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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第2章 『運だけの猫』
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第8話 同じ記憶を共有する二人



 数日後。


「なんか楓のSNS、人気が出てきましたね」

「え……?」

 自分のベッドの上で惰眠を貪っていた俺は、頭を動かしてアリシアを見た。

「と言うか、小鉄が人気……と言った方が正しいですかね」

 アリシアは宙に浮いたまま、何かを見ていた。

「そうなのか……? って、お前。何持ってんだ?」

「え……? ああ、これですか?」

 アリシアは左手のデバイスの画面を俺に向け、右手で指差した。

「ん……? スマホ?」

「ええ、天界スマホですよ」

「……ナニソレ?」

「いえ、天界スマホですって。え……いやまさか、知らないはずありませんよねー!?」 

 アリシアは嘲笑ちょうしょうするように俺を見た。

「いや、知らん。てか、なんだか凄そうな名前だな……」

 天界スマホなんて聞いたこともない……。

「いえいえ、そんな期待の眼差しで見られると困るんですけど……」

 いや、別に期待はしていない……。どうせ、普通のスマホに「天界」って名前をつけただけで、「実はほぼ同じなんですよー」なんてオチなんだろ?

「一応聞いてやる。それで何が出来るんだ? ってか、それ……どっから出した?」

 アリシアが着ているのは、黒地に白いフリルが付いた普通のメイド服。しかしどこにもポケットらしきものは付いていない。

「え……? こっから」

 アリシアは俺に背を向け、右手で背中のあたりを指差した。

「いや、ここって……そこには何もないじゃないか」

 背中にポケットがあるわけでもない。

「いえ、あるんですよ。ほら」

 アリシアが右手を空中に突っ込むと、アリシアの右手の先が何かの中に入り、指先が見えなくなった。

「……それ……どうなってんの?」

「いえ、そんな難しい話じゃありません。あの……なんちゃら無双って、知ってます?」

「ああ、あの有名なゲームか。知ってる」


 昔、○○無双というシリーズ物のゲームがあった。発売当初、大量の敵キャラをバッタバッタとなぎ倒すことが出来るという、他のゲームではありえないシステムで、一世を風靡ふうびした。しかし、そのゲームは手を変え品を変え、毎年のように新しい名前で続々と登場し、でもその中身がほぼ同じという、少々残念なゲームに成り下がっていった。今では「たった一人で大活躍する」という意味で「○○無双」という一つの言葉として成り立っているが、その逆で「既にすたれて落ち込んだもの」という意味としても使われることがある。勝手な言い草だが、ファンの一人としては「もうちょっとやり様はなかったのか?」と思う。残念な限りだ……。


「あれですよ」

「……なにが?」

「あれ? やったことはないんですか?」

「いや、散々やり尽くした」

 三作目くらいまではやりこみ要素を含め、かなりやっていたような気がする……なんだかうろ覚えだが……。

「じゃ、解りますよね! アレですよ!」

 アリシアは振り返ると、人差し指を立て、キメ顔でそう言った。

「……いや……全然わからん」

「えーっ……本当にやってましたー?」

「ああ……」

「じゃ、解るでしょー? ほら! ほら!」

 アリシアが右手を背中に回すとスマホが消え、もう一度右手を背中に回すとスマホを持っていた。それをほら、ほらと何度も繰り返した。


「……ダメだ。ぜんっぜんわからん」

 俺は薄目でアリシアを見た。

「……やってませんね?」

「いや、やった! ……やった、筈だが……」

 なんだか自信がなくなってきた。

「じゃ、プレイヤーキャラが武器チェンジする時、手を後ろにやると違う武器に変わっているのは知ってますよね?」

「え……それ?」

 俺は固まった。やっとアリシアの言っている意味がわかり、固まっていた。


 無双シリーズの……3とかだったっけ? そのくらいからプレイヤーキャラの持つ武器が、ゲーム中に変更できるようになった。それぞれのキャラが持つ武器は、ゲーム画面を見て解るようにとても大きな武器を持っていることが多い。そんな自分の体よりも大きな武器を、それぞれのキャラクターは自分の背中に隠すことで交換する。まぁ、意味合い的には後ろに隠して見えない隙に変える、と言うことなんだろうが、実際には自分はキャラクターの後ろから見ているので、パッと切り替わるところを見せつけられているようで、なんだか妙な気分だった。


「そんなの、解るかーっ!」

 てか、回りくどいわ!

