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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第3章 『何も望まなかった中の上』
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第62話 受験と就職



 一ヶ月後。


「蒼汰ってもう十八歳になったんだよね?」

「ああ、六月で十八になったぞ。って、知ってるだろ」

「よし! うん、でも一応確認」

 楓はガッツポーズをすると、俺を見た。

「でも、まだ結婚はしないぞ」

「まだ何も言ってないでしょ!?」

「……違うのか?」

「そ……それは二十歳になってからって……お酒みたいなことを言われたけど。それじゃない」

「じゃ、何だ?」

「社員になって欲しいの」

「社員?」

「うん」

「ここ、一般社団法人って言ってなかったか?」

「ああ、ベラ・レンコントは社団法人だけど、サロンと動物病院は一般企業なの」

「……え、そうなのか!?」

「うん。同じ建物の中にあっても、この二つは普通の企業。株式会社レンコントのお店なんだよ」

「ん? 動物病院も店なのか?」

「うん、本当は法人にした方がいいんだけど……なんかね……」

「あ、楓が嫌ってことか?」

「うん……。あ、それでね。蒼汰が始めるしつけ教室も会社の方の店舗なの。それで、社員」

「あぁ、そういう事か……。わかった」



 そんな風にしつけ教室の話が進む流れの中で、一つだけ問題があった。


「大学は出たほうが良いよ!」

「いや、楓だって出てないだろ?」

「私は、最初からここをやるつもりで専門学校に入っちゃったから出てないけど……蒼汰は出たほうが良いよ!」

「なんで?」

「え……? だって、ここが潰れたら、蒼汰の働き口が……」

「じゃ、大学を出たら、大学を出てないやつよりも有利だと?」

「……多分……」

「もう少し、理論的に説明してみてくれるか?」

「…………」

「出来ないだろ?」

「でも……あ、ご両親はなんて?」

「任すとさ」

「え……そうなの? 随分寛大なご両親だね……」

「ああ。今の俺の生活を見て、楓さんにおまかせする。だそうだ」

「おまかせ? しかも私に!? ものすごい責任重大じゃない!」

「いや、違う違う。お前に俺の進路を任せるっていう意味じゃない」

「え、違うの?」


「俺の人生を任せるって意味だ」


「もっと責任重大に!?」

 楓は固まった。


「ってか、俺たち結婚するんだよな?」

「え……? あ、うん。蒼汰が嫌がらなかったら」

「それ……まだ気にしてるのか?」

「……してないよ。でも、いつ蒼汰から嫌われても良いように……」

「そんなに俺が信用出来ないか?」

「ちが……! わないのかなぁ……分かんないや……」

 楓は否定しかけ、そのまま困った顔をした。

「楓。俺はお前が好きだ」

「え……」

「それはここ二年の話じゃない。いや、正確にはここ二年なのか……? とにかく、前世から好きなんだ。そう言う意味では、俺は前世からつむいできた思いを叶えられた……。お前が生きている世界に生まれてこられるなんて、思ってもみなかった。だが同じ世界に、同じ時間に生まれることが出来た。そしてお前と出会うことが出来た。その上、お前と結婚するなんて夢、叶えたらダメか?」

