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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第3章 『何も望まなかった中の上』
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第85話 話せないと起こる問題




 そして問題は、テーゲル空港行きの飛行機の中で起きた。


「うっ……く……まだ、まだ大丈夫……」

 楓は苦しそうにそう言った。


「楓? どうした、顔色が悪いぞ?」

「だ、大丈夫だよ……まだ」

「……何がまだなんだ?」

「…………」

「な、本当にどうした?」

「(……トイレに……)」

「え? 何だって?」

 楓の声が小さく、ジェットエンジンの音が大きかった為、聞き取れなかった。

「と……トイレに……行きたくなっちゃった……」

「え、トイレ? あそこにあるから、我慢せずに行ってこい」

 俺は前方のトイレを指差した。

「う……うん……」

 楓は立ち上がらない。

「我慢せずに行ったほうが良いぞ?」

「で、でも……。途中で話しかけられたりしたら……」

「え……? お前、もしかして……英語で話しかけられるのが怖いから、トイレを我慢しているのか?」

「う、うん……」

「い、いや、でも漏れるほうが困るだろ?」

「そ、そうだけど……大丈夫、二時間なら…………多分……」

「そんなに英語で話しかけられるのが嫌なのか?」

「……うん」

「でも危なくなったら行けよ? 着陸態勢に入ったら立てなくなるぞ?」

「う、うん……」


 そして三十分後。


 ポン、ポン、ポン。と、機内のサイン変更アラームが三回鳴った。

『(お客様にご案内します。当機は間もなくテーゲル空港に着陸いたします。お席におすわりになり、ベルトをしっかりとお締めください。なお、暫く悪天候の中を降下する為、激しく揺れる可能性がございます。ベルトがしっかりと締められているか、今一度お確かめください)』


「なんて言ったの?」

「わからん……。多分、もうすぐ到着するからベルトを締めろってことだろ。ほら、しっかり締めろ」

 俺は楓のベルトをきつく締めた。

「あ、ダメっ……! そ、そんな事したら……漏れちゃうよ……」

「あ、すまん……」

 俺は楓のベルトを少しだけ緩めた。


 その後、飛行機は降下を続け、激しく揺れ始めた。

「あ……ダメ……ダメだよ……くっ……止めて……ゆ、揺れないで……」

 楓は飛行機が揺れる度、声を漏らした。

 俺はずっと楓を見ていた。

 下から漏れていないと良いんだが……。


 十五分後、機内のモニターに滑走路が表示され、徐々にそれが近づいて来た。


 ドン! と、飛行機が大きな音を立てて着陸し、そのままゴーッ! と物凄い音と同時に逆噴射が始まると、俺達の身体は前に、ベルトに押し付けられた。

「あ、押さないでっ……! お願いだから!」

 その瞬間、楓が大声で叫んだが、逆噴射のジェットエンジンの音でかき消されていた。


 七秒ほどで逆噴射が止み、身体は重力の重さだけで、椅子の上に乗った。

「……大丈夫か?」

「……まだ……平気」


 そのまま飛行機が空港のウィング、乗降口に到着して飛行機が停止し、ベルトのサインが消えると、乗客が一斉に立ち上がり、そのまま通路に列をなした。

 しかも行列はなかなか前に進まない……。

「あ……ど、どうしよう……。蒼汰ぁ……!」

 列が一向に進まず、楓は俺を見て泣きそうになっていた。

「んーと……。あ、すみません! トイレ、使ってもいいですか!?」

 俺は近くに居たアテンダントさんに日本語で聞いた。

「(どうされましたか?)」

「トイレ、トイレ。オーケー?」

 俺はトイレを指差した。

「オーケーオーケー、(どうぞ、お使いください)」

 アテンダントはそう言って、左手を横に出し、トイレへ行くことを促すようなハンドサインをしてくれた。

「楓! あのトイレ、使って良いそうだ!」

「うん!」

 楓はそのまま小股で通路を逆行し、楓は何とか飛行機の後ろにあるトイレに入った。


「間に合った……のか? サンキューベリーマッチ」

 俺は楓がトイレに入るのを見届けると、アテンダントお礼を言った。

「(どういたしまして。ずっと我慢をされていたのですか?)」

「あ、えっと……。アイキャントスピークイングリッシュ」

「(わかりました)」

 アテンダントさんは笑った。


 そのまま機内で五分ほど待つと、楓がトイレから出てきた。

「はぁ……危なかった……」

「大丈夫か?」

「うん。助かったよ、ありがとう」

「礼ならそのアテンダントさんに言ってくれ」

 俺はアテンダントさんを見た。

「え……?」

 楓はアテンダントさんを見た。

「(大丈夫でしたか?)」

「え、えっと……。さ、サンキュー……」

「(どういたしまして。ご無事なら良かったです)」

 アテンダントさんが笑うと、楓は苦笑いした。


 ここまでが俺の回想だ……。


 ──


「と……ついさっき、こんな事があった」

 俺はアリシアを見た。


「……楓、もう大丈夫なんですか?」

「うん、もうなんともないよ。ありがと」

 楓はアリシアを見て笑った。

「なら良かったです……。でも、二人共英語が話せないって……この先どうするんですか?」

「いや、それを三人で相談しようかと……」

 俺はアリシアを見た。

「やっぱり……これ……って事ですか?」

 アリシアはスマホを取り出し、指差した。

「それしかないだろ……」

 正直、来るまでは。日本人が誰もいないという環境に来るまでは、俺もなんとかなるだろうと……そんな甘い考えを持っていた。だが、意外にも敵は己の中に居た。このまま楓がトイレにいくのを怖がったり、買い物を怖がったりするのはマズい……。


