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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第2章 『運だけの猫』
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第24話 楓の知識



 俺達が食事を堪能たんのうし、そろそろ行こうかと準備を始めた時。


「あの……ちょっと宜しいですか?」

 さっきの店員がやってきて、俺達に声をかけた。

「あ、はい」

 美月が店員を見て答えた。

「もし、宜しかったら……なのですが……」

「はい」

「オーナーが、小鉄くんの来店記念写真を撮らせて頂きたいと……ダメですか?」

「来店記念……ですか?」

「はい。あの、お店の中に飾ったり、お店のホームページに掲載させていただくだけで、宣伝とかじゃなくて、ただ自慢したいと……。代わりと言っては何ですが、今日のお代は無料にさせて頂くし、小鉄くんにはケーキもサービスさせて頂くと言っているのですが……いかがでしょう?」

「え、いいんですか!?」

「はい。写真の撮影と、掲載の許可をいただければ……」

「是非、お願いします!」

 美月は頭を下げた。

「あ、こちらこそ、宜しくお願いします!」

 店員も頭を下げた。

 け、ケーキ……だと!?

「猫ランナーまっしぐらー……ですね」

 アリシアは笑った。いやいや、まだまだ。

「小鉄、いい?」

 楓は抱っこひもの中の俺を見た。

 もちろんだ! 俺は二度頷いた。

「あはは、小鉄、喜んでる」


 俺達が店内に入ると、男性が厨房の中から出てきた。

「あ、本当に小鉄くんだ……」

「いや、そう言ったし、写真も見せたじゃない」

「いや、そうだけど……。あ、いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。私は当店のオーナーシェフです」

