第13話 信頼に値する者
前回: エンゲージ
「仕返し」は攻撃を受ける度に中確率で発動する。 強烈な一撃を与える為一度ならず、何回ものの斬撃を受けなければいけなかった。
幸いなことにショートソードで受けたり、バックラーでいなしたりするのも攻撃を「受けた」定義に入るらしい。
無限に「仕返し」をいつまでも重ねられると思われるが、10回までの回数制限で次の攻撃時に約200%のダメージ増量。 体力の限界と発動成功率も考慮するとかなりリスクの高いスキルだ。
だが今回はその賭けに乗ってリターンを得た。 ひとまず良しとしよう。
予め用意したロープをアイテム袋から取り出して倒したリーダーの手足を縛った。
「よっ。 うまくいったな」
あたかも散歩から帰ってきたようなそぶりで、ロアがやってきた。 気楽に声をかけてきたのだが、あいも変わらず表情が無い。
「ああ。 貴方が貸してくれたこのヘッドギアのおかげだ」
頭に付けていた革製のヘッドギアを外し、元の持ち主へ返そうとする。
戦闘の前に、ロアから貸りた防具こそが自分に「仕返し」のリアクションスキルを与えてくれた。 装備の熟練度が達してないため、ヘッドギアを外した瞬間所持スキルから「仕返し」が消えた。
しかしロアは受け取ろうとしなかった。
「いや、コイツはフォントが持っていてくれ」
「……いいのか?」
「スキルと相性がいいと思って買ってみたものの、体力も防御力もない俺にとっては役立たずも当然。 だから貰ってくれ」
「しかし……」
ロアは好意で譲ってくれているのだろう。 だが自分の都合で大変な目に遭わせたから申し訳ない気持ちになった。
「どうしても気が引けるのならひとつ頼んでいいか?」
「?」
首を傾げた。
「もっとタメ口で話してくれ。 会った時から『貴方』とか呼ばれて若干鳥肌が立ったぜ」
ロアが両腕を摩りながら提案する。
一瞬キョトンとしたがフッと少し笑った。
「……ああ、わかった。 それじゃありがたく貰っとくよ、ロア」
「おう」
ヘッドギアを再度装備した。 こうして自分は「仕返し」のスキルを取り戻せたのだ。
「談笑中すまないがちょっといいか?」
声の方へ振り向くと女騎士がいた。 大した外傷を見かけなかったからホッと胸をなでおろした。 無事で良かった。
「まずは礼を言わせてくれ。 危ないところ助けていただいてありがとう」
「いや、それほどでも……!」
そして言葉が続かなかった。
首元に剣先が触れそうだった。
いつの間に彼女は剣を自分に向けたのだ? 気がつかなかった。
「どうして私達に関わって来た?」
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「おいおい穏やかじゃないな。 気が迷ってしまったのか、聖騎士サマよぉ?」
訪ねたロアの声は低く唸ってた。 顔には出さなかったが、声からして怒りを覚えた。
「貴殿らの助力に感謝している。 だが下手すれば死んでたぞ。 自ら危険にさらす理由が見えない」
首に剣を向けられてるせいで脅迫めいた尋問が始まってしまった。
「あーあー、それは流石にコイツに聞かなきゃわからないな。 そこんところどーよ、フォント?」
ロアはあっさり引き下がったどころか、向こうにつきやがった。 自分の行動はそんなにおかしいのか?
……いや、おかしいな。 狼の口に手を突っ込むようなものだったと自覚はあった。 素人同然なのに追われている人を助けたかった。 しかも本来のパーティー人数も揃えず単独で。
「……困っているように見えたから助けたかっただけだ」
「正義の味方でも気取っているのか? そんな身勝手な偽善に無関係な人間が無駄に殺されてもありがた迷惑だ」
顔をしかめて彼女の視線は鋭くなった。
「本当にそれだけだ」
これもまた自分の自己満足のためだろう。 以前は助けを求めてたが、その声に応える人間はいなかった。
だから声を出せない、救済を求められないと思うとどうしても心が疼く。
「……少し後付けになってしまうが、理由をこじつけるとしたら自分は貴方の力がほしい」
「「はぁ?」」
流石に唐突すぎたか、二人から間の抜けた声が出た。
「いきなり何言ってるんだ?」
「自分は今仲間を探している。 貴方もパーティーに加わると心強い」
これは本心といえば本心だ。 相手のレベルは低かったかもしれないが、今回の戦闘でいい流れを感じた。
防御の要に自分。
攻撃の女騎士。
そしてロアの支援。
これであと二人仲間を、できれば回復役を最低一人でも迎えればバランスの取れたパーティーになれる。
「この男は貴殿の仲間じゃないのか?」
女騎士はくいっとロアに向ける。
「今日知り合ったばかりだ。 この後誘うつもりだ」
「俺はいいぜ。 フォントの腕はギルドでもうすでに見込んでいたからな」
ロアは即答した。
「ありがとう」
「いいってことよ」
「……信頼されてるな」
気のせいか彼女の強張った表情も少しだけ和らいだように見えた。
「ありがたいことに」
自分は肩をすくめた。 腕を見込んでいると言ったが、自分は別に大したことはしていないつもりだった。 むしろ失敗の方が目立った気がする。
「……だが私は貴殿の勧誘を断らねければならない。 自分の使命があるのだ」
「さっきの連中と関係あるんだな?」
「ああ」
「だったら自分にも手伝わせてくれないか?」
唐突に勧誘。
せめて名刺だけでも…あっダメですか…
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