サイコ・ホラー
前項スプラッターホラーでオイラは『スプラッターはサイコホラーにバトンを渡した』と記しました。
……ちょっと待て!
と、ホラー好きなら云うと思います。
何故ならアンソニー・パーキンス主演『サイコ』はスプラッターより前だろう、と。
しかしながら、『サイコ』以降暫くの間サイコホラーは製作されていないのです。『サイコ』は生まれるのが早過ぎだった。オイラはそう思います。
『サイコ』の次に生まれたサイコホラーは『羊たちの沈黙』ですからね、そう考えるとやはり早過ぎた。
生皮を剥がれた女性の死体が次々発見され、連続殺人とみなされる。
FBI捜査官候補生の主人公は意見を訊く為、特別な独房に収監されているハンニバル・レクター教授と面談をする。
浮かびあがる犯人像。犯人逮捕のさなか、レクター教授は脱獄に成功し、電話で主人公の正式捜査官就任の御祝いをすると何処かへと去っていく。
ロングで引いた街並みを映すラスト、樹々の枝葉が風に大きく揺れ、嵐を予感させる。
サイコホラーの映像化はさほどされていません。『羊たちの沈黙』自体ホラーと呼び難く、犯罪推理ものと云えます。
『恐怖の対象』である殺人鬼の内面を深く描写する必要がありながら、それをすると殺人鬼に対する恐怖感が減じてしまうからでしょう。
また、主人公を一般人ではなく警察組織の人間にせざるを得ないところから、一定の安心感が生まれてしまいます。
『恐怖の対象』が人間で、銃で武装出来る警察組織の人間が主人公ですから。
こうして考えるとサイコホラーは推理・プロファイリングとサスペンスが主体になり易く、恐怖は薄味に調理されるきらいがあります。
スプラッターホラーとの一番の違いは殺人鬼が超越的な存在ではなくなったと謂えます。
スプラッターでバリエーション豊富だった殺人演出は鳴りを潜め、連続殺人を納得させる同様の手口に落ち着いています。
この同様の手口をプロファイリングする事で犯人像を浮かびあがらせる訳ですね。それによって犯人の異常性をクローズアップしていきます。
全体的に謎解きの要素が強いと謂えるでしょう。
サイコホラーの映像化があまり頻繁で無い理由の一つには、科学捜査の発展があげられます。
『羊たちの沈黙』からもてはやされたプロファイリングは、現在では科学捜査に追いやられた格好になってしまいました。
当時新規の捜査技術としながら、その実「刑事の勘」に近いプロファイリングは証拠物件の詳細な観察に負けてしまった訳です。
サイコホラーを描く為には時代背景を確かめましょう。
でないと証拠固めで簡単に逮捕されてしまいますよ?貴方の殺人鬼。