白雪姫(5歳)は鏡の少年と手を組んだ。
乙女ゲーム転生ものを考えようとしたら、なぜか童話に…。かねてから思ってた事を入れつつ勢いだけで書きました。
「ウソでしょお!普通は乙女ゲームとか、小説に転生じゃないの!?」
雪のように白い肌、黒檀のように黒い髪、血のように赤い頬。
齢5歳にして超絶美少女!この主人公、だーれだ☆
「どうかなさいましたか、白雪様。」
「ううん、なんでもないの…。」
メイドさんが様子を見に来て、慌てて取り繕ったけど。
oh……誰か嘘だと言ってくれ。
転生したと思ったら、なんで………なんで!!
童話の白雪姫なのさ!?
白雪姫。映画化までされたし名前は有名な童話だね。鏡を見ていた私は唐突に、自分の前世を思い出すと同時に、白雪姫に転生したらしい事に気が付いた。
なんで白雪姫。一体どの白雪姫!?
残念ながら私は、小学校の時に図書室でグリム童話を読んで、白雪姫が夢ある童話じゃないと知っている。
白雪姫は元々、グリム兄弟が集めた童話の一つ。童話集にする際、原作から結構変わったんだっけ。で、初版が出たけど「えぐ過ぎる」と世の母親から非難を浴び?
直しを入れて、デ〇ズニーでは更に別物になった筈。デ〇ズニー版は結局、先に夢が崩れたせいで見れずにいた……。
ここは原作?グリム童話初版、はたまた後版!?それともデ〇ズニー版!?
知ってるだけでも4つくらいあるし───あ、駄目だ。どれだとしても
恐怖しかない。
王子がいるんだよ、この世界。童話通りに行けば、あの王子と……っ!?
あ、駄目だ。
「きゃあぁぁぁぁ!誰か、白雪様が!白雪様がお倒れにー!!」
……ショックのあまり、気絶しちゃいました。
───まず現状を整理しよう。私は白雪、5歳。お母さまは私を産んですぐに亡くなり、1年後に新しいお義母様が王室に迎えられたのよね。
と、なると。確か初版では義母ではなく実母だから……セェェェフ!!
初版じゃ白雪を殺した証拠に肺と肝臓を持ってこい、って狩人に命じるんだよね。
あと蘇り方が酷いんだよ。家来が重い棺にキレて、白雪の背中を殴って復活するんだもん。
となると、お義母様のドレスからしてデ〇ズニーは無いから、原作か後期のグリムか。
……どの白雪姫でも、あの王子からは逃げられないぢゃん……。
ねぇ、王子は死んでる白雪姫を、死体を欲しがるんだよ?
死体を貰ってどうするつもりだったんだよ。赤の他人の死体にキスする?
あの王子ってばどう考えてもネクロほにゃらら、でしょ?
変態と結婚とか、何で主人公なのにハッピーエンドじゃないの……?泣くよ?
ううぅ、落ち着け私。打開策を、打開策を考えよう。
まずお義母様の事。これは7歳まで大丈夫。鏡は7歳になった白雪を「貴女の1000倍美しい」とか言うんだから。……冷静に考えると、幼児に1000倍負けるとか逆にお義母様が可哀そうな気がする。
私とお義母様の関係は、今のところ良くも悪くもない。
次にお父様。お父様とお義母様は完全な政略結婚よね。私の本当のお母さまともそうだけど。
あまり愛されてる気がしないけど…あ、良し!原作あたりの白雪姫の父親はその、アレな人だったというし。興味が私に向いてないのは運が良かった!
いえす、ろりーた、のーたっち!
今後の事を考えると、両親とは仲良くなるよう努力すべきかな?お義母様も実の娘並みに可愛くなったら、殺したり……しない、かなぁ。どうだろう。
いっそ狩人に助けられる時に村とか街に連れてってもらう?
──駄目だ!あの鏡ってサーチ機能あったよ!白雪姫が小人の家で暮らしてるってバラすの、アイツだよ!!生きてるってバラすのもアイツだよ!!
くっそー。あの鏡なんなの!?きっかけになるのはアイツだし、生きてるのバラすのもアイツだし!
あの鏡さえなければ────、……?
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「……よし、いないわね?」
ふっふっふ。侵入成功!
メイド達を悩殺・口止めして、お義母様の部屋にもぐりこんでやったぜ!
キラキラウルルン瞳で見上げておねだりすればイチコロよ!
可愛いって使えるのね。前世では十把一絡げだったんで知りませんでした。
目当ての物は────あれね?えーと、やっぱり呼びかけ方は同じ方がいいかな。よし!
