第11話 敵対者たちの心境
前回:ちょっとした過去編
一人脱落し、リーダーを含む敵は残り四人。
「いてぇ、冷てぇ......!」
「か、頭ぁ! このアマやべぇッスよ!」
聖騎士の「聖剣」を受けた二人の男はリーダーに泣きつく。
「つべこべ言わず突っ込めアホゥが! 数の有利はこっちだろうが!」
リーダーは痛みにしゃがんだ一番近い部下のケツを蹴る。
「テメーらはあの糞アマを押さえろ。 三人だ! それぐらいで時間稼いでみやがれ!」
「「へ、へいぃぃ!」」
男たちは情けない声を出しながらでも女騎士に立ち向かった。
「今日の私は機嫌が悪い。 下手したら殺すやもしれん。 それでも良いなら死にたい奴からかかって来い!!」
怒る女騎士は両手で剣を握り、前に構える。
「オメーは隠れてるネズミを探せ」
「ヘイ」
リーダーは斜め後ろに後退した猫背の男に命令し、身を潜めているロアの居場所を追求させる。
「......」
そして、リーダーは一番弱い自分の方へ歩み寄る。
―――
女騎士は今の惨状に業を煮やしてた。
自分が力がなかったせいで、こちらの事情と全く関係ない人が関わってしまったことに怒っていた。
その赤の他人に助けられた自分が情けなかった。
「うらぁ!」
「死にさらせぇ!」
相手の暴漢共は必死に武器を振り回し、女騎士に当てようとする。
しかし彼女はその場を動かず、出鱈目な連撃は空を切る。
「くっそ! くっそ! くっそぉぉぉ!!」
「なんで......当たらねぇ!?」
またもや敵からの攻撃が外れる。
それもそのはず。 隠れていたロアはすかさず女騎士を狙った敵に対してまたもや「ブラインド」をかけてたからだ。 かかった暴漢たちはそれに気づかず、無謀な当てずっぽうで剣を振るった。
「フッ!!」
「ぐぎゃあ!」
女騎士は近くの男に叩きつけるような斬撃を与えた。 肩から諸に受けて骨が肋骨まで砕き、男は折りたたむように崩れた。
「くそっ!!」
視界が晴れたか、他の二人は倒れた仲間に気づて悪態を吐く。 無謀とはわかっても捨て身の覚悟で女騎士に突撃をかけた。
二人くらいなら十分。 そう確信した彼女は剣を空にかざす。
『轟け稲妻! 罪びとに裁きの雷を!』
振り下ろした剣と同時に、女騎士の二つ目のスキルが雷の形で落ちた。 ガカァ!と轟音を上げて敵を一掃した。
「がっ......は!」
うめき声だけ絞り上げ、男たちは膝をついた。
女騎士の完全勝利だった。 しかし彼女はうかない顔をした。
簡単すぎた。
あまりにも楽に敵を退治した女騎士は実感する。 この勝利は自分のものだけじゃないだと。 ともに戦ってくれた見知らぬ人たちのものだったと。
人としては当たり前だった。
しかし、彼女は元々護衛だった。
たった一人の人間を守ることが出来なかった自分が、いかに弱くて小さい存在なのか。
「姫......!」
彼女は呟きながら、改めて痛感する。
―――
「うし、成功」
ロアは女騎士の支援を行い、相手の男たちに「ブラインド」の魔法をかけていた。 はたから見ると、男たちは滑稽な奇行を繰り返していた。
「これで彼女の腕ならすぐに片付けるな」
ロアの視界はばっちりだった。 なにせ戦闘区域を一望できる場所にいたからだ。
「しかしまさかの聖騎士サマと巡りあうはめになるとは......今日の俺は運が良いのか悪いのか......」
楽しそうに自分の稀有な出会いをかみしめていた。 もっとも口の角が上がっていれば他人から見ても楽しそうにしてると分かるが、相も変わらず無表情のままだった。
すると―――
「おっと」
後ろから斬撃が襲い掛かる。 ロアは器用にも身体をずらしただけで奇襲をよけた。
「......! 外れました。 残念でゲス」
ロアの前に立っていたのは猫背の男だった。 ナイフを逆手に持ち、身軽にステップを踏んでた。
「よく気づいたな」
「あっしは『追跡者』なので」
「なるほど」
ロアは武器のバトルスタッフを両手に持ち替え、構えをとった。 そして目の前の相手を観察する。
「追跡者」とはその名の通り追手の達人である。 僅かな手がかりで人間の行動を読み取り、猫並の身軽さによってターゲットを素早く追跡できる。
「だからここまで登るのも楽勝ものだよな?」
「ええ、まぁ」
二人が立っていた足場はスラムで見張らしいがいい場所だった。
それは屋根の上だった。
「しかし不用心でゲス。 魔法職には心もとない足場。 わざわざ『殺してください』といってるようなものでゲス」
スラムの屋根は水漏れのせいで木が痛んで、腐った板に穴が開いた箇所が点々見かける。 一歩踏み外したら床が抜けている建物を二階と一階部分を突き抜け、落下で死ななくても骨は折れるだろう。
身軽な追跡者にとっては些細なこと。 その身軽さはもちろん暗殺にも向いていた。 素早く敵に近づき、素早く喉を掻っ切る。
しかしロアはそんな不意打ちに対応した。
「不用心かどうかは自分の目で確かめてくれ。 その前に死なないでくれよ?」
二人は距離を保ちづつ、構えたままお互いを睨んでいた。
「あぁそれと忠告の礼に一つ冥土の土産を」
「ゲス?」
思い出したようにロアは声を出し、追跡者は首を傾げた。
「足元ご用心」
男、悪漢、暴漢、敵......
いずれ何かに統一したいなぁ......
次回:ボス戦