第51話 二学期
そんなレンコントでの生活と、猛勉強の日々を繰り返し、あっという間に夏休みが終ろうとしていた。
「蒼汰くん、明日から学校だっけ?」
「はい、なんかすみません……」
空さんの手伝いをしていた俺は、空さんに聞かれてそう答えた。この病院は日曜定休。なので、今日は病院は休みなのだが、それは一般診療が休みと言うだけで、空さんは出勤して来ると中の動物達を見て回っていた。
「いや、何度も言うけど君の本業は学生だ。そこは忘れないでくれ」
「はい」
「うん。じゃ、次はいつ来るんだい?」
「土日には毎週来ますよ」
「え……友達付き合いとか、大丈夫なの?」
「ああ……俺、友達居ないんで……」
「ボッチ……!?」
「あ……まぁ、そうなっちゃいますかね」
俺は苦笑いした。
「空ー、コットン頂戴」
楓が病院に入ってきた。
「楓。蒼汰くん、楓のせいで友達できないんじゃないの?」
「え……? ええっ、そうなの!?」
楓は俺を見た。
「違う違う! 空さん、変なこと言わないでください!」
「本当に!?」
楓は俺に詰め寄った。
「本当だ! 俺はここに来る前、楓に会う前からずっとボッチだ!」
まぁ、ボッチという表現もどうかと思うが……。田辺と言う仲が良い奴はいるが、特に夏休みにどうこうしようという連絡があった訳でもないし、まぁボッチでも間違っては居ないだろう。
「いや……そんな胸を張って『俺はボッチだ!』とか言われても困るんだけど……」
「え……? あ、そっか。でも、楓のせいで俺の生活に悪影響が出ているわけじゃない。うちの親も言っていたが、むしろ楓のお陰でいい影響が出ていると言っていい」
「……そうなの?」
「ああ」
「本当に?」
「ああ」
「本当の、本当に?」
「ああ」
あれ? なんかこのやりとり……。
「信じるよ? 嘘ついたら……嘘ついたら、うぅん……泣くからね!」
「いや、それは困る……ってか、信じてくれ。嘘は言ってない」
「……わかった」
楓は少し疑いを残しつつも、信じると言った。
次の日。
九月になった。
夏休みが終わり、俺は電車に乗ってレンコントの駅を超え、学校のある駅で降りると学校へ行った。
「おはよう、藤崎」
教室に入り、自分の席へ行くと俺は席に座る前に隣の藤崎に声をかけた。
「お、おはよう」
藤崎はチラッと俺を見てそう言うと、読んでいた本に目線を戻した。
「よ、櫻井」
前に座っていたた田辺が振り返った。
「おう、田辺元気してたか?」
「もち、俺は元気さ。ってか、お前はどうしてたんだ?」
「ずっとボランティアしてた」
「は? ボランティア? お前がか?」
「ああ。夏休み前にちょっとした切っ掛けがあってな。その流れでボランティアを始めた」
「へぇー……お前がボランティアねぇ……。で、それってどんな?」
「動物保護」
「動物保護?」
「ああ。センターから引き取った犬や猫なんかを世話して、人になれさせて、新しい飼い主を見つける活動だ」
「あ、聞いたことある……」
「そっか?」
「ああ。なんかこの間、似たようなのをテレビで見た」
「あ、じゃぁそれかもな」
この間、レンコントにテレビの取材が来ていた。
「そうなのか? お前が行ってるとこって、なんて名前?」
「ベラ・レンコント」
「あー、確かそんな名前だったような……なんとなくだが」
「そ、そっか」
覚えにくい名前ではあるよな……。とてもいい名前なんだが。
「で、そこでどんな事やってんだ?」
「新しく引き取った子たちの世話をしてる」
「へぇ……お前が動物の世話ねぇ……」
「意外か?」
「正直言えば意外だ。というか似合わん」
「なんじゃそりゃ」
「いや、否定する気はない。良いことをしている奴をどうこう言える立場じゃないからな」
「そっか? あ、お前んちって動物を飼う予定とかないか?」
良いこと……か。
「おう。は? 動物を飼う予定?」
「ああ。レンコントでは常に里親を募集しているんだ。良かったら飼ってみないか? って言っても、そんな軽い話じゃないんだけどな……」
「犬とか猫ってことだよな? その気があるならうちからもらってくれと……?」
「ああ、そうだ。ただ、ペットショップで売っているような血統書付きとか、犬種がはっきりしているような、そう言う子たちじゃない。捨てられた子たちを助ける活動だからな……」
「なるほど……なぁ、そこって今日も行くのか?」
「ああ。そのつもりだ」
今日は始業式が終われば、掃除をして終わり。俺はそのままレンコントへ向かうつもりだった。
「俺もついていってもいいか?」
「は? お前、そういうのも興味あるのか?」
「ああ。そういうものも知っておきたい。それに、里親探しを手伝えるかも知れんだろ?」
「……似合わねぇな……」
「お前に言われたくない……」
「あ、そっか。だよな」
俺は笑った。
「それはどうでもいい、その、動物たちってのを見てみたいんだが、ダメか?」
「それって、前向きに考えてくれるってことか?」
「俺が飼えるかどうかはわからん。ただ、友達とかに聞いてみるとかは出来る。ってか、そう言う手伝いしかできん。そのためにはその活動自体をもっとちゃんと知っておく必要がある」
「お前……意外とまじめなんだな」
「……お前にいわれたくない」
「だよな……。ちょっと聞いてみる」
俺はスマホを取り出した。
「おう」
「私も……行きたい」
隣からか細い声がした。藤崎だった。
「え? 藤崎も興味あるのか?」
「うん。ダメ?」
「いや、全然構わん。むしろ大歓迎だ。聞いてみるから待ってくれ」
「うん」
俺は楓にメッセージを送った。
▽蒼汰『今日、友達をレンコントに連れて行ってもいいか?』
「ほら、席につけー!」
担任が教室に入ってきた。
「じゃ、返事が来たら教える」
「おう」
「うん」
ホームルームが始まり、それが終わるとそのまま体育館へ向かった。
楓からはまだ返事がない。
いつもは直ぐに返信が来るのに……。忙しいのかな?