「鏡よ鏡。私の言葉に答えなさい!」
目当ての物、それは鏡。
コイツこそがすべての元凶、コイツさえいなければ、話すら始まらな───!?
「うわあぁぁ!!??」
『何だようるさ………うわっお前だれ!?』
び、びっくりしたぁぁ!!鏡に人が!
急に鏡の中の私が消えて、男の子が代わりに映った!え、TV電話だっけコレ?
鏡に映ってる男の子も、私を見て驚いてるみたい。
「え、あなた……誰?」
白雪姫の継母の鏡が魔法の鏡って事は知ってるけど、人の姿が映るなんて
聞いた事ないよ。
見た目は小学校の高学年くらい?まん丸に見開いた焦茶の瞳は生意気そうにちょっと吊り上がり、赤茶の髪は短くて所々跳ねてるのがやんちゃそうな印象を与えてる。着てる服は質素だけど一応、貴族っぽい。平民ではないよね。
何故に鏡にこんな子が?
『見てわかるだろ。鏡だよ、鏡!』
「鏡は普通、自分の姿を映すものであって、TV電話ではないと思うの。」
ましてや男の子が映ったり喋ったりとかしない。絶対に。
『てれ…?まぁいいや。お前、迷子か?なら急いで出てけ、ここは悪い王妃の部屋なんだからな。とって喰われるぞ。』
「私はその王妃の義理の娘なんだけど。」
『げっ!あの極悪女の娘だと!?』
途端にすごい嫌なそうな顔で見られた。
なんか童話のイメージと全然違う…もっと機械的にしゃべる鏡だと思ってたのに。
しかもお義母様よ。何だかえらく嫌われてません?
「あなた、お義母様の鏡でしょ?悪い王妃とか極悪とか言って良いの?」
『はっ 告げ口する気か?いいぜ、どうせ鏡にされた俺に、これ以上悪い事なんて起きようがないからな。』
「はい?」
ちょっと待って、今サラッと怖いこと言った?鏡にされた?
『何だ、知らないのか。まぁこんな子供に教える訳ないか……あの王妃はな、
元々は人間だった俺を鏡に閉じ込めるよう命令した張本人なんだよ。』
「え……えぇ!?あなた、元は人間なの!?」
『そうだよ。あの女の実家が5年前、【嘘偽りなく真実を話す鏡】を魔法使いに創らせたんだ。でもいくら魔法使いでも、話す事が出来る鏡なんて創れないんだよ。だから生きた人間を鏡に閉じ込めて魔法で行動制限つけて縛り付けた。その時にあの女が、下賤の人間は嫌だとか見目の良い少年が良いとか注文したから俺が生贄になったわけだ。』
「……えぇー……。」
確かに……質問を理解し話す、って高い知能がないと出来ないよね。技術が進歩した現代でも人工知能とかあったけどまだまだ未完成な技術ってイメージだ。いくら魔法でもそんな事が可能とは思えない。
魔法で不可能な部分は人間で補ったんだ。なんて非人道的な。
っていうかお義母様、あなたショタコンだったんですね。変態が多くない?
「あなたのご家族、心配してるでしょうね……。」
『するわけがない。俺を王妃の実家との取引で売ったのは俺の実家の男爵家だ。男爵家の3男なら全く重要じゃないし丁度良いと思ったんだろ。』
「………。」
開いた口が塞がらない。
どうしよう。まさかこんなところに不幸・オブ・ザ・イヤーな子がいたとか。
想定外すぎる、こんな少年になんてことしてるの、お義母様。
そもそもこの鏡、本当は王妃として立ち回るのに役立つ道具として持たされたんじゃないだろうか。真実しか話さないって事は謀りごとを見抜くのに役立つだろうし、他国との外交でも重宝するだろう。そんな鏡に【一番の美人は誰?】と聞くだけとか宝の持ち腐れもいいところ。
念のため聞いたけど、やっぱり質問はほぼ【美人は?】だった。
お義母様と仲良くなるの無理。色々と無理!
「はぁ…困ったわ…。私、あなたを脅そうと思ってここに来たのに……。」
『脅し?』
「【鏡を割られたくなければ、ずーっとお義母様が一番美しいと言い続けるように】って言おうと思って。まさか、あなたにそんな事情があるなんて。」
『…ふーん?まぁまず前提からして無理だ。俺は嘘を言えないにされてる。』
「…だよね。」
断られたら鏡を割ってやろうと思ってた。
けど、自分の人生がかかってるとはいえ、さすがにこんな少年を……。無理!
