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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第3章 『何も望まなかった中の上』
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第101話 三毛犬(みけいぬ)の力 その1



「(右が下がってる)」

「こうか?」

「(今度は左が下がってる)」

「こうか?」

「(うん、いい感じ)」


 俺は三階でクラウディアと一緒にフリスビーを投げるフォームをチェックしていた。

 俺は鏡を見ながら体を動かし、それを横からクラウディアがチェックする。昼間、レンコントでの空き時間は全てこのフォームチェックに費やし、夜帰ると老犬達の散歩がてらにサッカーグラウンドへ行き、老犬達を休ませながら二人で練習を繰り返した。


 ──


「車?」

「うん、蒼汰の車が必要なんじゃないかって思ってさ」


 楓は突然、車を買おうと言い出した。


「通勤用か?」

 俺達はクラウディアと一緒に暮らすようになり、毎日クラウディアをレンコントに連れて行っていた。故に彼女が家に来てからは、電車で移動したことがない。

「それもあるけど、それは私の車でもいいでしょ?」

「じゃ、なんで?」

「最近さ、蒼汰もクラウディアを連れてしつけの出張に行ったりするじゃない? それで、私の用事と蒼汰の用事がぶつかった時、困ると思うの」

「あぁ……。確かにそうだな……」


 俺は最近、しつけの出張、急な呼び出しで出かける時、クラウディアを連れて行くようになった。それはクラウディアが連れて行ってくれと言うのも理由の一つなのだが、実際には連れて行ったら物凄く役に立ってくれたのだ。


 ──


 一週間前。


「(どこに行くの?)」

「しつけの出張だ」

「(しつけの出張?)」

「ああ、ここに連れてこられないような、手が付けられなくなったペットを見に行って、場合によってはしつけてくる」

「(私も行く)」

「お前も?」

「(ダメかしら?)」

「いや、ダメじゃないが……行ってみるか? 俺の言うことをちゃんと聞いてくれれば問題ない」

「(それなら大丈夫よ)」


 そうして俺はクラウディアをケージに入れ、楓の車に積み込むと、楓と一緒にお客さんのところへ向かった。


「今回は大型犬か?」

「うん。ジャーマンシェパードのオスなんだけど……なんかね、大好きだった旦那さんが亡くなってから急に吠えるようになって、どんどん手がつけられなくなっちゃったんだって」

「あぁ、順位付けか……上手くいくかな?」

「難しそう?」

「いや、相手次第だ……。どれ程の頑固者なのか、見てやろう」

「うん」


 俺達はお客さんの家の前に車を停め、車を降りた。そこは屋敷と言えるほどの大きな家で、周囲を高い塀が囲んでいた。


 ピンポーン。俺は門柱に付けられたチャイムを押した。

「バウバウバウバウ!(誰だ! 勝手に俺の家に入るのは許さんぞ!)」

 途端に犬が吠えだした。

「あぁ、こいつだな」

 この声からすると問題のシェパードっぽい。


 飼い主さんが出てきて庭へ通されると、大きな犬舎と広い柵の中にジャーマンシェパードのオスが居た。


「よ、初めまして。俺は片桐蒼汰、蒼汰って呼んでくれ」

「バウバウバウバウ!(誰だおまえ! 誰の許可を得てここに入った!?)」

「いや、誰の許可って、この家の主に決まってるだろ。それとも何か? おまえがここの主だとでも言うつもりか?」

「バウバウバウバウ!(私は許していないぞ! 早く立ち去れ!)」

「なぁ、少し落ち着いて話さないか?」

「バウバウバウバウ!(誰だおまえ! 誰の許可を得てここに入った!?)」

「いやだから、この家の主だって」

「バウバウバウバウ!(私は許していないぞ! 早く立ち去れ!)」


「やーべ……こいつ、話が通じないタイプだ……。こりゃ時間がかかりそうだな……」

 この手のタイプは頭ごなしに自分の意見を言うだけで、人の意見を聞かない。それこそRPGのボスキャラみたいなもので、正しい答えを入力するまで、ずーっとこの堂々巡りが続くのだ。