「ダメな訳……ない」

「な、叶えてもらえないか?」

「え……それって……」

「あ、それは別にする」

「え?」

「プロポーズって意味なら、別にする」

「あ……うん……。そっか、わかった」

 楓は嬉しそうに微笑んだ。

「それでな」

「ん?」

 楓は満面の笑みで俺を見た。


「大学に行かなくてもいいか?」


 俺が真っ直ぐに楓を見てそう言うと、楓は満面の笑顔からフッと真顔の不満そうな表情に変わった。

「……蒼汰……」

「なんだ?」

「私は今、フワフワとした気持ちいい世界から現実に叩き落されたような気分だよ」

「それが現実世界というやつだ」

「はぁ……。蒼汰はどうしたいの?」

「大学に行かず、ここでお前と一緒に働いて生計が立てられるようになったら……楓が養えるようになったら、結婚したい」

「……それ、ズルくない?」

「え、ズルいか?」

「だって……私を喜ばせることしか言ってないじゃない」

「ダメか?」

「ダメじゃないから困ってるんでしょ!? ……はぁ、私……堕落だらくして行きそうだなぁ……」

「大丈夫だ、その時は俺がなんとかする」


「……どうやって?」

「……さぁ……」


「はぁぁぁぁぁ。もう、どうしたら……」

「だから、大学に行かないでここで働けと言えばいい」

「その結果、蒼汰の人生を台無しにするかもしれないんだよ?」

「ならないさ」

「なんで?」

「楓と一緒にいれば、それだけで台無しになんてならない」

「もう、私はどうすればっ!」


「お前らうるさい……」


 空さんが事務所の扉を開け、休憩室に入ってきた。

「ってか、それって楓が決心したら済む話じゃないの?」

 空さんは腰に手を当てて呆れたように首を傾げると楓を見た。

「聞いてたの!?」

「聞こえてたの……。楓、蒼汰くんの希望を無視してまで大学に行かせたい理由があるの?」

「……わかんないんだよ」

「じゃ、楓はどうしたいの?」

「え……? 私の希望なんてどうでも」

「良いわけ無いでしょ」

「…………」

 楓は空さんを見た。

「楓の希望と蒼汰くんの希望、二つをきちんとすりあわせて答えを出さなかったら、後で必ず後悔するよ?」

「私が、いけないの?」

「私にはそう聞こえる。あんたが自分の気持ちを押し込め、我慢しているようにみえる。しかもそれが物凄く……」


「気持ち悪い」


「きも……」

 楓は固まった。

「あんたは自分が犠牲になることで蒼汰くんを一般的な道、それこそ『普通の道』へ進ませようとしている」

「普通の道……?」

「図星でしょ?」

「わ、分かんないよ! 普通の何がいけないの!?」

「いけなくなんかないよ。でもそれは蒼汰くんの望んでいない道。あんたはそれを勧めている。違う?」

「そう……なのかな?」

「私にはそう見える。あんたが出来ることをやろうとしないで、責任を逃れようとしているようにみえるよ」

「……はぁ。そっか……そうだよね……。もう、空には敵わないよ……この仙人が」

 楓はテーブルにうつ伏せると、ちらりと横目で空さんを見た。

「そりゃどうも」

 空さんは上着のポケットに両手を入れたまま、軽く頭を下げた。

「褒めてない」

「そう? で、どうするの? あんたが答えなくちゃいけないターンだよ」

「うぅん……」

 楓はまだ悩んでいた。

「楓……?」

 俺が呼ぶと、楓はチラリとこちらを見た。

「……よし、決めた! 蒼汰、私は蒼汰がやりたい道を応援する。ただ、軽はずみに大学を蹴らないで、もう一度ご両親とちゃんと話し合って欲しい」

 楓は起き上がるとまっすぐに俺を見て、そう言った。

「ああ。わかった」


 ──


 一週間後。


 夏休み直前の期末試験を前に、学校ではもう受験真っ只中の雰囲気が漂っていた。


「え!? 櫻井くん、大学受けないの?」

「ああ。受けないことにした」

「レンコンさんで働くってこと?」

「ああ。今度しつけ教室を始めるんだ。それで俺が楓のところの社員になる」

「あぁ、ボランティアじゃなくて、社員になるの?」

「ああ。来年の四月から社員だ」

「えーっ、じゃ受験ナシかぁ……いいなぁ……」

 藤崎は羨ましそうに言った。

「何の話しだ?」

 田辺がやってきた。

「あ、伊織いおり。櫻井くん、大学受けないで就職だって」

 伊織いおりとは田辺の名前だ。この二人、去年から付き合い始めた。なんかそういう雰囲気だなぁ……とは思っていたが、田辺はレンコントの流れもあり、その後ゴマちゃんを連れて藤崎の家に遊びに行ってはとし子さんと一緒に散歩をさせるという、古典的なアプローチを繰り返していたらしい。

「就職? どこに?」

「レンコンさん」

「え、ボランティアじゃなくてか?」

「四月から社員になるんだって。なんか……なんだっけ?」

 藤崎は俺を見た。

「しつけ教室だ」

「あ、そうそう。そのしつけ教室を始めるから、社員になるんだってさ」

「しつけ教室……?」

 田辺は俺を見た。

「ああ」

「できるのか? ……いや、適任だとは思うがな……」

「ああ、俺もそう思う。出来るのかどうかは心配だが、できそうだとは思ってる」

「そうだな……。で、どこでやるんだ?」

「三階」

「三階……? じゃ、事務所はどうするんだ?」

「休憩室、覚えてるか? 藤崎を寝かせたところだ」

「ああ、覚えてる」

「あそこを使う」

「あぁ……良いかもな。広かったし」

「ああ。最近知ったんだが、あそこは元々その予定で設計したらしい」

「あ、そうなのか。それで……」

「だから、受験なしなんだってさ……」

 藤崎は田辺を見た。

「……なんて羨ましい……」

「ね……」

「お前らからしたらそうだろうな。だが、それが正しいかどうかなんて誰にもわからん。その答えが出るのは十年後か、二十年後か……」

「まぁな……。だが、羨ましい……」

「うん……。でも、良かったね」

「ん?」

 俺は藤崎を見た。


「上手くいってる……なんかそんな感じがする……。ね?」

「そうだな」

 藤崎がそう言って田辺を見ると、田辺は藤崎を見て笑った。


「藤崎。お前、獣医師になりたいのか?」

 藤崎の志望大学は、獣医師になるための大学だった。

「うーん……正確には違うんだけど、取り敢えずはなんでも分かる人になりたいの」

「なんでも?」

「うん。動物のことがなんでも分かる人。楓さんみたいになりたいの」

 そう言えば楓から何度か「あの子は私に良く似ている」と聞かされていた。

「それで、動物のことがなんでも分かるお仕事って考えたら、獣医師になっちゃっただけ。楓さんを追いかけてトリマーから始めても良かったんだけどね」

 藤崎は笑った。

「獣医師か……。大変そうだな」

「うん、大変だとは思う。でも……私は知りたいの……」

 藤崎は言葉を区切った。


「とし子さんをもっと幸せにする方法を」


「そっか……」

 それぞれが、それぞれの道を歩み始めていた。


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