表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

取らぬ狸のなんとやら

 帰る術がない、その言葉が俺に重くのしかかる。この世界に骨を埋めたということは、皆帰る方法を見つけられなかったということだ。そして、超常の力を持つ神様がいるというのに見つけられなかったという事は、これから見つかる可能性は限りなく低いだろう。

 ちくしょう、何てこった!と、歯を噛み締めながら心の中で悪態をつく。


「あ、いや!まだ見つかってないだけだじゃから、探せば帰る方法も見つかるかも知れん!何、勿論妾も協力するぞ、安心せい、きっと家族のもとに帰ることが出来るはずじゃ!」


 表情から察したのか、玉乃は俺を心配したようにそう言う。そんな彼女に、俺は……


「あ、俺両親とはもう死別してるし兄弟姉妹もいない、親戚はいるけど数年会ってないくらいには疎遠になってるから、別にそう言った意味では帰りたいとは思ってないわ。」


「……はぇ?」


 あっけらかんとそう言い放つ。玉乃はぽかんとした表情になり、可愛らしい疑問の声を紡ぎ出す。

 そうなのだ、俺にはもう親しい血縁は居ないし、特に親しい友人も居ない。精々学校でオタク談義する程度の付き合いだ。良くしてくれたバイト先の人たちには少々申し訳ないが、そこは勘弁してもらおう。

 だというのに、何故俺が悪態をついたかというと、元の世界に帰れないということは、積んでたゲームも出来ないし、好きだった漫画やアニメの続きも見ることが出来ない!ガッデム!ファッ◯ンジーザスクライスト!と思わず英語で汚い言葉が出るくらいにはショックを受けているのだ。


「んー、まぁ元の世界でやり残したと言うか何と言うか。まぁそれも死にものぐるいで帰る方法を探すほどかと言われると、そうでもないような気がしないでもない。まぁ見つかればいいな程度には探すかも知れんが。」


「そ、そうかぇ……んむむ、まぁそれなら良い、いや良くはないのじゃろうが、まあ良いということにしておこう。帰還の方法妾の方でも調べておく、手伝うことがあれば言うと良い。」


「おう、その時は頼む。まぁ、目下の所必要なのはこれからどうするかってところなんだよな。何をするにしても先立つ物は必要だろうし、住むところとかも探さないといけないし。」


 現在俺は無一文。しかも宿なし職なしと言う帰るどころか生きていく事さえもままならないのである。昨晩はなし崩しに此処に泊まることになったが、どうにかしないと不味い。昨日の化物の事ではないが、渡る世間は鬼ばかりとも言うし……あれ?これはドラマのほうだったか?

 と、そんな情けないやらなんやらなアホな事を考えていると


「はっはっはっ、何を言うかと思えばそんな事じゃったか。先立つ物、まぁ金に関してはそんなにあるわけではないが、住む場所なら此処に住むと良い。自分で言うのもなんなのじゃが、ちとボロいが此処は広い、部屋は余るほどあるからのぅ。食料なら二人でも2~3日は困らん程度にはあるし、明後日には補給できる。足りないようなら街に出て買い足せば良いからのぅ。」


 あらやだ、素敵。何この男前、いや女前か?っと、そんなどうでも良い事を考えてる場合じゃないな。

 玉乃の提案はハッキリ言ってかなり助かる。右も左も分からない世界で、とりあえず衣食だけは確保できるのだ。申し訳ない気持ちも強いが、すぐに住むところや仕事が見つかるなんて楽観も出来ない今はこの提案に乗らせてもらうのが一番だろう。


「悪い、本当は自分で何とかするのが良いんだろうけど……ありがたくその提案に乗らせてもらうわ。なんとか、早いとこ稼ぎを見つけて返すことにするよ。」


「うむうむ、なぁに気にするでない。この程度なんの問題もないわ。困ったものに手を差し伸べるのも神の勤め、存分に頼ると良いぞ。」


 あなたが神か……いや、本物の神様だったか。それはそれとして、そんなことを思うレベルで今の彼女は威厳にあふれていた。玉乃には当分頭が上がりそうにない。命を助けられて更には衣食まで。少しずつでも借りを返していかないとな。


「ん、茶が切れたか、結構話し込んでしもうたし少し休憩するかの。新しく入れてくる故、少し待っておれ。」


 玉乃はそう言って席を立った。本当は居候の身分へジョブチェンジを果たした俺がやるべきなのだろうが、台所の場所もわからなければ茶葉がある場所もわからない。おとなしく座っているのが今の俺の仕事なのだ。

 