 コック帽にコック服を着たオーナーは、そう言って帽子を取って頭を下げた。

「本日はごちそうさま……で、本当に良いんですか?」

 美月は頭を下げかけてオーナーを見た。

「はい。この子も喜んでますし、店内掲載用の写真も取らせていただくんですから、お気になさらないで下さい」

「この子……もしかして、お子さんですか?」

「はい。娘です」

「あ、そうだったんですか」

「ええ。あ、ケーキはこちらでお召し上がりになりますか? それともお持ち帰りになりますか?」

「あ、持ち帰れるんですか……小鉄、ここで食べる?」

 美月は楓の抱っこひもの中の俺を見た。

 いや、今はいいや。ビスケット食ったし。俺は首を振った。

「じゃ、持ち帰りでお願いします」

「承知しました。では、ご用意しますのでその間に写真をお願いします」

「はい」

「じゃ、こっちは任せるぞ」

 オーナーは店員を見てそう言うと、奥へ戻っていった。

「うん、任せて。じゃぁ……どこがいいかな?」

 店員は店内を見渡した。

「あの、あそこはどうですか?」

 楓はテラスに面した大きな窓の前にある、椅子を指差した。

「あそこだと、逆光にならないかな?」

「逆光が良いんですよ!」

 美月が言った。

「逆光が、いい?」

「はい。何か画用紙のような、白い大きな紙とか板とかありませんか?」

 楓が聞いた。

「白い大きな紙とか……板?」

 店員は首を傾げた。

「はい。レフにするんです」

「レフ……?」

 店員は更に首を傾げた。

「ありますか?」

「スケッチブックとかでも良いかな?」

「あ、それがベストです」

 楓は笑った。


「これで大丈夫?」

 店員は大きなスケッチブックを持ってきた。

「はい。ベストだと思います。テーブルに乗せてもいいですか?」

 楓は茶色い木のテーブルを指差した。

「うん。大丈夫」

「小鉄」

 おう。俺は抱っこひもから出て、テーブルに乗った。

 楓は俺からハーネスを外すと、店員からスケッチブックを受け取り、新しい真っ白なページを開き、窓の外から入る光を乱反射させて俺に当てる。

「うん、これなら大丈夫。カメラは望遠で、背景をボカす感じにして下さい」

「え……望遠で、ボカす? どうやるんだろ……」

 店員はスケッチブックと一緒に一眼レフを持ってきていた。

「あ、俺がやるか?」

 見るとオーナーが後ろに立っていた。

「あ、お父さん。お願い」

「おう」

 オーナーは店員から一眼レフを受け取った。

「これ、フラッシュは、要らないのかな?」

 オーナーは楓を見た。

「はい、無しで」

「わかった。しかし、お嬢ちゃんまだ小さいのに、よく知ってるね……」

「何度も撮影現場を見ているので……」

 楓は少し照れていた。

「あ、なるほど……。じゃ、絞りは開けて、望遠で……これだとISOは200くらいか……撮るよー」

「小鉄、座っていい顔」

 おう。俺は少し斜めに座ってカメラ目線で止まった。

 バシャバシャバシャ。三枚連射され、オーナーは写真をチェックする。

「ごめん、露出変えてもう一回。撮るよー」

 バシャバシャバシャ。三枚連射され、オーナーは写真をチェックした。

「おお! いい写真になった!」

「どれどれ?」

 オーナーがそう言うと、店員が駆け寄り、カメラを覗いた。

「ほら」

「うわぁぁぁ! 凄い凄い!」

「見せてもらっていいですか?」

 楓もオーナーのところへ行って覗いた。

「ほら」

「うん、良いですね。もう少し明るいレンズか、望遠はありませんか? もっとボケたほうが良いです」

「あぁ……ちょっと待って……じゃ、これにしてみるか」

 オーナーは単焦点五十ミリから標準ズームに交換した。

「あ、高いレンズ」

「お、解るの?」

「はい。プロの方が小鉄を撮る時に使ってるやつです」

「流石は小鉄くんの飼い主だね。踏んできた場数というか、経験が違う……」

「いえいえ、そんな……」

 楓は顔の前で手を振った。

 いやいや、お前の場数は普通の人は経験できないものだぞ。もっと自信を持っていい。

「よし。じゃ、撮るよー」

 オーナーはレンズを交換し、再びファインダーを覗いた。

「はい」

 楓は俺の右下からスケッチブックを開き、俺に光を反射させた。

 バシャバシャバシャ。三枚連射され、オーナーは写真をチェックした。

「おお! これはいい!」

 オーナーがそう言うと、全員が集まってカメラを覗いた。

「あ、お父さん、もしかして上手いんじゃないの!?」

「ええ、とってもお上手です」

「…………」

 楓は黙っていた。

「あれ……お嬢ちゃん、もしかして……まだ何かあるのかな?」

「言ってもいいですか?」

「もちろん。教えてください」

 オーナーは笑った。

「じゃ、そのカメラ、フラッシュ付いてますよね?」

「はい、付いてます」

「そしたら、フラッシュを出して、その前にティッシュを一枚貼り付けて下さい」

「フラッシュに……ティッシュですか?」

「はい。フラッシュの光は使いたくないんですけど、アイキャッチがほしいんです」

「アイキャッチ?」

「目の中の白い点を作りたいんです。それをやると目がキラキラして見えるので」

「ああ! あれか! よし」

 オーナーはそう言うと、厨房へ戻り、ティッシュを一枚フラッシュの前にセロテープで貼り付けて戻ってきた。

「これでいいですか?」

「あ、ティッシュを少し浮かせて下さい。そうしないと光が強すぎちゃうので」

「わかりました」

 オーナーはティッシュを貼り直した。

「はい、それでもう一枚、絞りを二つ下げてお願いいします」

「はい。撮りまーす」

 オーナーがカメラの設定を変更し、カメラを構えた。

「はい」

 楓がスケッチブックを構える。

 バシャバシャバシャ。三枚連射され、オーナーは写真をチェックした。


「…………」

 オーナーは黙った。


「お父さん?」

「どうですか?」

「オーナーさん?」

「す……素晴らしい……」

 オーナーはカメラを全員に見せた。

「いいですね!」

 楓はそれを見て笑った。

「いいわね」

 美月も納得した。

「……凄い! なにコレ!? お父さんが撮ったとは思えない!」

「だな……」

 オーナーと店員は顔を見合わせた。

「じゃ、その設定のままで、あと二枚撮りましょう。そのあとは広角で」

「はい!」

 推定年齢四十歳のオーナーは、十歳の小学四年生の楓に対し、すっかり敬語になっていた……。「師匠!」とでも呼びそうな勢いで、どうやら撮影技術は楓の方が一枚も二枚も上手らしい。

「小鉄、ちょうだい一枚と、ごめんね一枚ね」

「おう」


 そのまま楓の言うとおりに撮影は続き、十五分の撮影会は終了した。


 言うまでもなく、店内の他のお客さんにはバレバレで、美月は俺たちにカメラを構える客に対し「撮影する時間を儲けますので、私達を撮らないで下さい!」と断っていた。偶然遭遇した客にとっても、いい記念となったことだろう。


「この写真、メールで送ってもらえませんか? その写真を私のSNSで掲載させて欲しいんですけど、いいですか?」

「ええ、もちろんです! 現像したらお送りします」

「はい。お願いします」

 楓はオーナーとメールアドレスを交換した。


「それでは、ご馳走様でした」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

 美月と楓とオーナーと店員は入口の前で互いに頭を下げた。

「待て待て待て! 俺のケーキは!?」

 俺は楓の抱っこひもの中から右手を出してオーナーに手を振った。

「え……あぁ! 忘れるところだった!」

 オーナーは俺を見ると気づき、慌ててカウンターの中へ戻ると、俺のケーキの入った箱を持ってきた。

「ゴメンね、小鉄君」

 オーナーはケーキの箱を美月に渡しながら、俺を見た。

「ありがとうございます」

 美月は頭を下げた。


「次の話のタイトルは『猫、猫ランナーにまっしぐら!』とか何とか、そう言う名前になりそうですね……」

 アリシアは悪い顔でフフフと笑った。

「ならねーよ!」

 俺は楓の抱っこひもの中から、アリシアに突っ込んだ。


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