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二つの社

 話を聞くところによるとこの鬼神楽さん、この松恵地方における運送業を一手に担う大企業の社長さんであるらしい。従業員も多数抱えているらしく、その中でもこの雛子とか言う狸は性格はともあれかなり優秀な人材らしい。

 ほんとかよ、と思うところなのであるが雛子の持っている能力の話を聞くと確かに、運送業としてはかなり役に立つ能力を持っているようだ。



「きょほほ、私はこのお腹のポケット内の空間をある程度拡張できるのですわ。無制限にとはいきませんけれど、そうですわね……だいたい3m四方分くらいの大きさになっておりますわよ。」


「そりゃ便利そうな能力だな、俺の能力とは段違いだ。しかし、それって四次元ポ」


「孝俊、それ以上は不味いのではないか。」



 げふんげふん、危うくこの世界を未曾有の危機に陥れてしまうところだった。しかし、確かに運送業をするならば破格の能力だろう。こいつ一人でかなりの荷物を運べてしまうのだ、多少性格に難があっても手放せないのは想像に難くない。運送業どころか様々な分野で重宝されることだろう。こいつ、こんな身かけで恐ろしいほどに有能である。俺の能力を思い出して少し凹む。



「ぐふふ、どうやら貴方も私の素晴らしさがわかったようですわね。貴方も能力をお持ちのうですが私の能力の素晴らしさと比べればきっと亀とすっぽんのみたいなものですわ!きょほほ……へぶっ、あのごめんなさい調子に乗りましたわ謝るので踏むのはやめてくださいませんかしら。」



 余計な一言で再び鬼神楽さんに踏まれる雛子。こいつは懲りるということを知らんのだろうか。しかし凄いな、あの大きな足を器用に素早く動かしている。まじまじと見ていると鬼神楽さんがいつの間にかにこちらに視線を向けていた。



「あら、私の体が気になるのかしら。この辺りだと私のような半身半魔の種族は珍しくないのだけれど。」


「あー、いや実はだな……」



 とりあえず異世界から落ちて来た云々は誤魔化して、遠くから事故でこの辺りまで流れ着いたと伝える。話がややこしくなっても困るし、能力のこともあるから今は黙っていたほうが良いだろう。ついでに世間話がてらに今日まで何をしてたのかなんて話もした。



「ふうん、ならこの辺りの事には詳しくないのね。」


「あぁ、実はそうなんだ。と言うかこの神社以外何があるかすらわかってないんだよな。」


「あら、そうなの。この辺りは様々な種族が一緒に暮らしていることで有名よ。なにせこの森の外にはこの国一とも言える観光地七福街があるから、各地から様々な種族が集まっているのよ。それこそ私みたいな蜘蛛から河童や鬼、果ては天使や巨人までいるわよ。」



 何その百鬼夜行。只の人間の俺が行っても大丈夫な場所なんだろうか。

 しかし、話を聞いていくと普通に人も住んでいるらしい。外からくる人はたまに気性が荒い人もいるらしいが、街にもともと住んでいる人はだいたいが穏やかで仲良くしているようだ。それに複数の神様がその街を管理しているらしく、流石に神様のお膝元で問題を起こす人は早々居ないらしい。



「複数の神様か、七福街ってくらいだからやっぱり七福神とか?」


「あら、よく知ってるわね。まぁ有名だからそれくらいは知ってて当然なのかしらね。そうよ、あの街は七福神の管理する街、だから七福街。」


 

 どうやら合っていたらしい。鬼神楽さんはそのまま街の説明をしてくれた。

 七福街はその名の通り七福神の管理する街。7つの神社が街に点在しており、そこを基点として広がってできた街で、そのまま神様の名前の地区があるとのことだ。


 んー、七福神とかは元の世界と一緒なんだなぁ。まぁ神社があるし、鬼神楽さんみたいに絡新婦の妖怪なんてのもいる、なにより言葉が通じるしな。穴で繋がるくらい近しい世界だけあって、神様の名称とかそこらへんは元の世界と共通であるらしい。まぁ知らない言語で知らない名称とか言われてもわからないだけだし、そこら辺は助かるのだが。



「そう、七福街。多大な信仰を集める七福神達がいる街。妾にとって憎っくき商売敵とも言えるのじゃよ。」


「お前、憎っくきはないだろ憎っくきは。」


「じゃが、妾も五穀豊穣や商売繁盛を司る神様なのじゃよ?なのに同じものを司る恵比寿の奴や大黒のヤツのほうが信仰されてるのはなんでなのじゃ!?片や大きい街で信仰を集める神、片や森の古びた神社で忘れられた神。妾とあいつらの何が違うというのじゃ。」



 暗い顔でぶつぶつと恨み言を発する玉乃。なるほど、同じご利益がある神様なのに向こうばかり信仰されているから僻んでいるようだ。だがしかし、話を聞いていく中で一つ思ったことがある。



「そりゃお前、同じ御利益ならこんな森の中にある神社より街の中にある近い神社の方選ぶんじゃね?しかも、多分だけど七福神って稲荷神よりは有名だろうし。」


「ぬわぁぁぁ!言ってはならんことを!言ってはならんことをおおおぉぉぉ!!」


「凄いわね、落ち込んでいる人の心をさらにを抉っていくなんて。」


「鬼畜、鬼畜ですわこの人間!」



 失礼な、俺は事実を伝えただけであって悪意なんてこれっぽっちもないぞ。それにな、俺はこの2日、神社を掃除してた時に気づいたことがある。



「なぁ鬼神楽さん、七福街の神社ってさ元からそこにあったんじゃなくて最初別の場所にあって移転してきたとかそんなんじゃないのか?」


「そうね、一部はもともとあったけれど、一部は7つの神社を集めようと言う話になった時に移動らしいわ。場所を移したのは数百年前の話らしいのに、よく知っていたわね。」


 俺の言葉を肯定してくれる鬼神楽さん。そして、ビクッと反応する玉乃。やはり正解だったようだ。そうだろうそうだろう、何しろこの神社にはそれを裏付ける物があったのだ。



「掃除してて気づいたんだがな、この神社、社が二つあるんだよ。しかも中央の目立つ場所の大きな社と、その裏に隠れてるように置かれてる小さな社。」



 そう、この神社には2つの社があり大きな社には恵比寿神社と。小さな社には稲荷神社と記されていたのだった。恐らく、七福街にある恵比寿神社はもともとここにあったのだろう。それが先ほどの理由で場所を移し、残された玉乃は徐々に忘れられ信仰を失っていったんだと思う。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

玉乃が信仰を失った原因が判明しました。次回はそれに対するちょっとした説明と孝俊がついに街に出るお話です。

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