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2話 私だって、怒ります

この世界の話をしましょう。


魔物が人間を食べるのは、残酷だと思いますか??



答えは、NOです。


なぜなら、他者を食って生きるのは人間も同じだからです。


しかし、人間はなまじ知性を持つがゆえに、その行為を受け入れられないのです。


そして、魔王はそれを知っていて、自分の国民をまもるために戦っています。



どうですか??


人間も魔物も、大して変わらないでしょう?


だから。私はどちらの陣営にも属さないのです。


本当は面倒なだけなんですけどね。












勇者一行を魔王城まで送った後。私は川でのんびり釣りをしていました。



「今日は何が釣れるかな・・・あんまり大きいと食べきれないから、中くらいでいいかな」


私は小食です。体は幼女なので。


そんなことを考えていたら、竿に反応がありました。


「む・・・!?この感じは・・・」


間違いありません。この引き、この重さ・・・!!


「あなたですね、魔王・・・」


「あら、ばれちゃったか」


水中から勢いよく飛び出し、空をくるくる回って着地。お見事です。じゃなくて



「何してるんですか。さっきあなたのもとに活きのいい勇者一行を送ったでしょう」


「ミルハ、もーちょいやさしさってないのかね??あのレベルの子たちをいきなり敵の首魁に放り込むって。私でも引いたよ。」


「魔王討伐に躍起になっていたようなので、手っ取り早くラスボスの下まで連れて行っただけです。むしろ感謝して欲しいくらいですね。」


「ラスボス言うな。」


「で、あの方達はどうしたのですか?」


「ん?説得して家に帰した。大変だったよ?何を話してもまるで聞いてくれないんだもん。」


「よくそんな人たちが説得に応じましたね。一体何をしたんですか。」


まぁ、十中八九半殺しでしょうけど。


「死ぬ寸前まで一旦追い込んで、それから回復魔法をかけてあげたんだよ。そしたら一発で冷静になったよ。」


「なんて無慈悲な…」


「いきなり私の元に送るのは無慈悲じゃないのか…」


私の前に現れたのは現在の魔王ことユークリアさんです。


私と彼女とのあれこれはいずれ語るとして、今はこうして、ユークが私の元に遊びにくるような関係です。


「それで、わざわざ文句を言いに来ただけじゃないのでしょう?どういったご用件で?」


「そうだった、聞いてよミルハ。最近人間界のお偉いさんがたがまた魔物を殲滅して回ってるみたいなんだ」


「それは大変ですね。」


「いや、なんでそんなに興味ないのよ。まぁいつものことだけど。」


私が興味のあることは今日の夕飯くらいのものです。


「それで、あなたはどうしたいのですか?」


「人を襲う魔物ならともかく、その辺歩いてるだけの無害な連中を狙ってるみたいだから、魔物の注意喚起と、できれば王様に直接文句言いたい。」


「そうですか、では」


私は指でルーンを刻み、空間を繋げる魔法を使用しました。本来なら一生を魔法に費やしたものしか使えない超上級魔法ですが、私にとってはお茶の子さいさい。ちょっと魔力を込めればこれくらい余裕です。


