているようだ。 逆に度が過ぎると代わりに受付の大男なみの実力を持つ女将とやらが制裁を与えると諭してる。
......気を付けよう。
「なーに、話せば分かるから、悪い人じゃないって」
そう言ってロアは中へ招いた。
その瞬間、自分の右に衝撃を感じだ。 人がぶつかってきた。
「ッ!! すまない、よそ見してた」
「あ、いいえ」
「申し訳ないが急いでいる故、これにて失礼する」
その人はボロボロのマントのフードを深くかぶりなおして、そそくさと立ち去った。
「なんだ、今の?」
「さぁ......」
凛々しい声だった。 同時に少し高く、澄んだ声にも聞こえた。 女?
「......おいフォント。 アレ......」
ロアの視線は酒場の向かいにある建物の影だった。
荒くれた男が二人、まるで誰かに身を潜めながら移動していた。
向かってたのは、先ほどのマントをかぶってた人と同じ方向だった。
「......追われてるな」
「キナ臭いな。 巻き込まれると絶対ろくな目にあわないぞ?」
ロアは自分の次の行動を察したか、一応忠告する。
―――
街の端のスラム。 無法者たちが蔓延る住宅の跡地でその人が速足で進んでいた。
すると先の建物の曲がり角から二人の男が現れ、道を阻む。
後ろに振り向くと新たに三人の男が現れ、完全にその人を囲む。
「やっとここまで追いついたぜ。 いやぁ苦労したよ! ガッチャンガッチャン重い鎧を付けてんのに、音も何も無いって。 どんだけ器用なんだ、あぁん?」
リーダーらしき男が近づく。
「足跡くっきり残ってたぜ。 お嬢さんのあまーい残り香も一緒に、なぁ?」
「......」
「さぁ、おとなしく『宝箱』を渡しな。 断れば......姫さんがどうなってもしらんぞぉ~?」
下種なニヤケ顔をさらけ出すリーダー。 それにつられて周りの男たちも一斉に下卑た声で笑いだす。
「くっ......! おのれ......!!」
惜しい!
次回:女騎士