第56話 始動
「人は涙の数だけ強くなれる」
そう言った人がいる。
確かにそうかもしれないし、それに異論はない。
でも、どんなに強くなっても泣けるんだよ……。
泣かない訳にはいかないし……泣かずにはいられない……。
──
二日後。
「ゴマちゃんもとし子さんも元気か?」
俺は教室に入るなり、二人に聞いた。
「ああ、今、一番可愛い盛りだ」
「うん。うちはずっと可愛いよ」
「そっか。なんか困ったら言えよ」
「おう」
「うん。あ、そうだ!」
藤崎はそう言うと、机の横に下げてある鞄を漁った。
「これ、あげる」
「ん……? なんだこれ!?」
「おー、いいな!」
「でしょ? お揃い」
藤崎は鞄を持ち上げ、バッジを見せた。
藤崎がくれたのは、丸い缶バッジ。白い缶バッジには手書きの文字でバッジの縁に沿って「あにまるさぽーたー」と平仮名で書かれ、中央には犬なのか猫なのか分からないが、三つの手形、肉球が三角形に並んでいた。とても素朴で可愛らしい。
「これ、藤崎が作ったのか?」
「うん、一個三百円で作れるの」
「もらって良いのか?」
田辺はバッジを眺めると、藤崎に聞いた。
「うん。鞄とかにつけといたら、誰かから話しかけられやすいかなって」
「あ、なるほど……考えたな」
俺は藤崎を見た。
「よし、じゃ俺も同じ場所に……」
俺は藤崎同様に、鞄にバッジを付けた。
「じゃ俺も」
田辺も同様にバッジを付けた。
「それで、活動なんだけどさ」
「あ、そういやまだ何もしてないな……」
「うん。一旦先生に相談すべきだと思うの」
「あぁ……そうだな。勝手にやって怒られるくらいなら、承認されたほうが動きやすい」
「賛成。それに怒られたとしても、勝手にやればいい話ではある」
「ああ」
田辺が賛成し、俺がそれに同意した。
「できれば、承認されてやりたいの。校内新聞とか、校内放送も使いたいし」
「おお……なるほど。じゃ、田辺が適任だな」
俺は田辺を見た。
「どうしてそうなる?」
「私も田辺くんが適任だと思う」
「お前は、三人の中で最も優等生だからな」
「うん」
「うーん……そうなるか……」
「それとも三人で行ったほうが良い?」
「ああ、そのほうが説得力というか、真面目に考えています感は出るかもな。じゃ、リーダーは藤崎な」
俺は藤崎を見た。
「え? リーダーは櫻井くんじゃないの?」
「どうしてそうなる?」
「お前、レンコンの関係者じゃんか」
「いや、関係者だからマズいんだ。変に勘ぐられるだろ」
「あ、そっか……そうかもね」
「ああ……そうなるか……」
「だから、藤崎。お前が適任だ。立案、実行、バッジ。全部お前が主導している。お前以上の適任者は居ない」
「賛成」
田辺が手を挙げた。
「私で……いいの?」
「ああ。俺達はちゃんとサポートする。だからお前が先導してくれ。な?」
「おう」
「……わかった。じゃ、放課後、担任の先生に話してみようか?」
「ああ」
「おう」
──
放課後。職員室。
俺達は三人で、担任のところへ行った。
「アニマルサポーター?」
「はい、こちらを御覧ください」
藤崎は一枚の紙を渡した。レンコントから引き取った流れ、とし子さんを引き取るまでの流れをまとめ、一枚の紙にしていた。
こんなものまで用意していたとは……やっぱり藤崎でよかったじゃん……。
「あ、藤崎。実際に引き取ったのか?」
「はい。それで今、犬と一緒に幸せに暮らしています。こちらをご覧ください」
二枚目を渡した。次は動物愛護センターの資料。
え……何枚あるんだ!?
