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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第3章 『何も望まなかった中の上』
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第80話 結婚と生活



 その後、俺達と藤崎たちの両親との話し合いの末、俺と楓の結婚式と、田辺と藤崎の結婚式は、合同式になった。同じ日に、一緒に二組の結婚式を同時に執り行うというものだ。


「本当にいいのか?」

「え、何が?」


 俺と藤崎はその合同結婚式の打ち合わせのため、一緒に神社に打ち合わせに出向いていた。


「俺達に合わせてないか?」

「そんな事無いよ。ただ、目指すもの、やりたいことが同じだっただけ」

「そっか……なら良いんだが……」

「それにさ……。櫻井くんと楓さんはお休みがないでしょ?」

「ん? ああ」

「だったら、一緒の方が良いじゃない。しかも安い!」

「……まぁな」


 実際に話を聞いてみると、それ程大変ではなかった。ただ、二組の結婚式を同時におこなうと言うだけで、時間が倍になり、参列者が倍になるだけで、実際には作業が四人で手分けできるので、こっちのほうが楽なのかもと思うほどだ。まぁ、時間の方は三十分長くなる程度で大したことはない。問題は参列者の方だ。


「そっちって、多いのか?」

「うーん、どうなんだろ……。私の方は多くないと思うけど……伊織の方はわからないなぁ……」


 そんなこんなを繰り返し……。


 ──


 あっという間に結婚式当日。


「なんか、俺達は七五三にしか見えないな……」

「あはは、だな」

 俺と田辺は白い紋付袴を着せられ、さながら大きな子供の七五三のようだった。

「あっちはどうなんだろうな?」

「あっちは間違いないだろ」

「まぁ、そうだとは思うけどな」


 実際には心配には及ばなかった。


「お……」

「おぉ……」

 俺と田辺は楓と彩の白無垢姿に言葉を失っていた。

「蒼汰、何か言うところでしょ?」

「この反応を見たら分かるだろ?」

「分かるけど……言って欲しい」

「……綺麗だぞ」

「……うん」

「伊織も」

「あ、ああ。綺麗だ、彩」

「ありがとう……」



 俺達は神社の外を回り、神社の入口へ向かった。入り口には神主さんと親族が待っていた。


 ドン! ドン! ドン! ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン……。 ドン!


 小さな神社の演舞台の上で、大きな太鼓の音が響き渡ると、辺りは静まり返っていた。

 ここは俺の実家と楓の実家にほど近い、少し大きめの神社。広い境内には舞を奉納するための演舞台が設けられ、今回はその上に神棚が設けられていた。


 太鼓の音を合図に、神主さんを先頭にして、巫女さん二人。その後に俺と楓とアリシアが、その後ろから田辺と彩が、その後ろに俺達の親族が続いて列をなし、そのまま鳥居を抜けて参道を演舞台へと歩くと、同時に「ミャー」という雅楽のCDが流れる。

 親族は親兄弟以外、全員演舞台の下の席に着く。今回は全員乗り切らないので、一親等以下は全員を下に座らせたのだ。もともと演舞台自体がそれほど高くなく、せいぜい一メートルくらい。なので、下からでも良いだろうということになった。

 神主さんを先頭に、俺達と家族が演舞台に上がる。

 神主さんは全員が定位置につくと、神殿へ振り返った。


けまくもかしこ伊邪那岐(いざなぎの)大神(おおみかみ)……」


 そして祝詞が始まった……。


 ──


 こうして俺は片桐蒼汰になり、藤崎は田辺 彩になった。


「じゃ、ここでお別れだね」

「結婚式までお休みできないって……大変ですね……」

 楓がそう言うと、彩はそう答えた。


 無事に全ての祭事を終え、俺達は合同披露宴を終えると着替え、そのままレンコントへ戻る。田辺夫妻はそのままハネムーンに旅立つ。なので、今日はここでお別れだ。


「ううん。こうして結婚式を挙げさせてもらえるだけでいい。十分だよ」

 楓は笑った。

「俺達の分まで楽しんできてくれ」

「おう、それは任せろ!」

 田辺はそう言って笑った。

土産みやげ話、楽しみにしてるからね」

「はい!」

 楓と彩は抱き合った。

 それを見て俺と田辺も両手を広げ……。

「いや、なんか違うな……」

「だな……俺達はこっちだろ」

 田辺は右手を差し出した。

「だな。気をつけてな」

 俺は田辺と握手した。

「おう、それも任せろ。じゃ、先を急ぐからまたな。彩、急ぐぞ」

「あ、うん。じゃ、楓さん。また」

「うん」

 田辺がタクシーに乗り込み、彩が追いかけてタクシーに乗り込むと、ドアが閉まってタクシーはそのまま走り去った。二人は後ろの窓から見えなくなるまで手を振っていた。俺達も手を振っていた。


