第14話 帰還と模様替え
前回: 仲間にならないか?
「……なあ、あの聖騎士サマに惚れたのか?」
ロアは唐突に聞いた。
「いや?」
「……そうか」
なぜか納得された。
あの後自分たちは「踊るカッコウの宿り木」亭に戻った。
詰所に敵のリーダーを兵に引き渡したら賞金を貰った。 話によると敵国から流れ着いた名のある山賊だったそうだ。
賞金を山分けしたら従来の約束通りロアに一杯奢ってもらったが、そのままその日の打ち上げと化した。
「……なあ、あの聖騎士サマ来ると思っているのか?」
「……来てくれたら嬉しいかな」
「やっぱ好きじゃん」
女騎士とはあの場で別れることになった。 結局最後まで同行を許せなかった。
『貴殿の申し出はありがたいが断る。 何故そこまで私に固着するかは理解しがたいが貴殿にメリットが無い。 そして何より、私はやはり無関係な人間を危険に晒したくない』
女騎士は踵を返して立ち去ろうとした。
『もし万が一考え直してくれたら「踊るカッコウの宿り木」で自分達を探してくれ』
最後にそう言い残し彼女の背中を見送った。
「けど確かに攻撃役がいれば三人だけでもバランスのいいパーティーになれるね……」
「こればかりはしょうがない。 向こうの都合も全然考えていなかったからな」
二人でつまみを齧り、ジョッキの中身を飲み干した。
「女将、ごっそさん! 今日のは美味かったぜ」
ロアは代金をカウンターに置き、向かいで食器を磨いていた酒場の女将に礼を言った。
「今日のは、じゃなく今日『も』だろう。 相変わらず不気味な顔しやがって」
女将はロアの合わない口調と顔に慣れてるか、お互いに軽口のやりとりを交わした。
「俺はもう部屋に戻るけど、フォントはどこで泊まってるんだ?」
「踊るカッコウの宿り木」の二階以降は宿屋としても利用される。 ロアはその一室に泊まっていた。
「あ、ああ。 もうちょっと外れのほうにあるんだ。 明日はここで落ち合おう」
少し言葉を濁してロアと別れた。
早足で人気のない路地裏に曲がり、アプリゲートを開いた。 念のためアプリゲートやマイルームは秘密にしようと決めていた。
目の前に開いたアプリゲートを潜り、ひさしぶりにマイルームに帰ってきた。
こうして「フェイブレ」での1日に終わりを告げた。
ーーー
帰ってきたらエナが溜まっていた。
これで欲しかった効果付き備品を購入することができる。 精霊体に戻っても慣れてしまった手つきで端末を操作した。 それぞれ購入したアイテムは部屋に指定した場所に設定するとドンっと現れた。
まず手に入れたのはポストの形をした「プレゼントボックス」なるもの。 何処から仕入れてくるのかは分からないが定期的に贈り物、アイテム、そしてエナさえも貯めてくれる。 これでマイルーム内でログインボーナスみたいにただ生活するだけで物を無料で手に入る。
次は「家庭菜園」。 文字通り自分自身が自宅で育てる植物園のこと。 精霊体になってから食事は必要無くなっていたが、この家庭菜園は自分のスタミナや行動力を回復させる効果があった。 これでソシャゲ界でより多く、より長く活動できる。 ちなみに収穫できるのはリンゴに似た果実だけだった。
最後に購入したのは「掲示板」。 ダウンロードしたアプリからのお知らせをまとめて読むことができる。 運営からイベントやキャンペーンの通知が来ると稼ぎ時が分かるようになる。
他にも効果があるアイテムがあったけど、今はこの三つは必要だった。
就眠の前に「フェイブレ」の紹介文を改めて読み返した。
剣と魔法の世界「ヴァリアント」は大きく三つの勢力に分けられた。
クリムソン帝国。
アズール王国。
黄昏の連合。
「そして自分が登録したギルドはアズール王国に所属している国のなかだったのか……。 そういえばあの聖騎士も王国の紋章を付けてた気がするな」
設定では主人公はギルドに入り、傭兵から始まる。 そこから成り上がって、所属している勢力に爵位を貰うことがユーザーとしての目的である。
ただ大体のユーザーは仲間にできるキャラクターだけに注目してしまうため、ゲーム内の目的は単に結果でしかない。
「通常時での任務は偵察、討伐、国内での雑用。 冒険者でいうクエスト依頼システムを流用して国が取り入れて傭兵たちは任意で任務を受諾する。 イベントは他国との合戦で参加は自由だが報酬が高いため逃す手はない、と」
気になる点をある程度集めたら明かりを消して、就眠をとった。
翌朝目覚めるとプレゼントボックスの中を覗いた。
今日はエナだけ貰えたみたいだ。
エナを収納して、自分は再び「フェイブレ」のアプリゲートを開いた。
ーーー
待ち合わせ場所の「踊るカッコウの宿り木」へ足を運んだ。
今日はロアと相談して任務を取ろうと思った。
しかし酒場の扉を開くと、
見覚えのない、大きな荷物を持っていた女性と、
見覚えのある鎧姿の女性が立っていた。
次回: 条件