通路2
通路と呼ばれる真っ暗な空間。
さきほどと同じようにいきなりの移動をして
出た先は自然が広がる何とも殺風景な場所だ。
家は辺りに見えない。
道という道もないが、地面の草はそれほどまで生い茂ることもなく普通に歩ける。
空が広く見える。
空気も澄んでいる。
人はいない。
「ここは、大丈夫そうね」
ハルは、少し辺りを見渡し、そう言う。
「人がいない」
「昔、広い牧場だったらしいけど、つぶれて今は恐らく誰もいない。まぁ、追ってが来ると思うから安心はできないけど、恐らく次のルートにたどり着くまでは、大丈夫ね」
「そうなのか?」
「このエリアから行けるルートは、他のエリアと繋がってる場所が少ないから、特定しない限り他の人はここには来ないと思う。そもそも私たちが通ったルートは、時間が限られてるし今、通ってきたときには閉ざされたはずだから、私たちがここにいることが分かっていたとしても、空くのは2、3日後ね」
そう聞くと、優真は少しほっとした。
「こっちをまっすぐ」
指差す場所にはなにも見えない。
「少し、歩けば小屋が見える」
「来たことがあるの?」
「一度だけ、ある。こっちに行こう」
ハルは、優真の手を引き歩き始める。
「…次のルートの時間はいいのか?」
優真は歩きながら、ハルに聞く
「次、開くのは次の日の夜。一日はここで過ごすことになる」
少し振り返り、そう答える。
「そうなんだ」
そう思うと、優真は気が抜けた。
倒れる前にハルが受け止めてくれたのは分かった。
「優真!」
無愛想なハルの焦った表情が初めて見えて、何度も名前を呼ばれるなかで優真の意識はだんだんぼやけていった。
どれくらいたっただろう
何故か真っ白な空間で声だけが突然優しくした。
「お兄ちゃん」
この声は…明人だ。
「信じてくれると思ったよ」
優真は言葉を返そうと思った。
けど、何故か声がでない。
「ねぇ、待ってるから」
何をいっているのかさっぱり分からない。
何故、声がでないのかも分からない。
「旭山が事件を消そうとしてる」
必死にだすが、やっぱり出ない。
「…早く戻ってきて。俺を助けて」
ふっとよぎる交通事故のこと
両親が亡くなってて、明人が植物人間になったあの誕生日の日、病院での出来事。
目を覚ますと、息が上がっていることに優真は気づいた。
「優真」
ハルの声がした。
「ハルさん…?」
はっとして、息を落ち着かせた。
見回すと
ハルは優真のすぐ隣にいた。
「大丈夫…?」
表情は変わらず、無愛想のままだ。
頷いて、優真は俯く。
顔が見れないというよりは、顔をあげる体力がない。
まだ、そんなに回復してないようだ。
「ここは…?」
「前、牧場があったときにその管理人が住んでいた小屋ね」
「そうなんだ」
ハルは暖炉の近くで、薪をもやしている。
この小屋は電気はあるものの、ついていない。恐らく、つかないのだろう。暖炉の火だけが唯一の明かりだった。
「ハルさん」
「何?」
「ハルさんは明人と、知り合いなんだよね」
「…そうね。私は残念ながら覚えてないけど、初めてあった日に明人が顔を見るたび、ハルちゃんだ!って近づいてきて、それから一緒にいるってきかないから。叔父様のお家で」
「明人も分かったんだ。ハルさんは、あの頃一歳だったのにな」
「ごめんなさい、私…」
「謝らないで。あ、あとハルさんは、旭山先生を知ってるんだよね?」
そう聞くと、ハルは冷静に言った。
「知ってる」
「どういう繋がりなの?」
「昔、この世界で会ったの。
ただ、それだけ」
「え…?」
「…あなたは、何故知ってるの?