「はぁ、行っちゃった……」

「じゃ、戻るか」

「うん。戻ろう」

 楓は腕を組んだ。

「アリシアちゃん」

「はい」

 アリシアは俺の反対側に腕を組んだ。

「……なぁ、これって……」

「嬉しいでしょ?」

「……まぁな……」

「これからはずっとこうね」

「ずっと!?」

「嫌なの?」

「うーん……嫌じゃないかな……。でも恥ずかしいぞ……」

「大丈夫だよ、アリシアちゃんは見えないんだから、誰も両手に花だとは気づかないよ」

「んまぁ……そうなんだが……」

 俺達は三人並んで歩いていた。


「あ、でも……」

「なんだ?」

「アリシアちゃんに興奮したら怒るからね」

 楓は俺を見た。

「は……? あ、はい……」

「蒼汰、私のことが好きですからねぇ……難しいかもしれませんよ……」

 アリシアは楓を見た。

「それでも怒る。それは我慢ならないからね」

 楓は俺を見た。

「は、はい……」

「私は別に構いませんけど……」

 アリシアは俺を見た。

「私が構うの! って、結婚初日で怒らせないで!」

 楓はアリシアを見た。

「あはは……冗談ですよ、冗談」

「……アリシアちゃん、可愛すぎて冗談に聞こえないんだよなぁ……」

「聞こえてますよ?」

「良いの。それは本当のことだから」

「ありがとうございます」

「……もう……この先大丈夫かなぁ……」


 ──


 俺達はレンコントへ戻り、一通りの仕事を済ませると家に帰った。


「ただいまー」

「あ、おかえりー」

 玄関に入ると、美月が出迎えてくれた。


 今日から俺と楓の暮らす家は、楓のマンションだ。

 と言っても、先日、俺の荷物を全て運び込んだ時点から、ここが俺の新居になっていた。なので、初めて「ただいま」と帰ってきたわけではない。


「楓、先に散歩行ってこようか?」

「あ、一緒に行くから、待ってて!」

「おう」

「ご飯は?」

 美月は台所で料理を温め始めたが、それを聞いて振り返った。

「戻ってからにする」

「わかったわ」


 俺はここに返ってくるようになってすぐに美月とはタメ口で話していた。美月の顔を見た途端に、小鉄の頃の記憶が蘇り、そのまま小鉄時代の印象で喋っていたのだ。その話を美月にしたら、それで構わないと言うので、そのまま現在に至る。


「お待たせ、行こう」

「おう」

「散歩行ってくるよ!」

「いってらっしゃーい! あ、アリシアちゃん、お散歩バッグ!」

「あ、忘れてました! ありがとうございます」

「うん。じゃ、気をつけてね」

「はい、行ってきます!」


 俺が二匹、楓が一匹の老犬のリードを持ち、アリシアがお散歩バッグを持つと玄関を出た。その後、俺と楓とアリシアは相談し、同居するのだからと美月にもアリシアが見えるようにした。美月はそれは喜んだ。喜び、感謝の言葉を繰り返していた。


 マンションを出ると、そのままいつもの散歩コースを歩く。


「なんか、不思議だよねぇ……」

「何がだ?」

「こうやって、また小鉄と一緒に暮らして……まさか結婚するとは思ってなかったよ……」

「だな」

「しかも、アリシアちゃんまで見えるようになるなんて、思ってなかった」

「ですねー……。私も蒼汰以外の人と話ができる日が来るとは思ってませんでしたから」

「だよねー」

 楓は笑った。

「けど……なんだか理想の形になったかもな……なんかそんな気がする」

 俺は前を見ながら言った。

「あ、それ。私も思った」

 楓は俺を見た。

「やっぱりそうか?」

「うん。やっとなれた……そう思うよ……。なんでそう思うのかは分からないけどね」

 楓は俺を見た。

「俺もだ」

「…………」

 アリシアは黙っていた。


「あれ? アリシアちゃんっていつも飛んでるけど、運動とか必要ないの?」

「ええ。私は飲食しませんから」

「あ、カロリーを消費する必要がないのか……なんと羨ましい……」

「私は皆さんが飲食して、嬉しそうだったり、美味しそうだったりするのが羨ましいですよ」

「あ、そうか……。似たり寄ったりなのか」

「そうですね……。ところで」

「ん?」


「お二人は子供は作らないのですか?」


「え!?」

「は!?」


「いえ、二人がゴニョゴニョしている所を見たことがないなぁーと……」

「……そ、そ、そう言えばさ……」

「な、なんだ……?」

「そ、蒼汰が……お風呂とか入る時、アリシアちゃんは……どうしてるの?」

「あ、そう言う時は外で待っててもらう」

「あ……そうなんだ……」

「安心してください、そういう時はちゃんと外で待ってますから。安心して行為に至ってください」

「いや、行為に至るって……」

 トゥルルルルル。とアリシアのスマホが着信音を鳴らした。

「ん? あ、ちょっとごめんなさい」

 アリシアはスマホを取り出し、電話を受けた。

 ん? アリシアに電話がかかってきた? 誰からだ?