「リース。魔王があなたに文句があるそうですよ。」


「え、ミルハさん?また勝手に空間繋げたの?え?魔王?」


繋げた空間の先、そこには、玉座に座ってうとうとしている女性がいました。職務真っ最中に船を漕いでいるあの不届きものがリーズリット。人間界の王、つまり王様です。


「さぁユーク。あなたの怒りをあの胸にぶつけてやりなさい。」


「ミルハ、それ私怨入ってるよね…」


ユークが私とリースを見比べて呟きますが、決して私怨なんてありません。あの胸に敵意なんて抱きません。


「まぁいいや…で、あなたが人間のトップだね?私はユークリア。魔王だ。」


「人間界の王、リーズリットです。魔王ユークリア。ミルハさんの話からすると、何か私に、いや、私たちに怒りを覚えているようですが」


「最近西の方で、無害な魔物達を殺して回ってるそうじゃないか。凶暴な奴らなら仕方ないが、ただ生きているだけの奴らをやられたんじゃ、魔王としては許せない。」


「西の…あいつら、あれだけ言ったのに…」


ふむ。私にはなんとなく事の顛末がわかりました。


「リース。あなたの指示ですか?」


「いいえ、私は何も指示してはいません。ただ、西の方には軍人崩れが作った町があります。おそらくはそこの者達による憂さ晴らしだと。」


「憂さ晴らし?憂さ晴らしで魔物を殺すのか」


「ユーク。少し落ち着いてください。結界が揺らいでます。」


「あ、あぁ、ごめん。でも…」


「リーズリット。私が前にあなたに言った言葉を覚えてますか?」


「ええ、勿論。『魔物が人を襲うのは、私たち人間が動物を食べるのと同じこと。故に、咎められるものではない。」


「それがわかっているなら構いません。ユーク、魔法を解除します。離れてください」


「ちょ、私はまだ…」


「いいから離れなさい。ユークリア」


私の目を見たユークは、一瞬怯えたような表情を見せるも、即座に表情を締め、最後に


「リーズリット。貴女、即位したのはいつ?」


「王となったのは二年前、私が14になった時です。」


「そう」


と、短い言葉を交わし、ユークは私の後ろへと回りました。








魔法を解除し、空間が元に戻ったのを確認したユークは大きく息をつき


「ミルハ。どうして介入したの?」


「リースは私の言葉を覚えていた。そして、私が言いたいことを理解していた。だから、あの場での争いは不毛だと悟ったからです。それよりユーク、さっきリースが言った言葉には続きがあります。」


「続き…?」


怪訝な表情を浮かべるユークに、私は言葉を紡ぎます。


「そう。生きるために殺すのは、罪ではありません。ですが




快楽のために殺すのは咎められるべきだ。


この言葉の意味、貴女にわかりますか?ユーク」


「ミルハ、それって…」


「ええ、快楽のために魔物を殺している西の方の者達は、裁かれねばならない。ですが、人間界では魔物を殺しても罪にはなりません。なら、一体誰が裁くのでしょうね?魔王様?」



「…なるほど。そういうことか。」


「リースは今回の件とは無関係です。怒りを向けるのは彼女ではなく、当事者達にです。」


「…あの王様には悪いことをしたかな。」


「いいえ、あれでも王と呼ばれる者です。彼女にとっても、いい教訓になったと思いますよ。」


さて、ユークも理解したようですし、私もたまには一肌脱ぎましょうかね。


「ユーク。今から件の西の街を消し飛ばします。」


「…え?」


キョトンとした顔をユークを放置して、私は詠唱に入ります。


《来たれ、混沌より出でし者よ。》

《その身に宿したる紅炎を持って、仇なす物を薙ぎ払わん。》

《吾、其の御名で、深淵たる彼の扉を開きし者。》

《憐命たるは我が御柱。降り注ぐは我が憤怒。》


《未開の深淵 (アビィス・ノヴァ)》



「…え?何?今の」


詠唱を終え、座り込む私に、戸惑いながらユークが問いかけてきます。


「ああ、ユークは初めてですね。私の全力を見るのは」


「いや、それ以前の疑問なんだけど。え?今のが詠唱?」


「ええ、私がたどり着いた魔道の深淵。そこにある膨大な力を引き出し、現実に顕現させる魔法です。現状、一度使うと私の魔力がほぼなくなるので、所謂『必殺技』というやつです」


「え、ミルハの魔力ってほぼ無限に近かったよね?それがなくなるってどういうレベルの魔法なのよ…」


「まだ詠唱が完全ではないので、無駄が多いんですよ。後数百年くらい研究すればその無駄も改善されるでしょうけど。ともあれ、これで西の街は綺麗さっぱり消えて無くなりました。」


何か言いたそうな目でこちらを見ているユークを無視し、私は屋敷に向かい歩みを進めます。と、後ろから若干の魔力の気配、それは瞬く間に膨れ上がり、白炎となってわたしに襲いかかります。ですが。



「ユーク?今のはなんですか?」


魔力を少し乗せた吐息に触れ、白炎は瞬時に凍りつきました。魔力がほぼ空になっているとはいえ、元々の量が違うのですから、この程度の禁呪ならまだ使えます。


「いや、今ならあの時の恨みを晴らせるかと思ったんだけど…さすがは魔導の深淵に達した者、とでも言うかな。やっぱりミルハには勝てる気しないよ。」


「当然です。年季が違うのですから」


私はユークを見ることもせず、そのまま屋敷の扉を開け


「どうしたのですかユーク、いつまでもそこにいないで早くこちらに来てください。締め出しますよ」


「え?」


「何を呆けているのですか。それとも、今日はもう帰りますか?」


「…いいや、久しぶりに友達に会いにきたんだ、少しゆっくりしていくよ」


ユークはそう言って笑います。釣られて私も、


「ちょうど昨日お菓子を作ったんですよ。作りすぎたので処理お願いします。」


「ホント、ミルハはお菓子作り好きだよねぇ。しかも毎回とんでもない量作るし」


「基本暇なんですよ、私は」


「知ってる。だから私が遊びにきてるんじゃん。」


「まぁ、その点は感謝してますよ」


こうして、今日も一日が終わります。


不老不死の私にとって、人との繋がりはいつか来る別れの始まりにすぎません。それが、たとえ魔物でも。


それでも、私を友と呼ぶこの魔王や、私を受け入れたあの王との繋がりは、私をまだ人間でいさせてくれる大切なもの。


数年後、そんな2人が激突するのですが、私には手を出す権利はありません。


私は人ではなく、魔物でもないのですから。

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