魔王討伐??そんなことより日光浴です
「ん・・・」
天窓から差し込む太陽の光を浴びて、今日も私は目を覚ます。
お手製のベッドから起き上がり、ぐっと伸びをする。
「ふあぁ・・・今日は何をしましょうか。」
寝ぼけ眼ですが、私のことを簡潔に紹介しましょう。
一見10歳にしか見えない私の名前はミルハ・アキュラ。大体1200歳です。
え?
1200歳はさすがに嘘??
いえいえ、これが本当なんです。
詳しいことは省きますが、私の体には呪いと加護が共存しています。
不老の呪いと、不死の加護。
どちらも、見た目10歳の私に恋い焦がれた神様から勝手につけられたものです。腹立たしい。
しかも、これはあとから知ったことなのですが、両方共かけたものしか解除ができないらしいんですよ。
うっかり殺してしまったのは私なので、それを知ったときはさすがに反省しましたよ。
さて、このくらいでいいでしょう。
私の説明は以上です。
顔を洗い、頭をすっきりさせた後は、外に出て日光浴を・・・「本当に・・・ここに魔女がいるのか・・・?」どうやらお客さんのようですね。完全に招かれざる客なのですが。
声の方向を確認すると、3人の人間の姿が確認できました。旅人…というには些か物騒な装備品ですが、戦闘を避けてきたのか、その装備品達は数一つありません。ということは…
「魔女・・・と呼ばれるのは存外不愉快なものですね。あなたたち、どうやってここに入ってきたんですか。」
勝手に私の庭に入ってくるなんて、200年前の私なら即滅却してましたよ。ええ。丸くなったものです。
「君は・・・魔女の娘か!?」
3人のうち、リーダー格であろう男が驚いた表情で私を見ます。他の2人は一瞬こちらを見たものの、すぐに周囲の警戒を続けています。ふむ、この2人はそれなりに戦闘経験があるようですね。というか
誰が娘ですか。人を見た目で判断しないでいただきたいものですね。
「おそらく、あなたたちの言っていた魔女とは私の事でしょう。不本意ながら。で、私の質問に答えてください。」
おそらくは、勇者一行、といったところですか。魔王討伐を目的とする集団であることは間違いないでしょう。
「あぁ、俺たちは魔王を倒すために旅をしているんだ。魔王領に入るために森をぬけていたら、いつの間にかここにたどり着いていて、ふと魔女の言い伝えを思いだしたんだ。」
森・・・ああ、この前魔王がうっかり結界の一部を壊していましたね・・・あのちんちくりんめ。しかも言い伝えとは、あの巨乳め…。
「魔女・・・まぁいいです。そうです。魔女は実在しました。はい、じゃあ帰ってください。」
私は忙しいのです。日光浴と、散歩をしなければいけないのです。
そう言って私は最近作った日光浴エリアに向けて歩き出そうとします。しかし
「なぁ、魔王討伐を手伝ってはくれないか?魔法使いがいなくて困っていたんだ。魔女様がいてくれたら、心強いんだが」
勇者(仮)は私の言葉を無視して、こちらに手を伸ばしてきました。幼女とは言え魔女(と言い伝えられている)に対してなんの警戒もせず手を伸ばすとは、自殺志願者か何かでしょうか?実際、私がその気になれば、3人まとめて瞬殺することなどは容易に可能です。後片付けが面倒だからしませんけども。
「お断りします。興味ないので。」
「そういわずに頼むよ。君の力が必要なんだ!!」
改めて、一行のリーダーであろう青年を見やる。ふむ、確かに何らかの血筋の一族であることは間違いないでしょう。顔も整っています。勇者としては100点満点ですね。ですが
「では質問です。魔物は何を食べるでしょう」
「そんなの簡単だ。人間だよ。奴らは人間を食う。許せないことだ」
「正解、そして不合格です」
きょとんとした顔になった一行を見ず、私は続ける。
「ではもう一つ。もしあなたたちが食事をとらなかったらどうなりますか??」
「・・・死ぬ」
「正解です。ではもう一つ。普段あなた達が食べている肉や野菜は生きていますか?それとも死んでいますか?」
「生きている。その命をもらって、俺たちは生きているんだ」
「それがわかっていながら、なぜ魔王を討伐しようとするのですか?」
「人間に害をもたらすからだ。事実今までもどれだけの村が被害にあったことか・・・」
・・・やはり。気づいてはいませんか。
長話もなんですし。そろそろ終わらせるとしましょう。喉が渇きましたし。
「人間に害するから殺す・・・ですか。そんな考えでは魔王討伐は不可能ですね。というかそんな程度のいざこざに私を巻き込もうとしたことのほうが不愉快です。即刻立ち去りなさい。」
一息でそう告げ、川のほうへと進路をとる。ちなみに、この結界ない内に必要なライフライン、娯楽等はすべて作ってあります。川にはちゃんと魚も泳いでいますよ。
「待ってくれ、俺は・・・」
「なぜまだそこにいるのですか?私は『即刻』立ち去れと言ったのです。もう話すこともありません。消えなさい。」
私にそういわれてもなお何かを言おうとしている彼に、私は特に何も感じず、目についた虫をつぶすように、空間魔法で魔王城に放り込む。
「念願の魔王城ですよ。よかったですね。」
何か言おうとしていたが私には関係ありません。私は喉が渇いたのです。
「ふぅ・・・やっと静かになりましたね。」
いつものように人気のないこの場所で、私は永遠に生きていく。
生きていく、というよりは。
死に続ける、といったほうが正しいのかもしれません。
私はもう、死んでいるようなものですからね。
背も伸びませんし、胸も育ちません。
永遠に幼女のままです。
お母さんはあんなにスタイルがよかったのに。悔しい。
今度は、外見を変化させる魔法でも研究してみましょうか。