『そもそも何でそんな事を?』
鏡の少年曰く、お義母様がどうなろうと関係なく、直接聞かれた事以外は知ってても黙ってる事は出来るという。彼を鏡から解放する手助けをするならば、むしろ協力してやると。
悩んだけど、それならばと事情を説明した。前世とか言ったら疑われそうだし、予知夢で見たという事にして。
「───そういう訳で、どうにか変態王子から逃げたいの。」
『……それが本当なら、あの王妃が焼けた靴履いて踊り死ぬとか愉快すぎる展開だ。が、同時に俺もやばいかもしれないな。』
「あなたが?」
『王妃が招かれた他国で処刑されたってことは、その時には既に王に全てがバレてたんだろう。王妃の実家もお取り潰しに合ってた可能性が高い。じゃなきゃ他国の王妃を勝手に処刑なんて、戦争一直線だ。』
「あ、そうよね。来賓を処刑なんて、普通はするはずないわよね。」
『そしてその場合、俺は罪人の部屋の鏡だ。最悪は物置に放置だな。』
「うわぁ。」
真っ暗な物置きに放置とかシャレにならない。
『姫様も悪い子じゃなさそうだし。変態と結婚するのは可哀そうだよなぁ。』
やっぱりいくら王子でも、変態と結婚は哀れまれるかぁ。可哀そうな白雪姫。
『なぁ、姫様。俺と手を組まないか?俺を助けてくれると言うのなら、俺もこの命かけて姫様を護ると約束する。』
「勿論助けるわ。その方がお互いの為だし。あなたが鏡に囚われてると知った以上、放っておいたら後味悪いもの。」
『よし、契約成立だ!俺はライド、よろしくな。』
「私は白雪。こちらこそ宜しくね、ライド。それで、どうすればいいの?」
『まずは───……』
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それから一年後。
「誰にもバレないうちに急ぎましょう。まずは私の部屋へ運んで。」
「かしこまりました、姫様。」
白雪の手配により、王妃の部屋の鏡そっくりに創られた鏡が、城へと運ばれます。
そしてそれは、視察で王と王妃が数日、留守にしている間に行われました。
そうして。
王妃の部屋から、一つの鏡が消えました。
王妃の部屋に、一つの鏡が増えました。
王妃付きのメイドと兵士も何も言いません。
「お義母様の部屋の鏡を割っちゃったの。同じ鏡を用意したからお願い、あなたたちが黙っていてくれたらバレないから!私、お義母様に嫌われたくないの!」
可愛いお姫様の上目遣いの【おねだり】と心ばかりの【口止め料】、仕様がないお姫様だわとメイド達は笑って黙っていてくれました。姫が一年前から王妃の部屋に度々入っては、こっそり季節の花や自身が作った小物などを王妃へのプレゼントとして置いていくのを知っていたので、きっとうっかり割ってしまったのだとメイド達は疑いません。
王妃の部屋の窓から少年がこっそり外に出た事に、誰も気づきませんでした。
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「うまくいったな、白雪!」
「ほ、ホントにバレないかしら。かなりソックリに創れてるとは思うけど……。」
「大丈夫だいじょーぶ!あの王妃は結構にぶいんだよ。」
6歳になった白雪の隣には、一年前と全く姿が変わらない鏡の少年がいました。
ただし、鏡ではありません。少年は平面から立体へと姿を変えています。
───あれから。まずはライドの言う通りに、お父様に優秀な従者をつけてもらった。
26歳の彼、クレイグは思ってたよりずっと優秀で……異常な忠義心に、ちょっとロリコンを疑うけど……でも私の手足となってくれる彼のおかげでやり易くなった。
お義母様は前より少し優しくなった気がする。お義母様の部屋に訪れる理由にと、花や小物なんかを持って行ってたので好印象だったかな?心から仲良くなるのは無理だと思うけど、女はいくらでも仮面を被れるからね!
お父様には出来るだけ甘えるようにした。娘に甘えてもらえると嬉しいって父親が多いと聞いてたけど、お父様もそうだったらしい。最初はとっつきにくいと思ってたお父様、意外と親馬鹿でした。
親バカ程度ならいいよ。道を踏み外さなければね。
従者のクレイグは、更に鏡を創った魔法使いを探し出してくれた。
こっそり城へと呼びつけた魔法使いはビクビクしていた。
「お義母様の鏡と見た目がそっくりの、魔法の鏡を創って。人間を使わずに、お義母様が無意識に望んだ返事をオウム返しにする鏡よ。……出来る?」
「オウム返しに、ですか?それだけならば、確かに生贄は必要ありませんが。真実を言う鏡でなくて良いので?」
「ええ。あと今の鏡に映る少年の姿を、新しい鏡にも映るようにして欲しいのだけど。」
「幻影ならば可能です。」
「ならすぐにお願い。これは他言無用の仕事よ、たとえお義母様の実家でも。
万が一情報が洩れたら……わかるわね?」
「! 御意っ!」
魔法使いを脅かす事になったけど、これは最低限必要なんだから仕方ない。5歳の幼児の言葉にもビビってくれたのは後ろのクレイグが多分怖かったんだと思う。
…私も背後が怖かった…。
そして一年がかりで創った鏡は、何度か創り直しただけあって細部まで似せてある。それに魔法がかけられて【偽魔法の鏡】の完成!