「……いえ、分かりますって」

「いや、分からないって! ってかお前、前世は犬なんだろ? なんでそんなことを知ってるんだ?」

「え……? 小鉄と同じく、一般常識としてルシア様に教えていただいたんですよ?」

「え……俺と、同じ?」

「小鉄だって、前世の記憶はないですよね?」

 あれ……? そう言えば俺、前世の記憶がないぞ……? 知識はあるのに、前世のことは何も思い出せなかった。

「ああ……。ちょっと待て、教えてもらったってどういう意味だ?」

「いえ、私が小鉄の記憶を少しだけ戻しましたよね?」

「そう……だよな?」

「はい。その時の記憶は前世の記憶ではなく、ルシア様から頂いた一般常識なんです」

「あ、そういう事……。それでか……」

 俺は香箱座りした。どうりでやったようなやってないような気分に……。

「いや待て。じゃ、どうして俺は……無双シリーズのファンになった様な気分になってるんだ?」

「ああ、それは多分、ルシア様の記憶だからですよ」

「……は?」

 ルシアの記憶?

「ルシアって、人として現世で暮らしたことがあるのか?」

 ルシアが無双シリーズのファンだった……とでも言うつもりか?

「いえ、それは無いと思います」

「じゃ、どうして……」

「ルシア様の記憶……って言うのは少し語弊ごへいがありますね。ルシア様が与えてくださったものは、これまでルシア様が見てきたここ最近の魂たちの記憶。その中から代表的なものを選んで与えてくださった。言わば、魂たちの記憶の集大成。一般常識なんですよ」

「それって……沢山の魂の記憶の寄せ集めで、ごちゃ混ぜ、って事か?」

「そうですね」

「じゃ、現時点では俺の記憶も、アリシアの記憶も同じだと?」

「いいえ。それは少しだけ違います」

「どう違うんだ?」

「ルシア様から聞いていると思いますが、それ以外の部分。魂に刻まれたものが違います」

 あぁ……なんかそんな事言ってたな……。

「なるほど……じゃぁそこだけが違うと」

「はい。むしろそこしか違いません。私と小鉄は一心同体少女隊なのです!」

 アリシアはキメ顔でそう言った。

「おい……」

「はい?」

「ネタが、その……ジジ臭いぞ」

「じ……ジジ臭い!? 言うに事欠いてジジ臭いですと!? ……小鉄! そこに座ってください! いえ、座りなさい!」

「いや、とっくに座ってるだろ」

 むしろ伏せている。

「いいですか? あなたは相手に対する配慮というものが欠けています! そもそも私は男ではなく……」


 ※ピンポーン。三分後。


「……なので、私はあなたにジジ臭いと言われる筋合いはありません!」

「ああ、悪かった」

「わかればいいです、わかれば……」

 三分間の説教は、俺の一言で片付いた。


「で、アリシア」

「何ですか?」

 アリシアは不満そうに俺を見た。

「その、天界スマホってのは、どんな凄いことが出来るんだ?」

「あぁ、そうでした。いえ、普通のスマホですよ。ただ電池と電波が無制限ってだけの」

「……ただ冠名かんむりめいに『天界』ってついてるだけだと?」

「はい」

「あっそ……」

 やっぱり……。まぁ、電池と電波が無制限ってのは凄いとは思うが。

「あれ……なんか落胆してません?」

「そりゃするだろ。仮にも天界って名前なんだから、こう……世界中の人の状況とか居場所とかが分かったりするとか、そういうファンタジックな何かを想像するだろ」

 普通は……。

「あ、そのくらいだったらできますよ」

「……は?」

「なんですか?」

「いや、今なんと?」

「なんですか? ……と」

「いや、その前」

「……そのくらいだったら、できますよ?」

「できるのか……?」

「ええ、天界スマホですから。と言うか、小鉄の驚く基準はよくわかりませんねぇ……」

 アリシアは俺を見て困った顔をした。俺は困ったちゃんらしい……。

 いや、俺はお前の凄い、凄くないの基準が分からん……。


 その後、アリシアからスマホを使って楓のSNSを見せてもらい、俺は微笑んだ。



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