表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第3章 『何も望まなかった中の上』
71/110

第71話 助けると言う事




 前の車が動物病院の駐車場に入り、楓はその横に車を停めた。

 獣医師さんは外で待っていた。


「レンコントの片桐です!」

「お待ちしてました! どうぞ中へ」


 俺と楓は三匹ずつ抱え、診察室へ入った。俺達は診察台の上に子猫たちを並べ、先生は一匹ずつ状態を確認し始めた。


「蒼汰、メモ」

「ああ。信じてもらえないかもしれませんが、この子達の状況をお伝えします」

「信じます」


 俺はメモを読み上げた。


「じゃ、ピンクが一番問題だな……。君、助手の経験あるんだよね?」

「はい」

「僕がピンクを見るから、君はそっちでまだ洗っていない子を洗って。それから、ダニをチェック」

「はい。楓、グリーンとパープルを洗う」

「うん」


「あ、マズい……。この子、マダニの噛み跡がある……そっちはないか?」

 先生はブルーを見ている時、マダニの噛み跡を見つけた。

「パッと見はありません」

 俺は毛を掻き分けて探したが、見つからなかった。

「よし……先に毛を刈ってマダニのチェック。それから温めてくれ」

「はい」

 俺はテーブルの横にあったバリカンを取り出し、子猫の毛を刈り始めた。

「よし、次」

「はい」

 俺が楓に丸坊主になった子猫を渡し、次の子猫を受け取ると毛を刈った。

「あ、こっちにも噛み跡が! まずいな……先生、血清はいくつありますか?」

「いや、一匹分しかない……」

「え……?」

「血清が足りない……」

「そんな……」

「どういう事?」

 楓は俺を見た。

「マダニの毒に対する血清が、足りない」

「え!? じゃ、じゃぁどうすれば……」


 リーン、リーン。楓の電話が鳴った。


「もう、誰よこんな時に!」

 楓はスマホを取り出し、発信元を見た。

「空……!?」

 楓は空さんからの電話だと分かり、すぐに受話のボタンを押して耳に当てた。

「もしもし空!? 今どこにいるの!? え……? マダニの血清をありったけ持って電車でこっちに向かってる? 今どこ!? ……もうすぐ品川!? わかった! すぐ行くから駅で待ってて!」

「空さんが来てるのか?」

「うん、マダニの血清をありったけ持ってもうすぐ品川駅に着くって、迎えに行ってくる!」

「気をつけろ! 安全運転だぞ!」

「任せて!」

 楓はそう言うと、動物病院を出ていった。

「君、急いで他の子も刈ってチェック!」

「はい!」

 俺は子猫の毛を刈り続けた。


 俺が全ての子猫の毛を刈り、先生が子猫に残ったマダニの口先を抜き取り、そのまま待ち合い室で待っていたブチを連れてきて毛を刈ると、やっぱりマダニの本体が取りついていた。

 結果、ブチを含め、ブルーとグリーンの三匹がマダニに噛まれていたのだ。


 マダニは恐ろしい害虫。血を吸いながら毒を注入する蚊のような生物で、巨大なダニ。ただ、蚊のような軽い毒ではなく、猛毒。猫のような小さな動物、それこそ子猫にとってはすぐに死んでしまう危険性があるほどに、猛毒なのだ……。場合によっては、中型の犬でも死んでしまうことさえある。


 先生は一通りの処置を終え、最も症状の酷いブルーに血清をうち始めた。そしてすぐに他の二匹にいつでも血清が打てるように、処置をした。


 バン! と診察室のドアが勢い良く開いた。

「先生、持ってきた! 準備は?」

 空さんが駆け込んできた。いつものグレーのジャージ、白衣のままだった。

「終わった。その子とその子に打つ」

「わかった。私はこっちをやる」

「ああ。私はこっちだ」

 二人は並んで残ったグリーンちゃんとブチに血清をうち始めた。


「よし、後は?」

 空さんは血清をうち終え、先生に聞いた。

「後は回復を待つだけだ……。他に私たちにできることは、祈る以外に何もない」

「わかった……。ふぅ……ありがとうございました」

 空さんはため息を一つつくと、先生に頭を下げた。

「いいえ。困ったときはお互い様だよ。でもまだ安心はできない」

「そうですね……」


「……あの……なんか、落ち着いたのは見ていて分かるんですけど……。状況を、説明していただけませんか?」

 楓は先生を見た。

「ああ、そうだったね……」


 先生はこう説明してくれた。

 ピンクは元々心臓が弱い様だ、いま薬を打って安定しているが、予断を許さない。レッドとイエローは問題なし。ブルーは毒が回り、喉がアナフィラキシーで腫れてふさがり始めている。管を通して気道を確保しているが、横隔膜が痙攣けいれんを起こしたりでもしたら、それこそ命が助からない。今一番容態が悪いのがブルー。パープルは問題がなさそうに見える。足のかゆみという指摘があったが、特に問題がなさそう。


「え? 足のかゆみ?」

 空さんは俺を見た。

「はい。このあたりが無性にかゆくなりました」

「蒼汰くん……ちょっとこっち来て!」

「え……あ、はい……」

 空さんは俺の腕を掴み、グイグイと引っ張ると、そのまま病院の外へ連れ出した。



「蒼汰くん! 死にそうな患者にやっちゃダメだって言ったよね!?」

 空さんは病院の前で俺の腕を突き放した。

「……すみません」

「君が死んだら、楓はどれだけ悲しむと思う!? どれだけ後悔すると思ってるの!? 君が死ぬことで楓は一生その後悔を背負い続けなくちゃいけないんだよ!? ……君の身体はもう君だけのものじゃない!」

 空さんは見たこともない剣幕で、俺をまくし立てた。

「……はい、すみません」

「あぁ……まさか、あの電話の意味がそっちだったなんて……迂闊うかつだった……」

 空さんは精一杯俺を叱りつけると、両手で自分の頭を抱えた。

「あの……空さん?」

「……はぁ……。君がやらない訳がないか……」

 空さんは頭を抱えたまま、俺を見てため息をつくと、両手を下ろして肩を落とし、そのままフラフラと俺を優しく抱きしめた。

「そ……空さん?」

「きっと、私が君を知らない……知らなかったんだ……。すまない……」

「いえ……そんな!」

「でも、頼む……。お願い……。楓を悲しませないで……。君の身体も大切にして……」

「……はい……」

 空さんの言葉は重かった。

「よし、戻ろう」


 空さんと俺は病院へ戻った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