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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第2章 『運だけの猫』
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第18話 猫、もっと話す



「楓……? おい、どうした……?」

 俺はキャップが付いた右手を挙げたまま楓に近づくと、楓の頬を伝わる涙を舐めた。

「私の……名前なの……?」

 楓はボロボロと涙を流したまま、俺を見た。

「楓……なんでお前、泣いてるんだ?」

 俺は楓の頬を舐め続けた。そのままふと、後ろに立つ美月を見ると、微笑んでいた。

「楓は感動してるんですよ」

 それを見ていたアリシアが言った。

「感動……? なんで?」

 俺はアリシアを見ると、首を傾げた。

「どうしてそこでほうけるんですか……」

 アリシアは怪訝けげんそうに俺を見た。

「いや、感動させる様な事は何も……」

「小鉄……本当にわからないんですか?」

「……ああ。俺、何かしたか?」

 俺は楓を見て、アリシアに向き直った。

「何かしたかと言われればしたんですけど……良いことをしたんですから、気にしなくても良いんじゃないですか?」

「そうなのか……?」

 ふと振り返ると、美月は後ろから、泣き止まない楓を抱きしめていた。

「……ご飯にしよっか?」

「……うん」

 楓は今俺が書いたファイルを別名保存すると、ノートパソコンの画面を閉じた。



「楓! ちょっと、これ取ってくれ!」

 皿を運ぶ楓の横のテーブルの上で、俺はキャップが付いた右手をブンブンと振っていた。キャップが邪魔で、そのままジャンプしたら怪我をしそうで、怖くてテーブルから降りられないのだ……。

「あ、降りられないんだ! ごめんごめん」

 楓はそう言うと、皿をテーブルに置き、俺の右手のセロテープをゆっくりとがし始めた。

「痛い、痛い痛い痛い!」

 セロテープはしっかりと張り付き、俺の右手の毛をむしり取っていた。

「ごめん、ちょっとだけ我慢して……でも、このやり方だとダメだね……何か考えなきゃ……」


「小鉄、今日からテーブルの上で一緒に食べましょう」

 食事の準備を終え、美月が椅子に座ると俺に言った。

「え、いいの!?」

 楓は驚き、美月を見た。

「ええ。さっきの事で、小鉄は私達の言葉がわかるって事がわかった。テーブルに乗っちゃいけないって事ももう解ってる。それに、小鉄はもううちの大黒柱よ。私の稼ぎを軽く超えちゃってるもの」

 美月は俺を見て笑った。

「そんな、大黒柱の小鉄を家族扱いしないのって、なんかおかしくない?」

 美月は楓を見た。

「うん、お母さんがそう言うなら」

 楓はそう言うと立ち上がり、床においてあった俺の食器をテーブルの上において、俺のカリカリの袋を持ってくると

「よーし、今日は奮発しちゃおう!」

 と言って、俺の皿に大盛りのカリカリを入れた。

「おお! 今日は大盛り!」

 俺は楓の椅子からテーブルの上にジャンプすると、自分の皿を見た。

「だーめ!」

 え? 俺は美月を見た。

「ダメなの?」

「ダメよ。楓、あなたは小鉄の健康管理をする立場なのよ?」

「……わかった」

 楓は皿の上の大盛りのカリカリを袋に戻すと、いつも通りの量のカリカリを入れた。

 あ……ま、仕方ないか……。俺はテーブルの上に座った、自分の皿を見て項垂れた。

「小鉄、悲しそうだよ?」

「あぁ……大盛りを見てから、いつも通りにされたからねぇ……。じゃ、今日は特別にチョールを二本つけてあげよう!」

 美月は俺を見て共感してくれたのか、そんな事を言った。なんか「頑張ったお父さんにお銚子二本!」みたいな……。

「に、二本も!?」

 俺の表情はパァッと明るくなり、美月を見た。美月がまるで女神のようだ……。まぁ、俺の表情なんてわからないんだろうけど。

「あ、喜んだ!」

 楓が俺を見て言った。

「どうして分かる?」

 俺は楓を見た。

「だって、しっぽ」

 楓は俺の尻尾を指差した。

 え、しっぽ? 俺は自分の尻尾を見た。俺の尻尾は嬉しそうにパタンパタンと左右に揺れ、テーブルを打ち付けていた。一目瞭然だった。

 あ……そういう事……。


 こうして三人一緒の、初めての食事をした。

 もちろんこれまでも一緒に食事をしていたが、これまでの食事風景と言えば、俺はテーブルの下。同じ部屋ではあるが、同じテーブルではないという食事を続けていた。もちろんそれに疑問をいだいていた訳でも、不満があった訳でもない。ただ、こうして同じテーブルの上で、互いの顔を見ながら一緒に食事をするというのも……なんだか、こう……。「こういうのも悪くない」と、そう思った。


