7.魔法
戦闘描写のせいで瀕死でございますorz
今までは防戦メイン、ただ力を図るだけの戦いだった監督チームの4人が攻撃を混ぜてくる。カウンターを往なすだけで精一杯だった前衛組には辛いか。
「拓磨、薫、鈴音、暫く前衛3人の足止めを頼む。」
「いいけど、浩太はどうするのよ?」
「ザレアを止めにいく。見たところザレアが監督チームの司令塔だからな。意識を俺に向けられれば前衛組の3人とまともに戦えるはずだ。」
「あいよ。それまで任せな。あと道作りも、な。」
「私は皆を支援、します…!」
「あぁ、頼んだ。」
俺はその場に深く踏み込み、クラウチングの構えから一直線にザレアに向かって飛び出した。それと続くように拓磨と薫も走り出す。
だが、そのままスルーさせてくれるハズもないのが現役だ。敏捷C、元の世界なら陸上の全国大会に出ていてもおかしくない早さだが、カイは何の苦も無さそうに間に割り込んでくる。しかもおそらくザレアの援護であろう半透明の障壁も付いている。
これは迂回しないといけないかと考えると拓磨が俺の前に飛び出し、カイに攻撃を仕掛ける。
「邪魔はさせねぇよ、"貫徹"!」
拓磨のスキルだろう、拓磨の槍が障壁をまるで紙に針を刺すかのように易々(やすやす)と貫く。
障壁を破った槍をカイが何とか往なす。すぐに体勢を立て直そうとするが、敏捷Cのスタートダッシュからさらに加速した俺にとっては大きすぎる隙だ。
「サンキュ拓磨!」
「おうよ!」
一瞬で監督チームの前衛3人を抜け、ザレアまでの障害は無くなった。このスピードならザレアの所まで行くのに10秒とかからないだろうが、現役がそう簡単に行かせてくれるとは思えない。
直後、ザレアが俺のいる向きに手を掲げ、その手から黄緑色の光が溢れだす。
「暴風!」
その黄緑色の光はザレアの声と同時に風へと変わり、俺に吹き付けてくる。暴風と言うだけあって、風速は台風並みだ。さっきまでの加速は無くなり、ザレアまであと3mといった所で完全に止められてしまう。前に進もうとしても風が絡み付くように俺をその場から動けなくしてくる。
ザレアがニッコリと笑いながらこちらを見ている。
「これが魔法ってヤツだよ。スキルと似てるけど違う力、魔力を以て奇跡を起こす。そう言った術さ。」
俺は1度距離を取り、風が緩んだタイミングで肉薄しに掛かる。だが、ザレアの手から黄土色の光が溢れ、厚さ30cmはあろうかという土壁が俺の進路を塞いでくる。
「魔法ってのは随分と面倒なものですね…。近接では分があると思いましたがどうしようもなさそうだ。」
正直は所、魔術師は近づいてしまえばどうとでも出来ると思っていた。ゲームでは魔術師が近接で戦える方が少ない。だが、実際は多彩な術を使い、近接では分があるハズの俺を翻弄し、近づくことすら儘ならない。
「魔法っていうのは使用する意思とそのイメージが無ければ使えない。だが、逆に言えばそれだけさ。普通の魔術師が剣士に近接で勝てないのは剣を裁くのに精一杯でイメージが固まらないからさ。」
そう言ってザレアは土で剣を作って見せる。そしてそれは数秒毎に形を変えている。
「云わば想像の具現化、意思が強ければ強いほど魔法は強力なものになる。君にこれが破れるかい?」
ザレアが微笑みながら問うてくる。これはつまり俺も魔法を使えってことか。
「破って見せますよっ!今すぐに、ね!」
イメージする。ゲームの王道といえば火、水、風、土の4属性の初級魔法だが、具体的にイメージが出来ない。意思の強さが魔法の強さ、ということは具体的なイメージが出来た方が強力なものになるはずだ。俺がイメージ出来るものは…花だな。幼い頃から花が好きだった。中学の頃はよく学校の花壇の手入れを勝手にしていた程だ。イメージを膨らませる。根から葉の先、茎の先まで鮮明に。もっと深く、深く。
そして、そのイメージを魔力に乗せる。手から多くの光が溢れだす。
「薔薇園」
言葉は勝手に口から出ていた。それと同時に俺の意識は現実に引き戻される。これは確実に成功した、そんな気がしたがパッと見た感じでは何も起きてない。
と思ったのも一瞬。俺を囲むように地面から棘のついた蔦のような植物の茎が物凄い速度で這い出てくる。それは俺の周囲、半径3mほどの範囲のみにしか生えていないが、細いものでも太ももほど、太いものでは俺の胴と同じぐらいの太さがある。そしてその茨はゆっくりと、だが確実に生える範囲を広げている。
これを使えばザレアの守りを抜けられる気がしたのでザレアの方に注意を向ける。するとザレアは顔を真っ青にして突っ立っていた。兵士長のいる方や前衛組が戦っているであろう俺の後方から叫び声や指示を飛ばしている声が大量に混ざって聞こえてくる。
だが、俺はそれを全く気にせず魔法が完成した実感を噛み締めていた。それと同時に異常なまでの倦怠感が体中を襲ってくる。俺はその倦怠感に耐えきれ、いつの間にか視界がブラックアウトしてしまった。