お義母様が数日出かける時まで待ち、まずお義母様の部屋へ。
「ほ、ほんとうに、大丈夫なのよ、ね?」
『ああ、思いっきり来い!』
手にはスカートに隠し持ってきた大きめの石。目の前には鏡に映るライド。
私は目を瞑って、思い切り石を叩きつけた!
「やぁぁぁ!!」
パリィィィィィィイイイン!!!
石を叩きつけられた高い音を響かせ、鏡面が床に割れ落ちていく。割れた鏡から靄のようなものがフワリと出てきて、それが徐々に人の形を模っていき───……。
キョトンとした少年が、自分の手を驚いた表情で見ている。6年間囚われだった少年が、解放された瞬間だった。
【鏡を割れば自分は解放される】と聞いてたけど、やっぱり心臓に悪かった……。
その後ロープを使ってライドは窓から一つ下の部屋へ。私とクレイグは鏡を片付けて一旦部屋を出て、【偽魔法の鏡】を持って再度、王妃の部屋へ。
戻ってきたときに部屋付きのメイドと兵士に見咎められ冷や汗をかいたけど、素直に鏡を割った事、新しい鏡を持ってきたことを話し、口止め料を渡すと黙っていると約束してくれた。
良かった、なんとかなった。
そうして【偽魔法の鏡】にすり替えてから、3か月。
「今のところ、王妃様が気づかれた様子はございません。ご安心ください、白雪様。」
「報告ありがとう。気は抜けないけど、まずは一安心かなぁ。」
【偽魔法の鏡】はまさにお義母様の心を映す鏡。お義母様が望む限り、鏡はお義母様が一番美しいと言い続けるだろう。例えそれが嘘であっても。
とはいえ、まだ気は抜けない。
たとえ7歳になって何も起こらなかったとしても、あの王子がまだ残ってるんだから。
「お父様があの王子を婚約者に、とか言い出したらどうしよう……。」
「俺がこの命かけて白雪を護ると約束しただろ?その時は連れて逃げてやるよ。」
「ありがとう、ライド!」
ライドはお義母様にバレないよう変装し、お父様にお願いして私の従者にしてもらった。ライドが実家の男爵家に戻るのは難しいと思うし、何より戻りたくないだろうし。
クレイグとライド、美青年と美少年で両手に華ですね。
「そうよね。ライドの手助けもあるし、このまま城にいたんじゃ王子が現れる可能性は高いと思うし。思い切って家出して平民になろうかな。」
「姫様!私の方がこんな役立たずの無礼者より役に立ちます、どうか私をお連れ下さい!」
「うるさいぞロリコン野郎。お前は城で大人しく情報のかく乱でもしてろ。」
「なんだと!?お前のような子供に姫様が護れるわけが───!!」
ああぁ、今日も二人の喧嘩が始まった!なんでこの二人ってこんなに仲悪いの!?
その後。
実はクレイグが侯爵家の次男坊だと知ったり
ライドを見かけた男爵夫人が「亡くなった息子に似ている!」と突撃してきたり
あの変態王子が城に現れたりするのだけど
喧嘩の仲裁ばかりの毎日を送っていた私には、知る由もなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
「城に狩人?」「姫なのに護衛とかは?」色々な疑問プラス、白雪姫の時代背景がわからないで困りました。深く考えればとんでもなく裏がありそうで怖いですね、白雪姫って。
次は「説明を短く、台詞多め」をお題にしようと思ってたのに、全くできませんでした。難しい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。宜しければ評価等おねがいします。
【どうでもいい設定】
白雪姫・・・前世は枯れた女子高生。グリム童話全集は読破済み。
ライド・・・見習い騎士。10歳の時に鏡にされてから6年間囚われる。その間は年をとっていない。
クレイグ・・・白雪に一目惚れして王に直談判&気に入れば婚約者にしようという王の魂胆で従者に。
白雪の為なら市井で暮らす覚悟。ロリ〇ン。
王・・・作品によっては近親な変態として描かれる人。ここでは「どう接すれば」から「娘LOVE!」の
親バカ。
王妃・・・ナルシストでショタ〇ン。魔法はグリム童話の通り、少ししか使えない。白雪姫の
プレゼント攻撃とお世辞で白雪姫が可愛くなってきてる。