 俺達は食事を終え、食器を片付け、俺は美月の宣言通りチョールを二本頂くと、楓がテーブルの上にパソコンを開いた。うーん……二本は満足感が違う……。

「小鉄、もうちょっとお話したいんだけど……いい?」

「ああ、いいぞ」

 俺は毛づくろいしながら楓に言った。

「あ、私もしたい! ちょっとまって!」

「うん」

 美月が台所で皿を洗いながらそう言うと、楓はパソコンのワープロソフトを立ち上げた。

「さっきのは痛かったんだよね」

「ああ。あと、ちょっと長かった」

「うーん……何が良いかな……」

 楓は筆箱を漁った。

「あ……お母さん。消しゴム一個、ダメにしても良い?」

「え? どういう意味?」

「消しゴムで、小鉄の手袋を作りたいの」

「……手袋?」

 美月は台所で食器を洗いながら振り返ると、そう言って呆けた。


 楓は美月に許可をもらい、使いかけの消しゴムをカッターで切ると、美月からマジックテープをもらい、俺の右手にマジックテープで消しゴムを固定した。

「これなら剥がす時に痛くないでしょ?」

「ああ、サンキュー」

「うん」

「じゃ、先ずはあれを伝えるか……」

 俺はキーボードを打ち始めた。

「う、な、ず、い……」

 しかし、ワンフィンガー打法ならぬ、ワンハンド打法。とても時間がかかる……。


『うなずいたらはい よこにふったらいいえ』


 これを打つだけで一分かかる……。

「うん、わかった」

「わかったわ」

 よし。


『そとではなせるものがほしい』


「外で話せるもの?」

「え、パソコンを持ち歩くってこと?」

 俺は首を振った。

「違うの?」

「違うのね……」


『あいうえおのひょうがほしい』


「あ、五十音表だね! なるほど!」

「あぁ、そっちの方が速いかもねぇ……」

「うん。ちょっと貸して」

 楓はそう言うと、パソコンを指差した。

 おう。俺は三本足で、いよっ、よっ、よっこらせと、パソコンの前からどいた。

 楓はパソコンを操作し、五十音表を検索すると、画面に一覧表示させた。

「大きい方が良いかな?」

「持ち歩くんなら、A4くらいのサイズでクリアホルダーとかに入れられる方が良くない?」

「うん……じゃ、これかな?」

 楓は一つの五十音表を大きく表示させ、俺を見た。

 いや、それは見えない。俺は首を振った。

「ダメなの? どうして?」

 楓がそう言うと、またワープロソフトを立ち上げた。俺はパソコンの前に行き、文字を打った。


『いろがみえない』


「ああ! これだと見えないんだ!」

「ああ、そういう事!」

 俺は頷いた。

「じゃ、コントラストがはっきりしたやつだね……これかな?」

 楓は別の五十音表を俺に見せた。

 俺は頷いた。これなら見える。

「わかった。じゃ、これを印刷するね」

 楓はそう言うと、パソコンを持って寝室へ行った。

 俺も楓を追いかけて……。

「痛っ!」

 立ち上がろうとして、右足の消しゴムを思いっきり踏み、そのまま右手を挙げた。それほどに新しい手袋は違和感がなくフィットしていた。

「あらら、小鉄……大丈夫?」

 美月はそう言いながら俺の右手のマジックテープを剥がし、消しゴムを取ると、俺の右手を調べた。

「ああ、大丈夫だ」

 俺は頷いた。

「足をつく前に動かしてみて」

 美月がそう言うと俺は右手を動かし、問題ないことを確認すると、美月を見て頷いた。

「うん。じゃ、行っていいわよ」

 おう。俺は立ち上がると椅子に降り、床に降りると楓の後を追って寝室へ行き、楓の膝に乗ると、机の上に乗った。

「どうだ?」

「ひゃっ! びっくりした……。今、印刷してるよ」

 楓は少し驚くと、プリンターを指差した。プリンターはウィーガチャ、ウィーガチャと音を立てながら、小刻みに左右に揺れていた。


「どう? 見える?」

 楓が印刷された五十音表を俺に見せた。

「ああ、見える」

 俺は頷いた。

「よし。あ、もしかして……もうパソコンは要らない?」

 俺は頷いた。

「うん。じゃ、戻ろう」

 ああ。俺は机から飛び降りると楓の後を追い、居間へ戻った。


「お母さん、できたよ!」

「うん! お茶飲むでしょ?」

 美月は台所でやかんを火にかけていた。

「うん」

 楓は印刷した紙をテーブルの上の、美月が用意したであろう、クリアホルダーに入れた。

「じゃ、指差してみて」

 楓はそれをテーブルの上に、俺に向けて置くと俺を見た。

「あ」

 俺が指差すと楓が読み上げる。

「り、が、と……う」

 そうだ。俺は頷くと、楓を見た。

「…………私を、泣かせたいの……?」

 楓の目からは再び涙が溢れ、止まらなくなっていた。

「あれ……いや、そういう訳じゃないんだが……」

 俺は楓の所へいき、楓の頬を舐めた。

「あらあら、また泣いてるの?」

 美月は二つの湯飲みを持って来て、テーブルの上に置くと座った。

「だって……小鉄がぁ……」

「いや……俺はただ……」

「また感動させられちゃった?」

「……うん」

 美月は立ったまま、座って泣いている楓を抱き寄せた。

「なんか……今のところ、ギリッギリセーフって感じですねぇ……」

 アリシアが言った。

「何がだ?」

「いえ、その動物と人間が会話できる……と言うか、意思疎通できるって……良いのかなぁと……」

「ダメなのか?」

「うーん……なんかグレーゾーンな気がします……」

 アリシアは困ったようにそう言った。

「そっか」

 なら良いや。

「あ! 小鉄、その人だぁれ?」

 楓は急に泣き止み、アリシアを指差した。もちろん少しずれていた。

 あぁ……これまた返答に困る質問が……。

「ほぉら……どうしますか?」

 そら見たことかと、アリシアは目を細めた。


 うぅーん……。俺はゆっくりと文字を指差した。



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