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電子精霊になってソシャゲ界を徘徊する  作者: 文武ロデオ
チュートリアル編
4/20

第4話 先輩案山子アシア

前回:BAN

『報告―アプリのアクセス拒否されました。 バンバンBANされてますね』

「サポート、AIシステムギャグ設定レベル0まで下げてくれ」

『了解しました。 ユーモア設定オフになりました』


 AIの寒いギャグがいい加減鬱陶しくなったころ命令してみたが、驚いたことにお笑いセンスを調整するオプションがあったらしい。 案外駄目元で試してみるものだと我ながら感心した。


 もっとも、目前の問題に適用出来ればの話ではある。



 ―――



 初めてのアクセスからすでに46時間。 他のアプリをダウンロードとアンインストールを繰り返してきた。 そしてアプリ内のユーザーに救援を請いだ。 しかし誰もかも自分を冷たく突き放していた。 中には「荒し」として運営に通報され、アクセス禁止と締め出されることも多々あった。


 ......やはり信じてもらえないな。


 自分ですら信じられない状況なのに、赤の他人に同じものを信じろと言えない。 わずかな可能性があったとしても、あまりにも無謀すぎた。


『「ハベフロ」の禁止令がときました。 再アクセス可能になりました』


 サポートAIから知らせがきた。 一番最初にBANをくらったあのゲームに戻ることが出来る。


 しかし戻ったところで、誰も手を差し伸ばすことはないだろう。


 ......それでも、自分は「ハベフロ」のアプリゲートの前に立った。


 雰囲気を感じるだけでもいいから、あの麦畑に戻りたい。 自分はふとそう思ってしまった。



 ―――



 前回と同じはじまりの丘に舞い降りた。 再び訪れた麦畑は何事もなかったように、ただ風に揺れていた。


 近くの丘で新規ユーザーの姿を見えたが、今回は接触せず、丘の向こう側、ゲームの背景まで広がる麦畑の海を赴いた。 当てもなく、目的もなく、ただ前を歩いた。


 そよ風がやさしく麦を揺らし、穂が膝と指先をやさしく撫でた。


 立ち止まり大きく息を吸い込み、麦の香りを堪能した。 鼻孔を通し口の裏まで香りを運び、味わいながらゆっくりと息を吐いた。 


 空っぽになった頭と身体を重力に身を任せて後ろに倒れた。 見上げた夕暮れの空は深い青、雲は夕日を浴びてオレンジと赤をまとっていた。


 自分のプレイヤーキャラは相変わらずの案山子なのに前回試せなかった感覚をフルに活用した。 人間だったころの感覚はまだ覚えていた。


 しばらく寝転がっていたせいか、瞼が重くなった。 抵抗せずに眠気を受け入れ夢の世界へ旅立った。 願わくば、目を覚めたら元の世界に戻るとを祈りながら。


 そして暗闇の中で、声が聞こえた。



「もし? そこのあなた? いきていますか~?」


 瞼を開けると眩しい夕日の輝きが視界に流れ込む。


「おきたね~。 おはよ~ござい~ますっ」


 目をこすって、のほほんとした声の主の方へ視線を移した。


 そこには身長3メートルほどの、細身でのっぽな案山子が佇んでいた。 自分のキャラと同じようにチェックのワイシャツとオーバーオール、裾と袖の中から干し草がはみ出て、同じ干し草で編んだ麦わら帽子をかぶっていた。


 自分と違って、両手で大鎌を持ち運び、何故か片足が義足代わりにもう一本の大鎌を付けていた。


 しかし一番の特徴は首元に結ばれているバンダナの上から覗く、人間の女性の顔。 声と同じくのほほんとした緩い表情で微笑んでいた。


 彼女は腰を前かがみに折り、自分の顔を覗き込んだ。


「わたしはアシアともうします。 物好きでお節介な案山子をやっていま~す」



 ―――



「あなたの~、名前はなんですか?」

「......自分は、分からない」

「じゃあフォントと呼ぶね」

「なんでさ。 名前つけるの早すぎる。 大体なんなんだ、フォントって」

「アルファベットでもカタカナでも4文字だ~!」

「そんな理由で?」


 かなりマイペースな案山子に捕まってしまった。


「貴方は一体なんなのですか?」

「ん~、あなた達新人の先輩......みたいなものかな?」

「自分に聞いても困ります」

「あはは~。 わたしはここの麦畑の守護者だから大体あっているとおもうよ~?」

「ここって......これ全部なのか?」

「うん、そだよ~」


 気になることに、彼女、アシアの名前はプレイヤーキャラクターとして表示されていない。 ゲームでいうNPCなのだった。 しかしこうして会話が成り立っているところを体験すると本物の人間と話していると錯覚してしまう。 このゲームの開発チームはNPCですら高度なAIを使っているのか?


「フォントは~、どこにいきたいの?」


 アシアの問いに一瞬ドキッとした。 彼女からはまるで自分の心境の核心を突こうとしているように聞こえてきた。


 ......いっそのこと、話してみるか?


「どこって、それは......この世界の外、としか......」

「ふ~ん、おそとね~?」


 それからアシアに自分がここまでたどり着いた経路を話した。 電脳世界、マイルーム、そしてアプリゲートのこと。 彼女は「うんうん」や「ふ~ん?」と頭を揺らしながら聞いていた。


「......とまぁ、ここまで来た話の流れはこれで全部だ。 どうだ、なにか分かったか?」

「よくわかんな~い!」


 ですよね。


「フォントは~そとにかえりたいのかな?」

「帰れるなら帰りたいと思う。 けどさっき言ったように帰る場所がなくなっているかもしれない」


 現実世界ではもう自分は存在しない可能性は十分あり得る。 最後の記憶を考えるとどうしてもそう思う。


 アシアはこめかみに両手の指を当てて「ん~~」と唸ったあと口を開いた。



「だったら気にしないほうがいいな~」

次回:楽しめばいい

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