第17話 交渉と作戦会議
前回: クエスト受諾しました〜
それからは大変だった。
自分が返事をするや否や、「乗った」と真っ先に飛びついたのはロアだった。 そして貪欲な彼はすぐに報酬の話を切り出す。 対応したのはやはりグレイスだった。
どの道申し出を受けるつもりだったが、がめついにも程がある。
『では一人ジェム3個でどうですか?』
『まるで足りないな。 こっちは命を張ってる傭兵様だぞ? ジェム10個』
『こちらも戦場に立つ身ゆえ、お互い様です。 ジェム4個、食費滞在費用はこちら持ちで』
『敵の数が分からない以上長期戦になるだろう。 ポーションとかアイテムもつけてジェム8個』
『偵察と情報収集はこちらがやっています』
『戦闘と護衛は俺らだ』
『アリシア様の足手まといにすぎません』
『態度でかい』
『足が臭い』
『声もデケェ!』
『口も臭い!』
徐々に交渉の掛け合いが何故か罵り合いになった。
引けを取らない二人は息ぴったりと言葉のラリーを続けた。 今日会ったばかりなのに、本当は仲が良いんだろうか。
交渉(?)はロアに任せた方がいいと判断した自分は楽しそうに罵倒し合う二人を置いて場を去った。
ふと気付いたがアリシアはいつのまにか退室したらしく、姿が見つけなかった。
……どこに行ったのだろう?
二階の宿部屋から階段を下りて「踊るカッコウの宿り木」の酒場へ行った。 ちょうど昼時になり、街の住民から傭兵まで集まっていた。
……いた。
カウンターの方へ視線を移すとアリシアの後姿を見つけた。 目立ちたくないのか、初めて会った時のマントを被り鎧姿を隠してた。 フードから少し覗たわずかな金髪でどうにか周りから見分けをつけた。
とりあえず二つ隣の席について、女将に度数の低い酒を頼んだ。
「……先ほどはすまなかった」
「……気にするな。 気持ちの整理がつかなかっただけだ」
「……」
しばらくの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「……さっき聞いた通り、私達には時間がない。 あまり気が乗らないが、グレイスの申し出に賛成する。 貴殿らの力を貸してくれるか?」
相違ないとアリシアが語ってくれた。
しかしそれでも納得がいかないと、彼女の哀しい目が伝えていた。 やはり無関係な人間を巻き込む抵抗はまだ尾を引いてる。
ゲームの設定だろうが、世界を滅ぼすパンドラの箱と囚われの姫君が天秤に掛けられている。 どちらを選んでも必ず犠牲がでる。 主人公にありがちな究極の選択である。
アリシアには悪いけど彼女達の事情は一個人が収拾をつけられるほど甘くはない。
だけど助けたいから命をかける、と言ったら彼女はいい気分にはなれないだろう。
気分を紛らわす程度しか、自分がかけられる言葉は少ない。
「承った。 偽善ではなく、ありがたく報酬を頂戴して依頼として手助けするよ」
「フッ……感謝する」
はじめて……いや、少しではあるがまた、彼女から安堵の微笑みが見れた。
「やはり聖女様は大事なんだな」
当たり前のことだがつい聞いてみた。
「もちろん立場からして姫を守るのが使命だが、彼女はその……幼馴染だ」
驚いた。 知り合いどころか二人は家族のような友人の間柄だったのか。
「使命感がある。 それは例えどんな犠牲を払ってでも成し遂げる覚悟はあった。 しかしこれは私の私情も多く含まれているから、後ろめたい気分が強かった」
だから巻き込みたくなかった、と。
「聖女様、必ず助け出そうな」
自分のグラスを掲げる。
「すまない……ありがとう」
お互いのグラスを合わせて鳴らした。
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再びロアの部屋にて自分達四人が集まった。
「で、実際のところ敵とどう戦う?」
もっともな疑問をロアが述べた。
「伺った話では盗賊や賞金稼ぎが主な連中でしたわね。 そんな大盤振る舞いをなさるスポンサーなんて、単純に考えるとかなり限られていますね」
「王国の基準で考えると貴族か大商人だが……」
「それでも結構な数だぜ? 王国に限らず、敵国の帝国や連合だったらもう国際問題だ」
「『黒い宝箱』はそれほどの価値があります」
「忌々しい……」
作戦が難航してきた。敵の規模が見えないだけでもうすでに絶望的である。
……あまり使いたくなかった手だが、三人が議論する間に自分は頭の中でサポートAIを通して「フェイブレ」で言うところの神様からのお告げを開いた。
そう、「お知らせ」にある「ヘルプ」メニューを。
試しにイベント進行に関する項目を読んでみたが、全て「ストーリー」として処理されているらしい。 選択権もあるみたいだが、どれもいずれは一つのストーリーの流れに戻る。
次に戦闘。 本来のゲームのターン制も駒の動かし方、四つのスキルもすでに把握している。
そしてソシャゲならでの使用も見つけた。
……これはかなり強引な手段ではある。 損得で言えば大損だろう。 だが使えない手でもない。
「グレイスさん、ちょっといいか?」
「フォント様、どうぞお気兼ねなくわたくしのことをグレイスとお呼びください」
「じゃあグレイス。 先行投資として先に報酬の一部貰っていいか?」
「え? ええ、構いませんと思いますが、一体何を?」
自分から金の話を振るのが意外だったグレイスは戸惑いながら了承した。
悲しいかな、これがゲームだ……
次回: 行動開始