「現在、減ってきてはいるのですが……未だに捨て犬、捨て猫の数が多く、特に猫に於いては全く減らない状態です。そしてこちら、それに伴い行政の保管施設が溢れて処理数、殺処分数も上がっています。これは人間に原因があり、私達が改めなくてはならない事なんです。罪のない犬や猫達が勝手に捨てられ、殺されていく現状をみんなに知ってもらい、捨てないように、飼うのであれば捨てられた子を引き取るという方法で、死ぬはずだった子を助けることが出来ると知ってほしいんです」
「なるほど……。じゃ、お前らはその告知活動を行いたいと?」
「はい。告知活動と、保護施設の紹介です」
「保護施設って、行政のか?」
「行政と民間の両方です」
「民間もあるのか?」
「はい。先程の一枚目。こちらの施設は民間の施設です。現在、行政の施設と民間の施設が手を取り合い、お互いを助け合っている状態なのですが、民間の施設はなんとか殺処分数を減らそうとするあまり、苦しい状態に置かれています。民間の施設のおかげで、行政の殺処分数は減っているんです」
「なるほど。その民間は利益団体か」
よし、来た!
「いいえ。非利益団体です!」
俺は間髪を入れずに言った。
「そっか。ならいいか……少し時間をくれるか? 校長と相談してみる」
「はい、ありがとうございます。最後になりましたが、こちらが活動内容です。ご確認ください」
藤崎は三枚目を渡した。
「お、こりゃ説明しやすい。ありがとう」
「いいえ。こちらこそありがとうございます。宜しくお願い致します」
藤崎が頭を下げ、俺達も頭を下げた。
「なんか行けそうだな!」
俺達は職員室を出て、廊下を歩いていた。
「うん、行けそうだね!」
「藤崎……お前一人で良くなかったか?」
田辺は藤崎を見た。
「何言ってるの、二人が居たから先生が真面目に話を聞いてくれたんじゃない」
「そうかー?」
「いや、でも藤崎があんなにハキハキと喋れたのは、俺達のおかげかもしれないぞ」
「そうだよ!」
最近、藤崎は明るくなった。特に今日は。
「ま、上手くいくと良いな」
田辺は前を見た。
「うん」
「ああ」
俺と藤崎は笑った。
──
その一週間後。
「藤崎、田辺、櫻井。職員室まで来い」
授業が終わり、帰り間際のホームルームで俺達三人は呼び出された。
俺達は担任を追いかけ、廊下で声をかけた。
「先生、何ですか?」
「職員室で話す」
「……はい」
「紹介は禁止!?」
「ああ。あくまでも現状の周知と告知までは許可する。これが職員会議の決定だ」
あ、職員会議まで持っていってくれたのか……だとすると、覆らないな。
「でも……紹介が禁止だと、どうすれば……」
藤崎はうつむいた。
「お前ら、ちょっと寄れ」
担任が手招きをし、俺達は四人で顔を突き合わせた。
「(ここからは誰にも言うな。俺の個人的な、そうだな……独り言だ)」
担任は小さな蚊の鳴くような声で話し始めた。
俺達はコクリと頷いた。
「(いいか、学校での禁止とは、校内での禁止って意味だ。お前達が休みの日に『校外で』何をしようとそれを制限するものではない。分かるか?)」
俺達は二度頷いた。
「よし、解散」
「あいつ、良い奴だったな」
俺達は教室に戻ると笑っていた。
「ああ、もっと硬い奴だと思ってた」
「二人共、口が悪いよ」
「あ、すまん……気をつける」
「だな……」
「うん。じゃ、どうやろっか……」
「まず、告知をしよう。ポスターを作り、校内新聞に記事の提供を行い、校内放送に原稿を提供する」
田辺が言った。
「ああ、良いな」
「あ、良いね。それで『欲しい人はペットショップじゃなくて』って部分はどうするの?」
「どうもしないんだ」
俺が言った。
「え……どうもしないの?」
藤崎は怪訝そうに俺を見た。
「ああ、良くわかったな」
田辺が俺を見た。
「お前の考えることくらいは分かる」
「ほう……じゃ言ってみろ」
「告知のみを行えば、それを真面目に捉えた人は『じゃぁどうすれば』となる。ある人はネットで検索をし、ある人は俺達に聞きに来る。前者は勝手に行動してくれるから問題ない。後者はそれこそ俺がお前達を誘ったみたいに『行ってみないか?』と誘う。それこそ『遊びに行こう』だ。だろ?」
「ああ。その為には告知に俺たち、アニマルサポーターの名前を入れる」
「だな。あ、俺達のホームページも必要か?」
「あぁ……そうかもな……。櫻井、お前、ホームページを作ったり出来るか?」
「いや、全然。お前は?」
「いや、俺も全然」
「じゃ、私がやるよ」
「出来るのか?」
「ううん、全然」
「は?」
「へ?」
俺と田辺は同時に聞いた。