「うーん……どうするかな……」

 俺が腕を組んで考えていた時。

「蒼汰、クラウディアが呼んでますよ?」

 アリシアが俺に声をかけた。

「(え? 何だって?)」

「クラウディアが、私がやるって言ってます。だから出してくれって」

「(あいつが……? よし、わかった)楓、クラウディアを連れてきてくれ」

「うん」


 俺が楓に頼むと、楓は車に戻ってクラウディアにリードを付け、クラウディアを連れてきた。


「お前がやるのか?」

「(ええ、任せて)」

 クラウディアは柵の前に伏せた。

 するとジャーマンシェパードは静かになり、そのまま柵から鼻を突き出して、クラウディアの匂いを嗅ぎ始めた。

「(誰だお前? 知らないやつだな)」

「(やっと話す気になった?)」

「(おまえ、俺の嫁になれ)」

「(ごめん、それはできないわ。それよりあなた、どうしてそんなに吠えているのかしら?)」

「(どうして? 俺の仕事だからだ)」

「(誰に頼まれたの?)」

「(ご主人様に決まっている)」

「(亡くなった旦那様のこと?)」

 お前、俺達の話、聞いてたのか……。

「(亡くなった? 亡くなっただと? 何をいい加減なことを! 貴様、俺のご主人様を侮辱ぶじょくする気か!)」

 ジャーマンシェパードはうなり始めた。

「(そんな気はまったくないわ……。あなたのご主人様、よっぽど良い人だったのね……)」

「(……なぜそう思う)」

「(あなたを見ていれば分かる。あなたがそれ程までに信頼し、大好きってことは、相当良い人だったってこと。違う?)」

「(…………)」

 シェパードは黙り込んだ。

「(でもね、あなたのご主人は亡くなったの……。もうこの世には居ないのよ……)」

「(嘘をつくな!)」

「(嘘じゃないわ。あなたも薄々感づいているはず……違うかしら?)」

「(…………本当に……もう居ないのか?)」

「(ええ。もう匂いがしないでしょ?)」

「(だが薄っすらと)」

「(自分に嘘をつかないで。あなたは分かっている……。ただそれを信じたくないだけ……違う?)」

「(…………)」

「(分かってくれて嬉しいわ。それからね、あなたの大好きだったご主人様があなたに言ったであろう『この家を守ってくれ』って意味。ちょっと違うわよ?)」

「(違う? 何が違うというのだ)」

「(あなたのご主人様が言った、この家とは。この建物や敷地のことじゃない)」

「(……では、何を守れというのだ?)」

「(ご主人様の家族よ。ご主人様が言いたかったのは……『自分が死んでから残される、自分の家族達をお前の力で守ってくれ』って、そう言ったのよ。わかる?)」

「(家族……なのか?)」

「(思い出して。ご主人様があなたと一緒に笑う時、そこには必ず一緒に家族が笑っていた……でしょ?)」

「(……確かに……では俺は、間違っていたというのか?)」

「(ええ、間違っていたわ。でもね、それを恥じたり悔やんだりする必要はない)」

「(……そうなのか? では俺は、俺は……どうしたら)」

「(あなたがしなくちゃいけないことは一つだけ。ご主人様の家族を、あなたが出来る方法で守る……。ただそれだけよ)」

「(それだけでいいのか? 俺は誰に謝ったら)」

「(そうね……謝りたいのなら、家族に謝りなさい。あなた、家族に相当辛く当たっていたそうじゃない……それは、亡くなったご主人様が悲しむ行為よ?)」

「(ご主人様が、悲しむ?)」

「(ええ。ご主人様が大切にしてきた家族を、あなたは悲しませた。違うかしら?)」

「(そうかも知れん……。俺はご主人様の命令を守ろうと、ただそれだけを思い……)」

「(それはそれで立派だわ。あなたを責めることなんて誰にもできない……。でもね、亡くなったご主人様があなたに託したもの。それは他でもない、あなたの家族。あなたはここの家族の一員。だとしたら、あなたがみんなと仲良く楽しく暮らすこと、それこそが、亡くなったご主人様が喜ぶことなんじゃないのかしら?)」

「(俺の……家族)」

「(そう。あなたの家族)」

「(わかった……これからは家族を大切にする、仲良く楽しく暮らす。それでいいのか?)」


「(それでいいわ。それから、あともう一つ)」

「(なんだ?)」



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