それに、先生って」
はぐらかすように、ハルは聞いてきた。
優真はそれに気づいていた。聞きたかったが、言いたくないのだろうとあえて深く詮索するのはやめた。
「明人の入院している病院の先生なんだ」
「…旭山は先生なの?それで、先生って言ってたわけね」
「明人は、あいつに殺されかかってた」
「え?」
「俺の友達が看護士で、様子がおかしいっていうから彼女と二人で病院にしのびこんだ。
そこで、見た。植物人間の明人の呼吸器をあいつは外してた…俺は、そこであいつに刺されて
気を失って、目を覚ました。
どうなったかは分からない」
ハルは黙りこむ。
無理もない。こんな話なんと返したらいいか分からないのが普通だ。
「言ってたでしょ?明人はもうすぐあっちの世界で目を覚ます。大丈夫よ。生きてる。
向こうで、あなたのことを待っているはずよ
だから、私は必ずあなたを元の世界に戻す」
「ハルさんは、案内人なんだよね
明人もそう言ってた」
「一緒にいる中で、明人は凄く信頼できたから、話したことがあるの。ルートは時間の中でさまざまに変化していて、同じ場所に同じルートが現れる確率はほぼないのに、幼い頃、何故かそれが正しいルートを私は理解して、そしてそのルートの仕組みを理解したことを知った神様から案内人に任命されて、生存者を元の世界に戻したことがあるんだってね。だから、明人は優真が生存者だと噂されたとき、お願いされたの。それは、申し訳なさそうにね」
「申し訳なさそうに?」
「私、実はね案内人していい思い出がないの。そのこと明人は、知ってたから。神様が私を案内人にしたことを憎んでることも。だから、心配したみたい」
「…ねえ、ハルさん。神様ってどんな人なの…?」
その時、ハルははっとして辺りを少し見回した。
「ハルさん…?」
「待って」
「え…?」
ハルは瞬時に何かに集中してから、優真の顔を見た。
「誰かがここに向かってきてる」
「え…?」
「一人…のようね。ルートはまだ、封鎖されているはず。ここの滞在者…?降りた時気配がなかったのに」
ハルは独り言のように言い、優真の手を握った。
「隠れて」
「隠れるって、どこに」
ハルは、辺りを見回しゆっくりと
天井を指差す。
「屋根裏ならやり過ごせるかもしれない」
天井を見上げると、屋根裏があるとは分からないが、ハルは天井の縁を指差す。
指を指したまま少しすると、がこんと音がなり、少しの天井がずれると人一人がギリギリ通れそうなくらいの隙間ができた。
「凄い」
ハルは、優真の手を取り階段のない隙間までジャンプして、軽やかに屋根裏まで上がった。
いきなりのことで、優真は声が出そうだったがなんとかこらえた。
ハルはその隙間をずらして下から分からないくらいの僅かな隙間だけ残した。
優真はハルを見ると、無表情のまま口のところに人差し指だけたてた。
やがて、ドアの開く音がした。
下をそっと見ると若い成人の男が、Tシャツに半ズボンで優真とハルのいる天井の下付近の二人がけのソファーにため息をつくように腰かけた。
「やっと家があった!ああ疲れたな。どんだけ歩いたんだ俺は。
なんか分かんないけど、穴に入ってからどっかに移動して気づいたらここだもんな。たぶん何日もその穴もどっかにいったし。最悪だよなー」
かなり大きな独り言をもらしながら
男は椅子に座ったままぐっと体を伸ばした。
「はぁ…少し休もうかな」
横になり目を閉じている。
優真とハルは音をたてないよう息を潜めながら男の様子を見守る。
「いかん!やることがあったんだった!」
がばっと男は起きた。
しかし、慌てて起きたはずだが、考え込むようにソファーから動かない。
「あれもあるし、これもあるし忙しいなー
休みほしー」
男のやることとは何だろう。
