第98話 共に道を歩む者
「(あなた……何者なの?)」
「それはこっちのセリフだ……。お前こそ何者なんだ? 俺はそこまで頭がいい犬なんて、見たことがない。まるで……昔の俺みたいだ……」
「(……自分が犬だったとでも言うつもり?)」
「いや、俺は猫だった。超有名タレント猫だった。お前の歳だと知ってる筈はないけどな」
「(本気で言ってるの?)」
「ああ、本当のことだ。アリシア、実体化……って、しなくてもお前にはもう見えてるんだよな?」
俺はアリシアを見た。
「はい、見えてます……って、蒼汰に嘘はつけませんか……。はい、見えてますよ……だから蒼汰に声をかけたんですから。私にはこの子……私にそっくりなこの子の姿が見えています……。蒼汰、ありがとうございます……。この子を助けてくれて」
アリシアはそう言うと、俺に頭を下げた。
「そうだと思った……。ってか、最初に言えよ」
「い、言えるわけないじゃないですか!?」
「……ま、そっか……他人に知られるなって言われてる二人が出会ったんだもんな……。ルシア、壊れてないか?」
俺はアリシアを見た。
『壊れてはいません』
ルシアの声が聞こえた。
「あ、もう出た。今日は早いな……。まだ呼んでないぞ?」
『では、もう少し後が良いですか?』
「いや、アリシアともう少し漫談してから呼ぶところだった。ちょうどいい感じの登場だ」
『そうですか、それは何より。クラウディア、サマンサ、久しぶりですね』
「(はい……ルシア様、この方は一体?)」
「あ、俺はお前と同じだ。偉いわけじゃないから敬語はやめてくれ」
「(同じ……? どういう……事ですか?)」
「ルシア、こいつらとは全部話しても良いんだよな?」
『はい。構いません』
「じゃ、サマンサ……だっけか? クラウディアの付き人を俺に見えるように、それからアリシアをクラウディアに見えるようにしてくれるか? 少し話がしたい」
『わかりました』
ルシアがそう言うと、俺の目の前に女の子がフワッと現れた。
「あ……あなた! どうしてそんなにルシア様に偉そうな態度を取るのですか!? 天罰が下りますよ!?」
サマンサは現れるなり俺にそう言った。
「お……本当にそっくりだな……」
「ですよね、私も驚きました……」
俺とアリシアはサマンサを見ていた。
「ちょっと! 人の話を聞いているのですか!?」
「まぁ、俺は色々あってな……ルシアとはこういう関係なんだ。ま、そこはどうでもいい」
「ど、どうでも良い!? 言い訳な」
「じゃ、ルシア。俺とクラウディアが会ったと言う事は、関係を持っても良いって事なんだな?」
「ちょっと! 人の話を遮らないでください!」
サマンサはまだ俺に怒っていた。
『はい。クラウディアもあなたに助けて頂こうと思い、こうしました』
「それって、運命の輪が、変になったと?」
『はい。原因は不明ですが、クラウディアの運命の輪が、突然崩れました』
「崩れた……? ルシアに制御できないことなんて、あるのか?」
『不明です』
「そっか……。じゃ、クラウディア。少し頼みがある……というか、相談だ」
「(相談? 何かしら?)」
「お、やっぱりこっちは聞き分けが良いな……。お前、相当苦労してそうだな……なんか昔の俺を見ているみたいだ……」
俺はクラウディアを見ると、サマンサを見上げた。
「え!? 私はこんな聞かん坊じゃありませんでしたよ!?」
アリシアはサマンサを指差して反論した。
「……まぁいい。それでな、クラウディア」
俺はアリシアを見て、クラウディアを見た。
「まぁいい!? よくない」
「そういうところが似てるって言ったんだ」
俺はアリシアを見た。
「……すみません」
「でも、お前はそうやって謝ることを覚えた。人のために何をすべきかを覚えた。だからアリシア、お前は今のままでいい」
「そ、そうですか?」
「ああ、いつもありがとな……いつも言えないから、今言っておく。感謝してるぞ」
「……はい。こちらこそ、ありがとうございます」
アリシアがそう言うと、俺は頷き、クラウディアを見た。
「それでな、クラウディア。実は今、困ってて……お前に助けてほしいんだ……」
「(助ける……? もちろん構わないけど……。ルシア様、本当にこの人と関係を持っても、宜しいのですか?)」
『はい。あなたの思うままに』
