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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第3章 『何も望まなかった中の上』
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第90話 わからなかったけど見つかった



 次の日。


「ただいまー!」

 楓はレンコントの鍵を開けて中に入ると、そう言った。


「動物に言ってんのか?」

「動物もそうだけど、この建物にも」

 建物なのか……。

「自分のテリトリーなんだなって……感じるよ。むしろこっちが自分()みたいな……」

「ああ、なんか分かる……」


 俺は初日の飛行機に乗る前、これまでずっと繰り返してきた毎日とは違うところへ向かう自分に違和感を感じていた。なんだか悪いことをしているような、動物たちは大丈夫なんだろうか? と不安に感じていた。


「うん。みんな無事だね、良かった……。ただいまー。うん、帰ってきたよー」

 楓は嬉しそうにそう言いながら、動物たちに挨拶して回っていた。

 たった三日来なかっただけなのに、なんだか久しぶりに帰ってきたような……そんな気分だ。


「結構有意義な三日間だったな。行ってよかった」

「そうだね。色々と、知らないことが分かってよかったよ。……でも、出来ないことばかりだけどね……」

「まぁな……」

 俺はちゅうを見た。

 あまりにも規模が違いすぎて、今の俺達には出来ないことばかりを知った。まぁ、今後どう進めるべきかと言う事はわかった、一つの指針にはなった。と言うことなんだが、敢えて言えばそれだけではある……。

「うん。……それに、結局わからなかった」

「わからなかった? 何がだ?」

 俺は楓を見た。


「ドイツに行ったら、動物たちが捨てられなくなる方法がわかると、わかるかもって、思ってた……」


「捨てられなくなる方法……」

「うん。でも現実は違ってた……。動物保護先進国のドイツで、最新で最大の施設でも……それは解決できていなかった……」

「お前、そんな事を考えて……」

「分かってはいたんだよ。それは人間が変わらないと出来ないって……。でもさ、その人間を変える方法は、やっぱり無いんだね……」

 ドイツでは教育にも力を入れていた。しかしそれでも解決することは出来ない……エレナさんはそう言っていた。


 ──


 俺はその後、レポートを書いて、小玉さんの会社へ提出した。


 だが、俺はレポートを一般用とAS用の二つに分けた。それは小玉さんも承認してくれ、小玉さんには両方を提出した。では何故分けたのか? 俺が一番言いたかったのは……。


『人は何故変わることが出来ないのか?』


 だったからだ。

 その内容は一般用に書いた、俺達がドイツへ行って経験した事、新たに知ったことなどの後ろに、楓の言う「なぜ動物は捨てられ続けるのか」というテーマで延々と続き、その文章量は一般用の三倍以上になった。そう、こちらのテーマのほうが長かったのだ。なにしろ今回の視察で知ったことよりも、伝えたいことが増えてしまった。もちろん、視察が切っ掛けで思い始めたことではあった。だが、こちらの方が視察で知った事以上に重要だと思えた。故に内容がちと重い。なので、一般用にはこちらの内容を書かず、AS用とレンコント用、こと動物保護を目的としたサイトにはこちらを掲載した。

 もちろん楓の思いに共感したからそうなった。と言うか、それ以上に重要なことが見つからなかったし、それ以上に言いたいことがなかったのだ。


「こいつらの為に……」レンコントに来て動物たちと接し、家に帰って老犬や老猫達の世話をする度に、その思いは募っていった。そんな中で書いたレポートは、必然的にどんどん長くなっていったのだ。


 ──


 その後、一般用もAS用も反応は違えどそれなりの評価を受けていた。


「片桐くん、レポート、良かったよー! 上層部からもうけてた」

 小玉さんは俺に会うなり、そう言った。

「どっちのやつですか?」

「両方見せた。実際に採用されたのは一般用だけどね」

「ですよね……」


 俺達は久しぶりにAS会の飲み会を開き、集まっていた。レポートを読んだメンバーが話したい、話を聞きたいと始まり、「じゃぁ、ドイツ視察の報告会と行きますか」と小玉さんが音頭を取ったのだ。