優真はハルの顔を見ると「さぁ?」というような感じでハルは無表情のまま首を傾けた。
「まあ、それも今日で終わり
…嘘の演技は、これくらいで終わり」
そう言うと男はまっすぐ屋根裏の入口をみた。
目が僅かな隙間から優真は合った、気がした。
「待ってたよ。生存者くん」
「優真!」
その男の声の後、ハルの声が聞こえたかと思うと激しい爆発音とともにぐっと優真はハルに手を引っ張られた。
何が起きたか分からないまま、目を開けると
さっきまでいた小屋はなく、草原が広がり
優真は痛みもなにもなく
背中ごしのハルは立っているが腕や足が、傷だらけだった。
さきほどの男は、ハルより少し離れた場所で二人を楽しそうに見つめている。
「まだ、そんなに力を出してないのにそんなに傷だらけで勝てるの?」
余裕そうな表情を浮かべている相手に対し
動揺もなくハルは男を見つめ優真に小さく声をかける
「優真、動かないで」
「でも、ハルさん…」
一瞬にして、出来た傷を見て
優真は血の気がひいた。方法は分からないが、ハルだけに任せていいものか考えた。
「大丈夫」
優真の心を読むように、ハルは言った。
男は笑う。
「あーあ。やっぱり一発で仕留めたほうが早いか」
男はその場所から手をかざした。
「楽しませてもらおうかと思ったけど
めんどくさいから、早く生存者渡してくれる?」
ハルは優真の手を引いた。
すぐ側で爆発音が鳴る。
爆発をさけて
ハルは相手に向かって手をかざした。
近くで先ほどよりも大きな爆発音が何度もなり、優真は思わず目を閉じた。
ハルが気になりすぐに目を開けると、透明な卵形の少し青みがかった光が、爆発の火花を跳ね返していた。
何度も近くで地面からの爆発があったが、その光のおかげか、こちらに来ることはない。
ハルは男から目線を外さず、こう言った。
「優真、次の爆発が来たら移動する
スピードを出すから、私につかまって」
「分かった」
優真は、ハルに捕まった。
背中から伝わるハルの体温は、何故か少し冷たかった。
男が何かを叫んでいる。
しかし、この光の中に来てからは聞こえづらく、爆発音のせいもあり、男は少し離れた距離にいるため声は、届かない。
次の爆発がきた。
ハルはその爆発音で、息もできないくらいのスピードで光の中を出た。
優真は、あのルートの移動のことが頭をよぎる。あの早さくらいだ。心臓が止まりそうになりながらもハルに捕まった。
男のことが気になったが
少し振り返ってみる余裕すらなかった。
まるで台風に巻き込まれてしまったかのような、強い風と音。それが、だんだんと弱まり止まったときに優真はゆっくり目を開けた。
森の中のようだ。
景色がだんだんと横になる。
捕まっていたため一緒に倒れた優真は、慌てて起き上がった。
「ハルさん!」
「…大丈夫」
ハルは、手に力を入れて起き上がる。
無表情のままだが、ひどく疲れているように見える。
「ちょっと、力を使いすぎたが、ここまで来たら、アイツも居場所が特定できないはず」
ハルは自分の近くで手を広げる。
また、パソコンの画面のようなものが現れた。
指を動かす。
「あいつの位置を特定できるかな」
画面を見て、無表情のハルの顔が少し変わった。
「え…何で?」
「どうした?」
「迷いもせず、こっちに向かってきてる」
「え…?」
「後ろから特定できるスピードじゃなかったはず…優真!こっち!」
画面が消えると、また爆発音が鳴る。
距離は少し離れているようだが、確実に先ほどの男が向かってきているようだ。
何本も連なる木の一つに隠れ様子をハルは伺う。
男の姿が見えた。
こちらには、気づいてないようだが進路方向は迷いもせず、こちらに向かってきている。
「何故分かるの…?」
ハルは男に気づかれないよう優真の手を引く。