「でもなぁ……」

「ですよね……」

 俺とアリシアは顔を見合わせた。

「なに? スマホで能力を追加すると、何か困ることがあるの?」

 楓はアリシアを見た。


 俺は結婚する前、アリシアを紹介した後、楓に自分の能力はアリシアにつけてもらったものだと説明していた。ただ可能な限りの全てを知ってもらった上で、楓に納得してもらった上で、結婚したかったからそうしたのだ。


「なんかこう……これを多用しすぎると、ねぇ……」

 アリシアは俺を見た。

「ああ……。なんか、多用しすぎると……しっぺ返し的なものを食らいそうな気がするんだ……」

 俺は楓を見た。

「……しっぺ返し……。そう言うルールなの?」

「いや、ルールとかじゃない……。ただ、そういう気がするだけだ……だけなんだが……」

「そうなんですよ。ルールではないんですけど、こう……引っかかるんです……」

「だよな」

「はい」


「引っかかる……。じゃ、今、蒼汰が使っている能力ってさ、しっぺ返しされたの?」

「いや、何もされてないと思う。もしかすると、ただ気づかないだけなのかも知れんが……」

「じゃ、それってしっぺ返しされない理由があるんじゃないの?」

「ああ。それはあると思います」

「え? 分かってるの?」

「多分、蒼汰の役に立つだけではないから……。あ、そうか! それなら大丈夫ですね!」

 アリシアは俺を見た。

「何故そう思う?」

 俺はアリシアを見た。

「蒼汰一人が特をする訳ではありませんから」

「俺一人が……? 俺にしか能力を付けられないよな?」

「ええ。でも、それによって恩恵を受けるのは、蒼汰一人ではありません」

「あ、そういう事だね!」

 楓はアリシアを見た。

「はい」

「……どういう事だ?」

「蒼汰、あなたと楓は、ここに何をしに来たのですか?」

「何をしにって……。あ、そういう事か!」

「はい、そういう事です」

 アリシアは笑った。


 俺と楓は最先端の動物保護活動を見学しに来たのだ。それなら、俺達だけがいい思いをする訳ではない。俺達の目的はより多くの動物を保護し、助けるという目的。そしてそれに賛同し、協力してくれている空さんや小玉さんを始め、ボラさん達の役に立つものを見つけるため。そして、その結果、より多くの動物たちを救う為だ。

 それなら、目的ははっきりしているし、俺達が能力を使って翻訳することでしっぺ返しを食らうこともなさそうだ。むしろこれを使わなかったら、正しく理解できず、俺達の視察は無駄になってしまうかもしれない。そちらの方が多くの人に迷惑がかかり、罪だと言えるかも知れない……。


「……なんか、いつの間にか旅行感覚になっていた……」

 俺は少し反省した。

「そうと決まれば、パパッとやっちゃいましょう! うーんと……英語が話せれば良いんですか?」

 アリシアは俺を見た。

「いや、何語って言うんじゃなくて、動物と話せるようにした時みたいに、全ての人間と会話ができて、全ての人間が書いたものが理解できる。そういう感じで頼む。全言語の読み書きと、会話だ」

 ここはヨーロッパ。多分、ドイツ語と英語以外も混ざってくる。

「分かりました……全ての言語の読み書きと、会話……うーん、えい!」

 ピッ。と、アリシアはスマホのボタンを押した。


『Attention please. The baggage of Fin Air 1435 flight delivered in the 15th lane of baggage claim will be closed in 15 minutes later. If you use it please hurry. ── 繰り返し、お客様にご案内します。十五番レーンにてお届けしております、フィンエアー1435便の手荷物は、十五分後に閉鎖されます。ご利用のお客様はお急ぎください』


「あ……凄い……」

 俺はその突然の状況の変わり様に、呆けた……。


 空港の中に響き渡っていた、英語のアナウンスが途中から全て日本語で聞こえ、周囲の看板が全て日本語に見える……。多分、看板にはドイツ語と英語が併記されているのだろう。俺にはそれが「大きな日本語と小さな日本語で併記」されているように見える。


「なんだこれは……」

「聞こえましたか?」

「聞こえたの?」

「ああ、聞こえた……まるで日本に居るみたいだ……。って感動している場合じゃない!」

「え……? どうしたの?」

 楓は俺を見た。


「急がないと俺達の手荷物受取が閉じるぞ!」


「え!? どこどこ!?」

「十五番レーンって言ってたから……えぇっと、あっちだ!」

 俺はあたりを見渡し、看板を見て、楓の手を取ると手荷物受取所へ急いだ。


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