第95話 競技会には出たいけど
「え、雑種で競技会に出たい? 出れば?」
「いえ、色々調べたら、協会に登録していない雑種は出られないんです」
俺はレンコントにやってきた小玉さんを捕まえ、競技の相談をしていた。
「あぁ、古い競技のことね?」
「古い?」
「うん。IPOとかBHとか、ドッグショーとか、そっちだけでしょ? 出られないの」
「そうなんですか?」
「うん。アジリティーとフライボールとフライングディスクは出来た筈。でも何で急に?」
俺は事の経緯を語った。
「そういう事か! やるな、楓さん……。よし! 私も協力するよ!」
「本当ですか!? 小玉さんが協力してくれたら百人力です!」
「いや、あたしどんだけ力持ちなのよ……」
「いえ、そう言う意味では」
「わーかってるって! ちょっとボケただけだよ……ってあれ? じゃ、本当はそれ以外にも出たいってことなの?」
「とにかく勝てる可能性のあるものは出たいです!」
「なるほど……。確かに片桐くんの力を持ってすれば、日本一……いや、世界一も夢じゃないか……」
小玉さんは例の留守番の後、俺の力を見くびっていたと言った。何しろ、俺が居なくなった途端、誰も言うことを聞かなくなってしまったのだそうだ……。いや、悪いことをした……。
「ねぇ、何に出たいか決めてくれる? そしたら会社に相談して見るからさ」
「ありがとうございます!」
その後俺達は、何なら勝てるかを相談した。
「まず、アジリティーとフライボールとフライングディスクは出るよね?」
楓は俺を見た。
「いや、ちょっと待て。ネットで動画を見たんだが、あれってどうやって練習するんだ?」
「え? ただ、ひたすらやるんじゃないの?」
「いや、問題はそこじゃない。道具だ」
アジリティーは平均台やポール、トンネルなどの複数の種目が含まれており、それらの設備が必要。そして、フライボールには板を押すとボールが飛び出す器具とハードルが必要。そんなものを購入するような余裕など、どこにもない。
「あ、そうか……。じゃ、フライングディスクだけかな?」
「あ、それ。調べてみたらな、日本では『フリスビードッグ』っていうらしい」
「そうなの?」
「ああ。英語だとディスクドッグだがな」
「なんで英語じゃないの?」
「知らん。フリスビーのほうが日本では有名だからじゃないか?」
「なるほど……。じゃ、フリスビーしか出来ないかな?」
「そう思う……。それでも広い場所がないと練習はできないがな」
「広い場所かぁ……。それってさ、犬を放してさらにフリスビーを投げても怒られない場所ってことだよね?」
「ああ」
「じゃ、公園とかじゃダメなのか……」
「だな……」
「まぁいいや、それは後で考えよう。じゃ、ディスクドッグは決定ね。後、IPOとかのしつけの延長みたいなやつは、ちょっと練習すればできそうだね」
「ああ、そっちは出来る。間違いない。と言うか、そっちは預かった子でもできると思う」
「だよね」
こうして最も勝てる可能性のある、アジリティーやフライボールはそもそも練習ができないので却下。フリスビードッグと、調教関連競技のみ出ることにし、小玉さんに報告した。
二週間後。
「特別枠だけど、いい?」
「出られるんですか!? いいですいいです! ……でも特別枠って、何ですか?」
小玉さんは会社に相談し、そのまま協会へ相談すると、いつもの様にレンコントに来て、俺の出場権を得たと報告してくれた。
「いや、普通は返事をする前にそっちを聞くでしょ……」
「すみません。あまりの嬉しさに……」
「まぁ、気持ちはわかるけどさ。特別枠ってのは、正式な記録に残らないってこと」
「……それって、出る意味あるんですか?」
「あるよ。会場ってさ、多くの飼い主が集まってて、ビデオを回してる。それは公式じゃない、個人のビデオね。だけど、実際には主催者のビデオよりも、それら飼い主の撮影したビデオのほうが流れる」
「あ、ネットで……って事ですか?」
「うん。だから、それら飼い主経由で、片桐くんのすごい演技が見られるってわけ」
「いや、凄いかどうかは」
「えっ、それは困るよ!」
小玉さんは俺にしがみついた。
「……え? どういう事ですか?」
「もう『すんごいの見せますから!』って言っちゃったもん……。だから、誰も見たこともないような、すんごいの見せてね」
「……それって特別枠って言うより、エキシビジョンじゃないですか?」
「うん。片桐蒼汰、ワンマンショー!」
小玉さんはそう言うと両手を広げた。
「いえーい!」
楓は隣で拍手した。
「ほら、楓さんがノリノリだよ……。いいとこ見せなくていいの?」
小玉さんは両手で俺の腕を掴み、揺さぶった。
「わ、わかりましたよ……やります。やりますから、離してください……」
「わかればよろしい」
小玉さんは両手を離した。
「もう……で、いつですか?」
「三ヶ月後」
「…………三ヶ月後!?」
俺は固まった。少なくとも半年は必要だと思っていた。
「大丈夫だって、片桐くんになら出来るから!」
小玉さんは固まっている俺の肩を「バン!」と勢い良く叩いた。
「いだっ! ……全然大丈夫な気がしないんですけど……」
俺は少し吹き飛ばされ、肩をさすりながら小玉さんを見た。
俺は忘れていた。この傍若無人な大魔王の性格を……。もしかすると、頼む人を間違えたかもしれない……。
「てか……(出来なかったら私がクビになるかもしれないから……)」
小玉さんは俺の耳元で囁いた。
「えっ……!?」
あんた、そんな危ない橋を!?
「ちゅー事で、よろしくね~」
小玉さんはそう言うと、レンコントを後にした。
もう、後には引けなかった。
「小玉ちゃん、何だって?」
「俺が失敗したら、小玉さんの首が飛ぶって……」
「は!? ちょっと、小玉ちゃん!」
楓はそう言うと小玉さんを追いかけ、玄関を出た。
楓は五分後に戻ってきた。
「居ないよ……どうしよう……。電話する?」
「いや、多分もう決定しているんだ。小玉さんだって断られたら困るんだろう……」
「そっか、もうそういう段階なんだね……もう、小玉ちゃん……。動物に命かけ過ぎ!」
と言うか、既に退路は無くなっていた。
普通に出られるのに、エキシビジョンになってしまった……。