生い茂った草のなかに隠れながら、そっと移動する。こちらには、やはり気づいてないようだが、ハルが出したまた出した画面を見ると、方向を変えて距離はあるがこちらにゆっくり歩いて向かってきているのが、分かる。
「見つけた」
優真の後ろで声がして振り向く。
男がたってるのが、分かる。ぼんやり。首がしまり優真は突然息ができなくなった。
「優真!」
ハルの手からでた強風は、見事に男に当たり、優真どさっとその場に落ちた。
「生存者の光は俺のものだ!」
男は、すぐに優真のもとに迫ってきた。
「優真!」
ハルは優真を背負い、ギリギリのところで交わした。
「ハルさん…?」
優真はうつろな様子で目を開けていた。
男はハルの方に向かって手をかざす。
ハルはすぐに反応して別の場所へ移動した。
移動する度に爆発音は鳴り響く。
ハルは先ほどの高速な移動の力で体力を使い、今も直接的な攻撃は当たっていないが、かなりのダメージを受けている。
何度、移動しても見つけてくる。
木の影に隠れてもすぐに当てられる理由を
ハルは優真を背負い、気づいた。
いや、まだ理由は確証がなかったし、出来れば確証がないままでもいたかった。
でも
「案内人なんだよな?あんた」
そう男が言ったとき、ハルは、確証した。
背負っている優真の腕を見る。
生存者の青い光を今、外に閉ざさないようにしているもの。
「叔父様…?」
そう呟く声は、男には届いていない。
ハルは思い返していた。
この世界で心から尊敬できる唯一の人を。
その人がこの男に加担している。
何故…?
「…ハルさん」
聞こえるか聞こえないかギリギリのところで、優真の声が届き、ハルははっとした。
「…優真、大丈夫?」
うつろな目の優真はそれでも、まっすぐハルを見る。
「うん。それよりハルさん。まだ、動ける…?」
「え…?何で…?」
「戦わない?」
「戦う?」
そう言うと、優真は静かに笑った。
「俺はハルさんを信じる。ハルさんは俺のことを信じてくれる?」
「急に何を言うの?あなたは、生存者なの。能力も使えないし、光を奪われたら大変なことになるのよ」
「ハルさん、考えがあるんだ
信じてくれる?」
弱々しい声。それでも何かが強くハルの心に届く。
「優真が私を信じてくれるなら、同じように」
「…ありがとう。ハルさん、俺一つだけ能力が使えるかもしれない」
「え…?」
「でも、俺だけの力じゃなんともならないから、協力してくれる?」
ハルは、少しの間があったものの強く頷いた。
「私は、何をすればいいの?」
「合図を出したら、その方向に移動できる?」
「分かった。でもその前に。」
ハルは、優真の腕のレッグウォーマーを取って捨てた。男はそれを遠目に見て少し慌てた表情を見せた。
ハルは、男の目線を欺けるよう移動しながら聞いた。
「優真、私に指示をくれる?」
「男に近づいて」
ハルは頷くと、進路を変え、男に徐々に近づく。男は不気味な笑顔を浮かべた。
男にとっては、生存者が近づいてきたほうが、狙いやすくこれほどまでのチャンスはないと思った。
優真は、ハルの背中で集中していた。
先ほどから感じていたものがあったからだ。
耳を澄ます。
それは、すぐにやってきた。
「ハルさん!左!」
ハルは優真の指示にしたがいすぐに、左に避けた。爆発音が聞こえた。
「このまま、まっすぐ。右に!」
ハルは移動しながら驚いていた。
ハルも多少、爆発する場所は感づくことが出来たが、それよりも優真の指示は早くて正確だ。
男は困惑していた。先ほどまで、あきらかに追い詰めていたはずなのに、と。
「ハルさん…」
優真が小声で何かを言うと
ハルは、頷いた。
次の瞬間男の視界から二人の姿が消えた。
「どこいきやがった…?くそ!位置も掴めない。