始業式が終わり、教室に戻ると掃除を始めた。
キンコン。掃除をしていると、楓から返信が来た。
▽楓 『え? 蒼汰、お友達いるの!? もちろん大歓迎! だけど、今日は私がお相手できないよ? 蒼汰が案内してくれるんならOK!』
お、ボッチの話が……まぁ、それはいい。じゃ、俺が案内すれば良いのか。
▽蒼汰『わかった。じゃ、連れて行く』
そう返事をしてスマホをポケットに入れた。
「田辺! いいってさ」
「おう! いくいく!」
その後、藤崎にも良いそうだと伝えた。
俺達は掃除を終えると一緒に学校を出て電車に乗り、隣の駅で降りるとレンコントまで歩いた。
「ここだ」
「近いな!?」
「こんなところにあったんだ……」
「ああ」
俺は階段を上がり、一階のドアを開けた。
「おはようございまーす!」
「あ、おはよう蒼汰くん、今日も来る日だった?」
時々サロンで働いているボラさんが返事をしてくれた。
「はい。今日は始業式なんで、早く終わっちゃうんですよ」
「あ、なるほど」
「あ、蒼汰! 今日は会えないと思ってたよー! ちょっと待ってね。これ終わったらご挨拶するからね!」
楓は奥でトリミングをしていた。
「おう!」
「ここは?」
田辺はサロンを見渡していた。
「ここはこの施設の一部。ペットサロンだ」
「サロンがついてるのか……」
「ああ、普通にペットサロンとしても営業している。もちろん引き取った動物のケアもする。お店であり、施設の一部でもあるんだ」
「へぇー……見る限り、普通のサロンだな」
「どんなだと思ったんだ?」
「いや、なんかこう……沢山ケージが並んでて、そこに動物たちがいっぱい入ってる……みたいな」
「うん」
田辺が言うと、藤崎が頷いた。
「ああ、それは上のフロアだ」
「え、上もそうなのか?」
「ああ。このフロアはペットサロン、二階は動物病院、その上に事務所があって、その上に管理フロアがあって、一番上は入って来たばかりの子のフロアだ」
「あ、建物全部そうなのか」
「ああ」
「ふーん……」
「お待たせ!」
楓がトリミングを終え、俺達のところに来た。
「忙しい所、すまないな」
「何言ってるの、私と蒼汰の仲じゃ……お、女の子……?」
「ん? どうした?」
「い、いや別に。こちらがお友達?」
「ああ。田辺と、藤崎だ」
「田辺です」
「藤崎です」
二人は楓に頭を下げた。
「初めまして。私は片桐楓。この施設の代表で、蒼汰のお嫁さんです!」
あ……。楓がいつもそれを言うのをすっかり忘れていた……。
「え……?」
「え……お、およ……」
田辺は固まり、藤崎は困惑していた。
「ああ。俺と楓は付き合ってる。両親公認でな」
「おま、彼女居たのか!? しかもこんなに美人で年上の!?」
「ああ」
「ああって……言えよ!」
「いや、それも夏休み中の話なんだ」
「は? 夏休みの間に、出会ってから両親公認まで行ったっていうのか!?」
「ああ」
「……なんだそれ……?」
「あ!」
ドサッ! と言う音を立てて、藤崎は楓に抱かれた。正確には藤崎が気絶したのを楓が見て、とっさに抱えたのだ。
「藤崎!?」
「蒼汰、事務所に運ぶから手伝って!」
「おう!」
俺はエレベーターのボタンを押した。楓は藤崎を抱えてエレベーターホールまで来た。
「あ、君。私についてきて。蒼汰は空を呼んできて!」
「わかった! 田辺、楓を頼む」
「任せろ!」
俺は頷くと階段を二階へ駆け上がり、動物病院のドアを開けた。
「空さん! 急患です!」
「ん? 蒼汰くん……って急患? どういう」
「一階で人が倒れました。今楓が事務所へ運んでます。すぐ来てください!」
「わかった!」
空さんは机の上にあるカバンを持ち、階段を駆け上がった。




