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彼女と俺と朝食と

「危機は脱した。安心すると良いぞ、我が氏子よ。」


 この日、確かに俺は女神に出会った。炎と月光で照らされ輝く金糸のような髪と、眩しいくらいの美しい笑顔、これで女神じゃないと言うならば何なのだろうと思いながら彼女の顔を見つめる。まるで一枚の絵画のような美しさを持つ彼女は俺の方へと一歩踏み出し……

 何かを呟きながら未だ尻餅をついた体勢の俺に覆いかぶさってきた為、俺は抗うことが出来ずに押し倒されたような体勢になる。


「は?え、あ?」


 突然の事に混乱した頭が更に混乱していく。仰向けに倒れた俺に体を預けるように覆いかぶさる彼女を感じ、思春期真っ盛りの高校生である俺の思考は一気にあらぬ方向へと加速した。

 やべぇ、なんだこれ、温かいし柔らかいし良い匂いがするし柔らかいし(※大事なことなので)何でこんな事になってんの!?

 そんな事を考えつつ上ずった声で彼女に声をかけた。


「あ、あのさ……一体どう、したんだ……?」

「…………。」


 俺の質問は無言で返された。

 なぜこんな事になったのか、彼女は一体何者なのか、一体ここは何処なのか……今の状況を考えようとするが彼女から感じる柔らかさと甘い匂いが思考を鈍らせる。

 何だこれは、据え膳なのか?彼女いない歴イコール年齢の俺にとうとう春が来たのか?

もしかしてこのまま卒業しちゃうのか!?

 なんて思考がピンク色に染まって来たときにあることに気づく。


「……すぅ……ん…………すぴー。」


 …………。


「寝てんのかよぉ!!」


 そう、彼女はなんとも気持ちよさそうに寝ていたのだった。ちくしょう。















 その後ヨダレを垂らして寝ている命の恩人を背負い、他の建物と比べ幾分か綺麗に見える建物へと向かう。彼女を上から退ける時と背負う時に少しばかり体のあちこちに触れる事になったのは不可抗力だ。……不可抗力なのだ!


「ここは……社務所で良いんだよな?」


 普段使わない名前を記憶の片隅から掘り起こしながら呟く。扉に手をかけてみると鍵はかかっておらず、ガラガラと音を立てて開いた。

 

「すいませーん!どなたかいらっしゃいませんかー!」


 誰かいないかと呼びかけるも返事がない。どうやら誰も居ないようだ。

 仕方ない、と家に上がってみることにした。


「おじゃましま~す……。」

 小さい声で挨拶をし、玄関で靴を脱ぐ。人一人背負ったままなので無造作に脱いでそのまま家に上がる。電気はついておらず、外から入ってくる月明かりで辛うじて足元が見える程度の明るさしか無い。


「うへぇ、真っ暗じゃねえか……スイッチの場所もわかんねぇし参ったなこりゃあ。」


 愚痴をこぼしつつもゆっくりと歩を進める。数歩歩いた所で扉を見つけた。開けて入ってみると寝所だったようで、端に布団が畳まれているのが見えた。


「お、当たり……当たりでいいのか?まぁ好都合か・・・。」


 背負っている少女は未だ目を覚ます様子を見せない為、一旦そっと畳張りの床におろし、布団を敷く。少女を布団に入れたところで緊張の糸が切れたのか急に睡魔が押し寄せてきた。

 まぁ、アレだけのことが怒涛のように起こったのだ、疲労が溜まっていてもおかしくないな。そう思いつつ、眠る少女の隣に敷いた自分用の布団へと倒れこみ、気絶するように眠った。
















「ん、眩しっ……」


 窓から朝日が差し込んでいたようで、その光が顔にあたり眩しさで目を覚ました。

 見慣れない部屋と、隣の布団で眠る少女を見て夜に起こったことは夢ではなかったのだと自覚する。

 少女は未だ寝ており、どうやら俺が寝る前から今まで一度も起きていないようだ。

 あの化物を倒したあとに見せた女神と思えるほどの美しい笑顔は今や面影もなく、緩んだ顔でよだれを垂らしながら寝ているあどけない普通の少女のように見えた。


 いや、現代日本にきつね耳を生やした金髪の普通の少女とかいるわけないよな。そう思い直し、今まであったことを整理するように思考を巡らせる。

 脳裏に浮かぶ化物の姿、炎を周囲に浮かび上がらせる狐耳と尻尾を生やした幻想的な少女、体にかかる柔らかく暖かな重みと甘い匂い……柔らかかったなぁ……


「ってそうじゃない!」


 少女の体の柔らかさを思い出し、思考があらぬ方向へと飛びかかるが、なんとか思いとどまる。だが、仕方がないのだ。あれは青少年にはシゲキが強すぎた・・・!