「しっかし、なんとまぁ……とんでもないことになっちまったもんだな。」


 体を伸ばしながらそうぼやく。いつもならば今頃家で本を読んでるかゲームをしていただろう。それが何の因果か、異世界に落ち、化物に殺されかけ、命を救われ……その恩人の家に居候することになったのだ。なんというかもうお腹いっぱいである。

 現状を再認識しながらふと周りを見たわす、ボロいにはボロいが、放置され朽ちたようなボロさではなく使い込まれて老朽化したような部屋が見て取れる。


「古き良き和室、って感じだよなぁ。この丸いちゃぶ台も、元いた世界だったら今時そうそうお目に掛かれんだろ……」


「ふむ、そうなのかぇ?妾からすれば居間にあるのはこう言った丸いちゃぶ台が普通なのじゃが。」


 独り言を聞かれたようで、お茶を持って戻ってきた玉乃にそう言われる。


「あぁ、俺の中では居間にあるのは……まぁ炬燵だったり、フローリングだったら椅子と机だったりで、こう言ったちゃぶ台は本の中とかでしか見なかったんだ。」


「ほうほう、街の方に行けばそういった物を使う奴らもおるかもしれんなぁ。」


 玉乃はお茶を置きながらそう言い、座ってお茶を飲み始める。それに釣られ俺も目の前に置かれたお茶を手に取り、口に含む。


「あっづ!」


 玉乃が平然と飲んでいた為それほど熱くないと思っていたが、予想以上にお茶は熱かった幸い、啜るように口に含んだ為吹き出すことはしなかったが、舌を火傷してしまった。


「む、大丈夫かの?どれ、ちょっと舌を出して見せい。」


 そう言って玉乃は身を乗り出すように顔を近づけてきた。

 うおお、顔が近いぞ……まつ毛まではっきりと見えるほどに近づいた顔に俺は動揺する。こちとら思春期真っ盛りの男の子なのだ、玉乃のようにトンデモナイ美少女に顔を近づけられたらかなりドキドキしてしまう。しかも、近づいたからかかなり良い匂いが……


「どうしたのじゃ?早う舌を出してみよ。」


「あ、ああ、スマンスマン。だけどちょっと驚いただけでそんなにひどい火傷ってわけじゃ……」


 言いながら舌を見せる。言ったとおりそこまでヒドイもんじゃないはずだ。明日になれば治ってる程度のものだろう。


「ふむふむ、確かに多少赤くなってはいるが大した火傷ではないな。まぁ物の序でじゃ、治しておくとしよう。」


 そう言うと、玉乃は俺の舌に指を向けた。何をするんだ?と思った瞬間、玉乃の指が少し光った。

 おぉ、なんだこれ。痛みが一瞬で消えたぞ。


「すげぇ、一体何したんだ?ヒリヒリしてたのが一瞬で治ったんだが。」


「ふふん、治すといったじゃろう?ちょっとしたまじないじゃが、この程度の怪我なら一瞬じゃよ。」


「ほぉ~、凄いもんだな神様の力ってのは。俺のいた世界じゃ痛みを和らげたりする事はできてもどんなに小さな怪我だって一瞬で治す何てことはできないぞ。」


 少しみっともないが、指で舌を触って確かめてみる。しかし何の痛みもなく完全に治っているようだった。痛いの痛いの飛んで行け、を実際に実現させたようなものだ。便利なんてものじゃないなこれは。


「ふっふっふ、そんな大したものではないのじゃ。妾がやろうと思えばそれこそ骨折だって一瞬で治すことができるからのぅ。まぁ今はそんな術を使えるほどの力はないが、この程度なら少し才があるものなら誰でも使えるものじゃよ。」


 へぇー、骨折を一瞬で治すって半端ないな。完治するのに一ヶ月以上かかるのは当たり前なのに神様にかかっちゃ一瞬なのか……やっぱりこっちの世界のほうが上位世界なんじゃねーの?だが、今はそれどころじゃない。


「まじか……なぁ、ちょっといいか?」


「ん?どうしたのじゃ?」


「その術ってさ、俺にも使えんのかな?俺のいた世界じゃそう言った魔法みたいなモンってなかったから凄い気になるんだ。」


 もしかしたら俺にも使えるかもしれない、そしたら俺も小説とかで見る主人公のような、異世界ですごい力を使って冒険したり化け物を倒したり、ダンジョンに潜って一攫千金を狙ったり。そんな事が出来るかもしれない、と期待を込めて玉乃に聞いてみるのだった。




ところどころ説明回は続く。


主人公がとうとう超常の力に手を出します。早くほかの登場人物を出したーい。


感想、批評等宜しければお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