妙なナマモノ、そして犬猿の仲
「よし、こんなもんか。」
俺の力が判明してから2日経った。あの話の後、特に何事も無く1日は終わりった。やったことといえば力の制御方法や高める修行の仕方を少し習ったり、せがむ玉乃に稲荷寿司を出してやったくらいだ。
昨日からは居候させてもらってる分の借りを返すために少しずつ社や境内の掃除、草むしりなどを進めている。この神社はかなり広く、草むしりだけでも当分終わりそうになかった。
あぁ、腰が痛い……なんてボヤきつつ掃除を再開する。だが泣き言を言っても居られない、衣食住を世話してもらってるヒモのような身分なのだ、これ位はやらないと罰が当たる。とは言え、この良く言えば家事手伝い悪く言えばニートの身分から早く脱却したいのも確かである。そうした俺を尻目に我が女神様と言うと……
「すぴー……ふぐぐ、もう食べられんのじゃよ~……」
縁側で絶賛熟睡中である。しかもベタな寝言のオマケつき。そう、二日間この神様は俺に力の使い方を教えてくれる時以外は稲荷寿司を食うか寝ているかのどちらかだった。たった二日間だけだが一つだけハッキリわかったことがある。どうやらこの神様、玉乃は根本的にかなりぐうたらな性格みたいなのだ。
それを裏付ける話が一つ。昨日、部屋の掃除をしている際に玉乃が個人的に使ってる部屋へと入ることになったのだが……そこに広がっていたのは混沌だった。散らばる衣服や何かの残骸、まじないか何かの道具であろう物体に果ては神仏を象った木像。そういった物が端の方にある布団から扉へと続く歩くためのスペースであろう道以外にはそれこそ足の踏み場もないくらいに散らばってあった。玉乃曰く
「どこに何があるかは把握しておるから問題はないのじゃよ。妾的にはこれが一番使いやすい配置なのじゃ。」
との事である。片付けられない奴の典型的な台詞じゃねーか!とは思ったが流石に女性の部屋を片付けるのは不味いと思ったため放置してある。何年物の混沌かはわからないが本人が大丈夫と言っているのだ、何か合っても本人の責任だろう。
「ふがっ!……あれ、妾の稲荷寿司御殿が無い……」
そんなとりとめもないことを考えながら掃除をしている内に、どうやら玉乃が目を覚ましたようだ。こいつ、一体どんな夢を見ていたのだろうか。
時間もちょうど昼を過ぎた辺だろう、そろそろ休憩を挟もう。そう思い、掃除道具を一旦邪魔にならない場所へ立てかけて玉乃の元へと向かう。
「随分と妙な夢を見てたみたいだな……ヨダレ垂れてんぞ。」
「むぐ……何ということじゃ、まさかあの神々しい御殿が夢であったなど。」
「袖で拭くんじゃない、服が汚れるだろ。」
「ふん、服は汚れるためにあるのじゃよ。汚れても洗えば落ちるのじゃから何の問題もないわ。」
ああ言えばこう言う……初めて会った時の威厳ある姿はどこに行ったのか、信仰心やら尊敬やらがガラガラと音を立てて崩れていくような気がする。あぁ、俺の女神を返してくれ……そんなことを思いながら溜息をつく。
「ところで、そろそろ昼時じゃな?またアレを出してくれんかの?」
「お前、寝言で腹いっぱいって言ってたじゃないか。それに朝も食っただろ。」
「夢の事は現実とは関係ないじゃろう、それにあんな美味なもの毎日3食とおやつに食べても飽きることはないのじゃ。」
「ったく……お前、実は神様じゃないんじゃないか?はっきり言って今の玉乃は威厳も欠片もないぞ?」
そんな事を言いつつも稲荷寿司を出してやる。なんだかんだ言っても俺も甘いよなぁ、なんて思いながら玉乃の横に腰掛ける。その途端ピコピコと弾む狐耳に揺れる尻尾。それらを見ると確かに普通の人ではないと思えるが、今までの行動からどうにも神様とは思えなくなってくる。それこそ何かしらの妖怪が神の真似事をしているかのような……
「孝俊お主、初めて会った時はあんなに熱い眼差しで妾を見ておったというのに、今はかなり妾を見る目が……こう、ダメな奴を見るような目になってないかぇ?むぐむぐ……ほぎゃぁ!どういうことじゃ!?稲荷寿司に含まれる孝俊からの信仰が減っておる!?」
「残念でもなんでもなく当然なんだよなぁ。お前、胸に手を当ててよーく考えてみろ。部屋はあんなに汚いし、はじめの時はともかくそれ以外でお前がやったことといえば稲荷寿司食って寝てを繰り返してるだけじゃねぇか。部屋は汚いし。」
