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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第3章 『何も望まなかった中の上』
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第102話 三毛犬(みけいぬ)の力 その2



「(人とは仲良くしなさい)」

 クラウディアはジャーマンシェパードに言った。


「(人と? それは誰にでもということか?)」

「(あなたが本当に怪しいと思う人、それこそ泥棒とか明らかにこの家に危害を加えそうな人以外、すべての人と仲良くしなさい。家族が一番大切、それはそれでいい。でもね、その家族は、大切なあなたが他の人達とも仲良くなって欲しいと望んでいる)」

「(俺が、大切?)」


「(当たり前じゃない! あなたを大切に思ってくれているのは、亡くなったご主人様だけじゃないのよ! そこにいる奥様を始め、家族全員があなたを大切に思っている。その思いに答えられなくて、何がジャーマンシェパードよ! 聞いて呆れるわ!)」

 クラウディアは立ち上がり、シェパードを睨みつけた。


「(俺を、大切に……。俺は……勘違いをしていたのか……?)」

 シェパードはクラウディアの前に伏せた。

「(わかった? ちゃんと改心した? あなた、このまま吠え続けたら家族に見放されて私と同じ運命になるわよ?)」

「(同じ……どういう意味だ?)」

「(私は前の飼い主さんが亡くなってすぐ、施設に引き取られた……。そこに七日間居るとね、殺されるのよ)」

「(殺される!?)」

「(ええ。私は運良くこの人に救ってもらうことが出来た。でもね、人間の手に負えなくなった動物は、もう何処にも行くことが出来ない。それは、もう生きる資格が無いということ)」

「(そ、そんな事が……)」

「(ええ、少し前の話し。でもあなたはそうならずにここに居る。それは奥様を始めとする、あなたの家族がまだ見放していないから。今ならやり直せる。ううん、むしろ今しかやり直せない。あなたが死にたいのなら、思う存分吠えなさい。でもね……亡くなったご主人様を大切に想うのなら、きちんと改心して人間と楽しく暮らしなさい。それが出来なければ、あなたに残された道は一つしか無いわ……。お願いだから、その道を選ばないで。ご主人様の思いに沿うように楽しく生きて……ね?)」

「(わかった……)」


「もう良いか……?」

 俺が声をかけると、クラウディアは振り返った。

「(いいわ。この子を撫でてあげて)」

 俺はシェパードに近づいた。

「触るぞ?」

 俺はシェパードを見た。

「(ああ、許す)」


「(ちょっと! 私のご主人様になんて態度を取るの!? あなた、この人を噛んだりしたら、本当に殺すわよ!?)」

 クラウディアはシェパードを睨みつけ、唸った。


「(す、すまん……すまなかった。撫でてくれ、頼む)」

 シェパードは伏せたまま、耳を倒して困った顔をしていた。

「おう」

 俺は柵の中に手を入れ、シェパードを撫でた。

「あ……」

 俺がシェパードを撫でると、奥さんはそんな声をあげた。

「よし、いい子だ。じゃ、もう他の人に触らせても良いのか?」

「(ああ、頼む……俺の家族と、仲直りがしたい……)」

「わかった……。あの、すみません! この子、もう大丈夫なんで、撫でてやってもらえませんか?」

 俺はシェパードにそう答えると、奥さんを見た。

「は……?」

 一緒に見ていた奥さんは固まった。

「今、この子が説得……いや、説明したので、撫でてやってもらえませんか?」

「説明……ですか?」

「はい、こちらの旦那さんが亡くなって、旦那さんはこの建物と敷地を守れと言ったのではなく、残された家族を大切にしてくれって言ったのだと説明したんです。だからもう吠えないし、噛みません」

「は、はぁ……」

「それでこの子、ご家族と仲直りがしたいと言っているので……撫でてやってもらえませんか?」

「……本当に……大丈夫なんですか?」

「はい、この通り。楓」

「うん」

 俺が楓を呼ぶと、楓は柵のところへ来てシェパードを撫でた。

「ほら、もう大丈夫ですよ」

 楓はシェパードを撫でながら奥さんを見た。

「怖い気持ちはお察しします。ですが、もうこの子は大丈夫。きちんと理解して、あなた達を守ってくれます。だからもう一度、信じてやってはもらえませんか?」

 俺は奥さんを見た。

「わ……わかりました……」

 奥さんはそう言うと、少しずつ少しずつ柵へ歩み寄った。俺と楓とクラウディアは、それを見てシェパードの前を空けた。

「動くなよ……舐めるのもなしだ……今はそのままじっとしてろ……」

「(わかった)」

 俺が小さな声でそう言うと、シェパードは答えた。


 奥さんは恐る恐る柵の前に座り、手を伸ばした……。うろたえ、怯え、恐れおののきながら、震える手をシェパードの頭の上にに伸ばした。後から思えば、この時の奥さんにとってこの時間はどれ程長かったのだろうと……そう、思えた。


「あ、さわれた!」

 その奥さんのうれしそう声は、今でも耳に残っている。奥さんは久しぶりにシェパードの頭をなでた。触れる事が出来たのだ。


「(あぁ……なんて優しい手だ……もう忘れていた……)」

「(そうよ……。ってあなた、毎日エサを貰っておきながら、良くそんなことが言えるわね……)」

「そう言うな、こいつにはこいつの思いがあったんだ……」

 俺はクラウディアを見た。



 バン。と俺は車のドアを閉めた。

「本当にありがとうございました。これでやっと、夫の大切な子と仲良く暮らすことができそうです……。本当に、本当にありがとうございました」

 奥さんは車の中の俺に頭を下げた。

「いえ、今回はこいつがやったことで、私はほとんど何もしていません」

 俺は後ろのケージの中のクラウディアを指差して笑った。

「それでは後日、請求書をお送りしますので、宜しくお願い致します」

「承知しました。ありがとうございました」


 俺達はおじぎをすると、車をレンコントへ走らせた。


 ──


 と、そんな事があってから、俺は何処に行くにもクラウディアを連れて歩くようになっていた。だから楓の言う通り、楓の用事と俺の用事が重なった場合、車が足りなくて困ることになる。


「それって社用車か?」

 俺は楓を見た。

「どっちでもいいと思うよ。と言うか、社用車として登録するけどね」

「じゃ、楓と同じ車がいい」

「え? どうせならもっと格好いいのとか、欲しい車を買えば?」

「いや、同じが良い。その方がどちらを運転しても差がないし、お前も乗るんだろ? それに俺は、お前が選んだ動物用が良いんだ」

「あはは……見抜かれてたか……。うん、わかった」


 こうして俺達はもう一台、楓と同じ車を買った。


 普段、俺の車はレンコントに置いたままで、通勤には楓の車を使うことにした。それこそ楓が一人でお届けに行ってそのまま帰る時に、俺とクラウディアは一緒に俺の車で帰る。後は大量の引取がある場合、俺と二台で向かう。正直そのくらいしか使い道はないのだが、それでも一台しか無かった頃に比べると、格段に便利になっていた。



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