「楓さん的には、意味のない視察でしたか?」

 小玉さんは楓を見た。

「え? ううん、そんなこと無いよ! とっても良かった。ありがと」

 楓は笑った。

「でも、片桐くんのレポートを読むと、楓さんは最も期待していたことに答えが出せなかったとなってますけど……」

「え……? そんなこと書いたの?」

 楓は俺を見た。

「見せただろ?」

「……読んでない」

「読め!」

 レンコントのブログにも掲載したのだから、読んでおかないと困る事になるかもしれない……。


「楓さん、読みますか?」

 小玉さんは自分のタブレットにASのサイトを表示させた。

「あ、ありがと」

 楓はタブレットを受け取ると、一口ビールを飲み、俺の記事を読み始めた。


「なんか……間違ってないけど、あおりすぎてない?」

 楓は読み終えると、俺に言った。

「そうか? 普通に書いたつもりなんだが……」

「それに、この人、私だよね?」

「ああ、お前がモデルだからな」

「私、残念な人になってない?」

「いや、なってないだろ。俺の好きな楓、そのままだ」

「…………」

「片桐くん、こういう場所ではそういうの禁止」

 小玉さんは俺を見た。

「そういうの?」

 俺は小玉さんを見た。


「乳繰り合うの禁止」


「いや! 乳繰り合ってないでしょ!?」

 触ってすら居ない。

「それっぽいのも禁止……独り者だって多いんだから、そういうのは止めてよね」

「……はい」

 なんか空さんみたいだ……。

「それで、読んでみていかがですか?」

 小玉さんは楓を見た。

「うん。ちゃんと言いたいことが伝わっている。いい文章だと思う」

「ですよね!」


「うん……でもさ、これで……何匹救えるのかな……?」

 楓はタブレットを見た。


「それは今考えることじゃないですよ」

 小玉さんは唐揚げをかじりながら言った。

「……そうかな?」

「ええ。私達がやっていることは、すぐに結果の出ないこと。なら、今はうまく行かなくても、いずれその結果はついてきます!」

「そうかな?」

「そうですよ……多分」

 小玉さんはいつもの調子でそう言いつつも、珍しく多分と言った。

「そっか……そうだね」

 楓は笑った。

「こういうのは、やる事のほうが重要です。その結果の分からないものに対して、やり続けていく事のほうが重要なんですよ」

「やり続けていくこと……かぁ……」

 楓はタブレットを小玉さんに返した。

「そういう意味では、レンコントを続けられている楓さんは素晴らしいと思います」

「そうかな?」

 楓は眉を寄せた。

「あれ……もしかして、実感がありませんか?」

「え、何の?」


「ここに居る人達全員、楓さんの思いに引き寄せられて集まった人達ですよ?」


「え……?」

「もっと言えば、ここに居る人はその中の数人だけ。ASの会員は五万人。もっと言えばアニマルサポーターなんて参加校が毎年増えて、今は八万人ですよ? その十三万人の元になっている、頂点に立っている女王は楓さんですよ?」

「は……? 女王!?」

 楓は驚き、固まった。

「そうですよ楓さん」

 彩がやってきて、楓の後ろに座ると、ビールを注いだ。

「あ、藤崎さん……じゃなかった、彩ちゃん……ありがと。でもさ、元々彩ちゃんが先頭に立って始めた活動じゃない? 私は何も関係無い」

「関係無いわけないじゃないですか……。確かにに言い出しっぺは私ですけど、それを実現させてくれたのは、伊織と片桐くん。そして、片桐くんが私達にそう思わせてくれた大元は誰ですか?」


「……私?」

 楓が自分を指差すと、そこに居た全員がうなずいた。全員がその話に耳を傾けていた。


「俺達は楓さんに影響を受けて集まった仲間、同士です。楓さんのためなら何でも……って言っても出来ることには限りがありますけど……。それでも、出来る限りの事はやらせていただきます!」

 田辺が言うと、全員がうなずいた。


「みんな……」


「だから、楓さんはこれからもひたすら前へ突き進んじゃってください! 私達はその露払いをしますよ……。よし! みんな、乾杯するぞー!」

 小玉さんがそう言ってグラスを持ち上げると、全員がグラスを持ち上げた。


『AS会、行くぞー!』

『オーッ!』

 小玉さんがそう言ってグラスを持った手を突き上げると、全員が同じようにグラスを突き上げた。


 って、一体どこへ行くのやら……。

 俺はウーロン茶を一口飲むと笑っていた。

「蒼汰、ありがとう……」

 楓は俺を見た。

「ん? 何がだ?」

「知りたかった答えは見つからなかったけど、別の答えが見つかった……。だから、ありがとう……」

 楓はそう言うと、俺の腕にもたれかかった。

「そうか、良かったな……」


「あーっ、そこ! 乳繰り合うの、禁止!」

 小玉さんはビールジョッキを片手に俺達を指差して叫び、もう一度腕を上げて丁度ツッコミを入れるような感じで腕を振り下ろしながらそう言った。

「乳繰り合っとらんわ! ってか、乳繰り合うって言うな!」

 俺は全力で否定すると、全員が笑った。

 酔っぱらい相手にはこのくらいの口調が丁度良いだろう。それにしても、小玉さんの言う「乳繰り合う」の意味がわからん……。


 その後、俺達は三日間の視察旅行の詳細をみんなに語って聞かせた。


 みんな興味津々で聞いてくれて、それがなんだか嬉しかった。こいつらはみんな、同じ志を共にした仲間なんだと……そう思えて、実感する事ができて……嬉しかった。


 俺達は、二人きりじゃない。




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