「部屋が汚いって2回も言った!?あれは妾が一番使いやすいようにああいう風にしてあると言ったじゃろうが!それにただ食っちゃ寝してるだけではない、これから先困る事のないように最低限の動きをすることによって力をためているだけなのじゃ。」
「ほぉーん?」
「む、その顔信じておらぬな?」
「むしろこの二日間の行動で信じられる証拠がない。」
「むぎぃ!お主は妾の氏子じゃろう!それなら神である妾の事を信じるべきじゃろうが!」
「いや、さっきも言ったが現状お前のことを神様だって思えないんだがな……」
そんな風に正直に告げると、玉乃は一瞬呆けた後顔を真赤にして怒りだした。だって仕方ないじゃないか、この二日間の行動が少しずつ信仰心をすり減らしていったのだ。
俺が唯一の氏子ってのもこの辺りが何か関係しているんじゃないだろうか……ギャーギャー言いながら詰め寄ってくる玉乃を片手であしらいながらそんなことを思う。あんなに怒りつつも手から稲荷寿司を離さないところが余計にその考えを加速させる。
「きょほーっほっほっほっほっ!」
その時、どこからかよくわからない高笑いが聞こえてきた。
「全く、ざまぁないですわね!あなた以外誰もいないはずのこの神社に誰か居ると思えばようやく、再び氏子が出来たご様子……にも関わらずまさか神と言う事実を疑われているとは。やっぱり狐なんぞに神なんて大役務まるわけなかったのですわ!」
「むむ、その声は!」
どうやら玉乃はその声の持ち主の正体を知っているらしい。そいつは屋根の上にいるらしく、声が上から聞こえてくる。一体いつの間に……縁側から立ち上がり屋根を見上げる為に歩いて行った玉乃を立ち上がり追いかける。
「とうっ!」
「おぉぉ!?」
奴は屋根から飛び立ち、俺達の前へと……頭から突っ込んだ。
「へぶぅっ!?」
……一体何だというのだろうか。よくわからない生物が頭を地に埋めピクピクと痙攣している。あまりにも唐突なソレに、一瞬頭が真っ白になる。その生物はジタバタと手足を動かした後、スポンッと言う音がしっくりくるほどに勢い良く地面から頭を抜いた。
「よ、よくもやってくれましたわね……私に対してこの様な仕打ち、決して許されることではありませんわよ!」
「いや、ただの自爆じゃねぇか!自分で飛び降りて自分で頭から突っ込んだだけだろ!?」
思わず突っ込むが、俺はその生物を見て驚愕する。玉乃と同じ金髪で、玉乃とは違う別の種類の耳、おそらく狸の耳であろうそれがついている。そこまでは良い、だが俺が驚いているのはそこじゃなかった。
この生物は、小さいのだ。50cmくらいの2.5頭身くらいだろうか、ちょっとデフォルメしたような顔に、小さな体。そしてその体は狸の着包みのようなもので覆われている。首の後にフードのようなものが付いていることから、恐らく着包みで間違っていないだろう。
「なぁ、玉乃。この妙ちくりんな生物は一体何だ?」
「あぁ、此奴はな……」
「きょほほほ!そんなに私の正体が気になりますのかしら?良いでしょう良いでしょう、そんなに知りたいというのなら教えてさし上げるのも吝かではありませんわ!」
玉乃の言葉を遮るように目の前の狸?が口を開く。やけに偉そうなお嬢様口調のそいつは、聞きたいでしょう?聞きたいと言いなさい!とでも言うような表情でこちらを見てくる。
「いや、別にそこまでは……」
「ぐふーふ、そこまで言うのであるのならば教えてあげましょう!耳をかっぽじってよく聞くがよろしくてよ!」
こいつ、人の話を聞いてねぇ。そこまで語りたいのか。
「私はかの大妖怪、刑部狸を祖とする化け狸。その類まれなる才能を持って管狐ならぬ管狸として活躍する雛子とは、私のことですわ!」
そう言った後、彼女はきょほーっほっほっほっ!と高笑いするのだった。
駄文に目を通して頂きありがとうございます。
ブックマークをしていただけてる人もいらっしゃるようで感謝の極みであります。
はい、新しい登場人物、変なナマモノの登場です。
彼女には意外な秘密がありますが、それは後のお楽しみに。次回も新しい人物が登場する予定です。
宜しければ感想や批評、ブックマーク等よろしくお願いいたします。