「はい、アリシアです。あ、こんばんわ。どうされましたか? ええ。……え!? そ、それって……伝えてないんですか!? ……あ、はい……。ええ……あ、わかりました。では、私から伝えます……はい。失礼します……」

 アリシアはそう言って電話を切った。


「誰からだ?」

 俺がそう言うと、アリシアは俺の耳元で囁いた。

「(ルシア様からです)」

「はぁ!? あいつ、電話かけてくるの!?」

「(あいつとか言うの止めてください!)」

「あ、あぁ。すまん……それで、何だって?」

「(コソコソコソ)」


「え!? そんな重要なこと、言い忘れてたって!?」

 俺は固まった。アリシアから聞いた、新たなルシアからの伝言に固まり、楓を見た。


「え? どうしたの? 誰から?」

 楓は俺を見た。

「……どうするか……。今言ったほうが良いか?」

 俺はアリシアを見た。

「早いほうが良いですよ……だって新婚生活に支障が……」

「そっか……そうだな……」

「なに……? 深刻な話?」

 楓は眉を寄せた。

「楓……すまん……謝らなくちゃいけないことが、今、発覚した……」

「え……。まさか……そんな……」

 楓の目から涙が溢れ出した。

「あ、違う違う! 楓の思っているようなことじゃない!」

「……違うの……?」

「ち、違う……多分……でも、謝らなくちゃいけないのは本当だ。それを知ったら、離婚されるかもしれないような……そういう話だ……」

「……やっぱり……もう、死んじゃうの……?」

「違う! それは俺にもわからんし、教えてはもらえない話だ!」

「違うの……? じゃ……なに……?」

 楓はすっかり泣きっ面になっていた。

「ちょっと、耳をかせ」

 俺がそう言うと、楓は俺に耳を寄せた。

「(コソコソコソ)」

「え……?」


「蒼汰には子供が出来ない!?」


 楓は大声でそう言って、固まった。

「……らしい。俺も今知った……すまん……」

 俺とアリシアは頭を下げた。

「そ、それってどういう……」

「お前も知っての通り、俺は前世の記憶を持って生まれる、特殊な人間だ。あくまでも今は、って話な。それの制限らしいんだ……」

「絶対に……?」

「ああ」

「どんなに頑張っても?」

「多分、そうだ……そういう決まりらしい……」

「そっか……」

「すまない、楓……」

「申し訳ありません、楓……」

 俺とアリシアは、楓に頭を下げた。


「いいよ……」

 楓は優しい声で、そう言った。


「……良いのか!? こんな俺で……子供が出来なくても……良いのか?」

「うん。いいよ……。それはさ、運命なんだと思う。実際に、子供が出来なくて悩んでいる人って多いじゃない? 私もその一人なんだと思えばいい……。むしろ『あなたには子供は出来ません』って言われたほうが、色々悩まなくてもいい……清々するよ」

「楓……お前、強がって……」

「ううん。強がってないよ、心配しないで」

 楓が歩き出し、俺達はそれを追いかけた。

「子供はさ、欲しいってわけじゃないの……。こういう生活だし、結婚だって出来ないかと思ってた……。でも、それは叶った。蒼汰のおかげで、叶っちゃった。子供はさ、天からの授かりものだって言うじゃない? 私もそう思うの。こう……科学的にどうこうして作るものじゃないって、そう思う……」

「そっか……ありがとう……」

「ううん、お礼を言われることじゃないよ。だからさ、私たちは私達の生活を……」


「一緒に楽しもう……ね?」

 楓は俺を見て笑った。


「分かった……もう言わない」

 俺は前を向いた。

「うん。楽しければいい……蒼汰が一緒に居てくれたら……」

 楓は犬に引かれ、前に出た。


「ありがとう……」

「どういたしまして」

 俺が小さくそう言うと、楓は振り向いて笑った。


 俺はこの先、どれだけ楓を楽しませ、この笑顔を増やしてやる事が出来るのだろう?




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