「んぅっ……あふ……何が違うのじゃ……?」


 どうやらあの少女が起きたみたいだな、と少女の方へと振り向くと思いもよらぬ光景が目に入った。

 少女の着ていた和服、巫女服であろうそれは寝ている間に着崩れたのか胸元が大きく開いており、柔らかそうな2つの果実が溢れ出ようとしていた。あと少しでその頂すらこぼれ落ちようとしているのを見て俺は慌てて後ろを向いた。


「ん~、どうかしたのかぇ?いきなり後ろを向いて、一体何事かの?」

「いや、すまん!見るつもりは無かったんだ!その、服がはだけてるとは思ってなかったから……不可抗力だったんだ!」


 やばい、痴漢と間違われたら不味い!そう考え必死に言い訳をする。しかし少女はあまり気にして無いようで


「おぉ、これは見苦しい物を見せてしもうたのぅ……寝ている間に聞くずれていたようじゃ、すまんすまん。」


 そう言いながらゴソゴソと服を直し始めたようだ。

 いえ、見苦しいなんてとんでもない、結構なお点前で……と心のなかで思いながらも彼女が服を直すのを待つ。


「うむ、これでよし。もうこちらを向いて構わんぞ。」


 そう言われ振り向くと巫女服を綺麗に着直した彼女がこちらを見ていた。改めて見てもかなりの美少女で、着こなしている巫女服と合わせて凛とした雰囲気を纏っていた。


「さて、妾も聞きたいことがあるし、お主も聞きたいことがあろう?お互いの聞きたいこと知りたいことをすり合わせ……」


 彼女の言葉を遮るように、ぐぅ、と俺の腹がなる。なんでこんな時になるんだ馬鹿!と自分に文句をつける。しかし、昨日のバイト帰りに食べようと思った稲荷寿司も目の前の彼女に食べられてしまったし、何も食べずに寝てしまったのだ。

 そりゃ腹も減るか。と自分で納得したところで少女は続けて言葉を発した。


「まぁその前に腹ごしらえじゃな。話はその後にするとしよう。付いて来るが良い、居間に案内しよう。」


 少女はそう言うと立ち上がり部屋から出て行った。 俺は慌てて立ち上がり彼女のあとをついていくことにした。

 目の前で廊下を歩く彼女の尻尾がユラユラと揺れており触れたいという衝動に駆られるが思いとどまる。そう広くない建物内でそうこうしているうちに居間につく。

 中を見ると畳張りの床に丸い机と少々の家具が置いてある部屋が見て取れた。


「そこで座って待って……あぁ、その前にそこの扉の先に手洗い場がある。中の扉の中は厠じゃ。用を足すなり顔を洗うなりしたいのなら先に行ってくると良いぞ。」

「あ、あぁ……じゃあ遠慮無く……」


 俺は言われるまま手洗い場に入り顔を洗うことにした。彼女はどうやら台所へ言ったようだ。そこである事に気づいた。


「蛇口がない……」


 そう、蛇口がないのだ。流し台はあるのだが蛇口がない。なんだこれ?と思ったがよく見ると流し台の横に水瓶と柄杓が置いてあった。なるほど、これで水を組んで使うのか。

 慣れない為にやや戸惑ったが、無事顔を洗い終わり居間で彼女が戻ってくることを待つことにした。





 しばらくするといい香りが漂ってきた。それに反応するようにまた腹がぐぅ、と鳴る。腹を擦りつつ更に少し待つと、お盆に食事を載せた少女がやってきた。


「待たせたのぅ、こんな寂れた神社故大したもてなしは出来ぬが、我慢して欲しいのじゃよ。」


 そう言って目の前に置かれたのは湯気を立てる炊きたてであろう白ご飯に味噌汁、焼き魚にお新香と、いかにも一昔前の日本の朝食といったような食事だった。

 彼女は彼女自身の分の食事を配膳し向かいに座った。


「いやいやいや、大したことないなんてとんでもない。凄い美味しそうだ。」

「そうかぇ?それなら良いのじゃが……まぁさっさと食べてしまおう。」

「あぁ、わかった。それじゃあ……」

「「いただきます。」」


 ピッタリと合う言葉に、目の前に座る少女ははにかむように笑う。俺はその笑顔に昨晩の女神のような笑顔を思い出し少し照れてしまう。それを気づかれないように食事に箸を伸ばした。








「「ごちそうさまでした。」」


 ほぼ同時に食べ終わり、箸を置く。空腹がスパイスになったのもあるが、彼女の腕がいいのだろう、物凄く美味かった。


「いや、全然大したことないってモノじゃなかったよ。物凄く美味しかった。」

「ふふっ、そう言われると照れるのぅ。じゃが本当ならもう少し良い物が出せておったのじゃよ。」


 そんなやり取りをしつつも彼女は食器をまとめ机の端に移動させる。そしてお茶を一口のみ、言った。


「さて、ようやくになったが話をするとしようか。まずは聞かせてもらいたい。お主が何処から来たのか、一体何者なのか、何の目的であそこにいたのかを。」




次回ようやく少女の正体と主人公がなぜこんなことになったのかがわかります。(わかるとは言ってない)


なかなか話も進まないし主人公と少女以外出てきてませんがこれからどんどん登場人物は増えていく予定ですのでよろしくお願い致します。


また感想や批評、お待ちしております。

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