…外しやがったからな。何故分かったんだ?」
男は辺りを見回す。
手当たり次第、能力を使い辺りを爆発させてみたが、いない。
「…逃げやがったか」
物音一つしないその状況を見て、男は考えた。
このエリアは逃げる場所が限られているはずだ。
この森以外には、牧場しか広がらない。
小屋はさきほどの一軒のみのはずだ。
隠れる場所は、限られている。
そう判断して、男は歩き出した。
しかし、何かの気配がして振りかえる。
振りかえったときには、もう遅かった。
優真を背負ったハルがこちらに向かって手をかざして勢いよく、男は強い風に吹き飛ばされ、頭を強く打ち付けた。
その後も男はハルの風の攻撃を避けられない。
ハルは倒れて弱った男のそばに軽やかに降りた。
「位置情報が分からないと、頭上で待機してたことも分からないのね」
「…何?」
ハルは優真を降ろし
倒れている男の胸ぐらをつかんだ。
「先ほどの力はもうないようね
あなた、叔父様に何を吹き込んだの?」
そう言うと、男は弱々しくも笑う。
「…吹き込んだのは、俺じゃねぇ。あいつだ」
「え…?」
「生存者の案内人なんて、なんの意味もない。ただ、かなりの時間を費やし、現実世界に戻すだけ。案内人にとってメリットはない。
天国では、現実よりも薄れるが意識は残り、こうして生きていける。
それなのに、一歩間違えば天国で永遠の闇に葬られる。
…あいつは、それが嫌なんだと言っていた
俺は、それを手伝うまで。あんたの叔父には借りがあってな。生存者がいなくなれば、またお前はいつもの生活に戻り、生存者の光を奪う争いもなくなる
俺は、生き返りたい訳じゃない。光を持つものであれば、放棄することができるのだろう?」
「黙れ!」
ハルは男を突き飛ばし、感情を露にして睨み付けた。
「お前は何もわかっていない。
まだ、生きている命をそんな簡単に切り捨てるのか!」
「生存者にしたら夢物語もいいところさ。別に失くなってもそこまでの感情なんて、ないだろ。それに、お前。過去に2回、案内人やったことあるんだろ。醜い扱いされたそうじゃねーか」
「叔父様に聞いたの?」
「案内人は、選ばれた能力のやつがなる権利が与えられる。だが、実際ちゃんと役目を果たしてるやつがいるのかよ。案内したところで、自分は生き返れないし、それを狙うやつの戦いから避けられない。傷つくのは案内人だ。何のメリットもない」
男は、優真をみた。
「光をこちらにくれないか?意味わからないだろ?お前だって、その気持ちを抱え、ずっと狙われ続けるのは嫌だろ?」
そう言われ、優真は黙りこむ。
「私は優真を絶対に元の世界に戻す
…誰にも邪魔させない」
男の胸ぐらをつかむハルの手は、なぜが少し震えていた。
「俺も、渡す気はないかな」
そう優真が言うと、ハルははっとして振り返る。
「ハルさんは、そう望んでないから」
そう言う優真を見てハルは一瞬、ある人物がよぎる。その人物は、悲痛な叫びのハルをみて笑う過去の生存者。けど、それが普通だった。
過去の生存者は、その話を信じてはくれなかった。
「なぜ、信じてくれるの…?」
そう小さく呟いた声は、優真の耳には届かない。
「ハルさん」
「…え?」
「戻ろう?」
「戻る…?」
「次のルートの近くまで。小屋はなくなっちゃったけど」
「…だけど」
ハルは男をみる。
「あなたも一緒に」
優真が言うと、ハルは優真のほうをみる。
「なにいってるの、こいつ連れてく気…?」
「頼まれたっていってここにきたらしいけど、帰りどうする気なんですか?例え生存者の光が手に入ったとしても帰り道が分からないと、なんともならないですよ」
「…帰り道…?また、ルートをたどればいいんじゃないのか」
「毎回、入れ替わってるらしいので。ね、ハルさん?」