「(わかりました……。それで、何をすれば良いのかしら?)」
「ありがとう。じゃ、俺とペアになってくれ」
「(ペア……!? 犬と人間は結婚できないわよ? 確かにあなたの事は好きだと言ったけど……あれは)」
「違う! 俺と結婚してくれとか、そう言う意味じゃない!」
「(……違うの?)」
「違う! 俺は既婚者だ!」
俺は指輪を見せた。
「(じゃ、どういう意味?)」
「俺と一緒に、犬の競技大会に出てくれ。そのペアって意味だ」
「(犬の、競技大会? あの、棒を飛び越えたり、トンネルくぐったりするやつ?)」
「似ているが、今回は違う。フリスビードッグだ」
「(フリスビー……ああ、あの円盤状のやつをあなたが投げて、私が走ってくわえて持ってくるやつ?)」
「流石はルシアの基礎知識。話が早くて助かる」
『いえいえ、それほどでもありません』
「そう謙遜するな。本当に助かっているんだから」
『それは何よりです』
「(こんなに喋るルシア様、初めて見たわ……あなた、本当に何者なの?)」
「協力してくれるなら、全部話してやる。それにな、これは俺のためというよりも……動物たちのためなんだ……」
「(動物たちの……。もしかして……あなた、私達のために何かをしようとしているのかしら?)」
「ああ。実はな……」
俺はここまでの経緯を語って聞かせた。
「(いいわ。協力する……と言うか、やっぱり私はあなたが好きかもしれないわ)」
「ありがとう。恐れ入るよ……」
クラウディアが笑い、俺も笑った。
「ちょっと、クラウディア! 本当に良いのですか!? この男、あなたを利用しようとしているのですよ!?」
「(いい。私はこの人の考え方に賛成する。そして、この施設の役に立ちたい……。そうしても良いのですね? ルシア様……)」
クラウディアは天井を仰いだ。
『はい。あなたの飼い主が亡くなったこと、あれは事故でした。申し訳ありません……。そしてあなたに用意した次の運命、それが彼です。あなたが信じられる道だと思うなら、彼に付いていきなさい。彼はあなたを導いてくれるでしょう』
「(わかりました。あなた、名前は?)」
クラウディアは俺を見た。
「俺は片桐蒼汰。蒼汰って呼んでくれ。宜しくな、クラウディア」
俺は右手を差し出した。
「(うん。宜しくね、蒼汰。じゃ、私の残りの一生、あなたに捧げるわ)」
クラウディアは俺の右手に自分の左手を乗せた。
「ああ……ってなんかお手みたいだが、許せ」
俺は笑ってクラウディアの左手を握り、上下に揺すった。丁度握手のように。
「(いい。私は今からあなたの犬……でも、嫌いになったら出ていくから)」
「ああ、それでいい」
こうしてクラウディアは俺と暮らすことになった。
その後、ルシアと相談し、俺にはサマンサが見えず、クラウディアにはアリシアが見えない状態で生活を続けることになった。
『本当に困ることがあったら、遠慮せずにアリシアか、サマンサを通じて私を呼び出しなさい』
「ああ、ありがとな」
「(はい、わかりました。ありがとうございます)」
「あ、あと一つ。聞いてもいいか?」
『何でしょうか?』
「クラウディアとサマンサのこと、楓に話しちゃダメか?」
『……ダメだと言っても話すのでしょう?』
「まぁルシア次第だが、試そうとは思ってた……。でもそのまえに聞いたほうが早いかと思ってな……どうだ?」
『……良いでしょう。あなたの伴侶だけに、話すことを許可します。しかしこれまで通り、天界及び天界人に関する情報は禁止します』
「わかった。ありがとう」
『それでは、良い一生を』
ルシアがそう言うと、一瞬だけ目の前が真っ白になった。
「うおっ、新しい消え方……。あいつ、消え方の研究でもしてるのか?」
俺は天井を見上げた。
「(それで蒼汰)」
「なんだ?」
俺はクラウディアを見た。
「(どうしてルシア様を呼び捨てに出来るのかしら?)」
「あ…………ごめん。それ、話せないやつだ……」
「(…………)」
「本当にすまん! でも、本当にそれは誰にも話せないやつなんだ! 許してくれ!」
俺はクラウディアに手を合わせて頭を下げた。
「(……嘘つき)」
クラウディアは眉を寄せて俺を見た。なんだかクラウディアの上でサマンサがものすごい剣幕で怒っていそうな……そんな気がした。ルシア、ナイス判断……。