「そうね。そのこと叔父様に聞かなかったの?」
「いや、なにも」
「うっかりしてるところ、あるのよね……叔父様。」
「そんな…!それは困る」
「あなたは、一生このルートをさまようことになるわね。全てのルートを正しく理解できる人はこの世界に数人しかいない。ここにあなたをよこすくらい気でいたくらいだから、帰り道くらい叔父様は知ってそうだけど、聞きそびれたなら仕方ないわね」
男は急に土下座して、声を張り上げた。
「すまなかった!俺には家族がいるんだ。戻るルートを教えてくれ!いっしょにいさせてくれ!」
「…家族いる人が人を殺めるわけね」
「気の迷いだった!頼む!」
「…優真」
ハルが優真をみる。
「ルート開くまで、結局一緒にいなきゃいけないんだから、とりあえず、連れていけばいいんじゃないかな」
「本当か?!」
「また何か目の見えないところで何かされても嫌だし。帰り道は、ハルさん次第だけど」
「もうしない!誓う!だから…」
ハルは無言で男をみる。
男は、ハルの圧力に少し怯えながらポケットからあるものを差し出す。ハルはまた怪訝な顔をし見つめる。
「これ…さっきのレッグウォーマー?」
「さっきのは、お前を探すために発信器がついていた。これには、ついてない。必要だろ?
その光を隠すなら」
「何故二枚もってるの?」
「発信器がとりつけられなかった、失敗作をたまたま持ってて。でも効果は先ほどのやつと変わらない」
「怪しい…!」
「本当なんだ…!」
男はハルに怯えながら、優真をみる。
「ハルさん。とりあえずもらおうよ」
「え…?」
「そのレッグウォーマー、確かに光を隠してくれたし。これから先、必要になる」
「でも、絶対…!」
絶対怪しいと言いかけ、ハルは男を見た。
優真は、男に近寄る。
「ありがとう」
レッグウォーマーを受けとると、優真は腕につけた。
「優真というのか?お前は、本当にここから脱出する気なのか?」
「そうだね」
「お前にとっては夢物語な話だろ?」
「そう。でも、今はハルさんを信じるよ」
「…そうか」
男は少しうつ向きながら、そう答えた。
「次のルートのところまでいこう」
そう優真が言うと、ハルは、無言で歩きだした。優真は男に手を伸ばす。
「行こう」
男は少し驚きながらも、差し出された手をとり、立ち上がる。
しばらく無言のまま歩き続け、来たルートよりも離れた草原で、ハルは立ち止まる。
ハルは男をみた。怯えた男にハルは厳しい口調で話す。
「一度しか言わないから、よく聞いて」
男は頷く。
「私たちは次のルートが開いたら出発する。
出発した後で、同じ場所にルートが開く。その、ルートは、ある町にでる。近くに川が流れてるから、川に向かって直進すると、小さなポストがある。そこにルートが開くから、そこにいけば、あなたのいた元の場所に戻れる」
男は、驚きながらも頷く。
「ルートを間違えると、あなたの力ではもう元に戻ることはできないから、間違えないで」
「ハルさん…」
優真が少し笑みを浮かべると、ハルははっとしてすぐに目線をそらす。
その時、風が吹くと目の前にルートが開いた。
「優真」
優真は頷いて男の方を見た。
「じゃあね、えっと…名前なんだっけ?」
「サク」
「サクさん。レッグウォーマーありがとう」
優真は、お礼を言ってハルに続いてルートの中に入る。
サクは黙ってこっちをみていた。
ルートが閉まりそうなとき、男ははっとして小さな何かをこっちに投げた。
「優真…!落ち着いたらボタン。
ハートのボタン押して!」
サクはそう叫び、何か分からず優真はそれを受けとるとルートは、閉じた。
ルートの中で移動が開始して強いスピードの中、何か分からないそれを、離さないように 優真はそれをぎゅっと握りしめた。