白と黒1
訪れた放課後。
「行こうか、白土君。」
「あぁ。」
柊に穏やかな声をかけられ、渚は初日の緊張感が解けたような気がした。
「最後に紹介するのはここ。この棟は実習棟だ。下から順に、調理室、裁縫室、技術室、化学室、生物室、物理室、音楽室とある。」
「なるほどね。わかったよ、移動教室もこれで迷うことなく行けそうだ。ありがとう。」
そう、笑顔で言う渚。それに笑顔で答えた柊。だが、その顔はすぐに鋭く真剣なものに変わった。渚は背中にビリっと電気が通る感覚と共に、何故か懐かしさを感じた。
「ところで君さ、……ここの人間じゃないだろ。」
渚は一瞬驚いたような顔をして、また先ほどの笑顔で言う。
「当たり前だろ?こっちに越してきたのはつい最近なんだから、」
「そういう意味じゃねぇよ。」
凍てつくようなとは、こういう時に使うのか、などと思うほどの冷たい視線。冷や汗が垂れる。
「白羽。」
暫くの間の後、先ほどと変わらぬ表情で柊はその名を口にした。
「……なんで、それを……?」
「僕は元黒羽の人間。誤解のないようにもう一度言うけど、元だよ?あそことは縁切ったから。おかげで1番生きてみたかったこの時代で、僕は生きている。」
その柊の言葉に渚は驚きと焦りを隠せない。
「じゃあ、あの黒羽 柊だってことか…?」
「あ、なに?君は僕の名前を以前に聞いたことがあるの?」
「当たり前だろ?あっちの時代に生きていて、黒羽 柊を知らない奴はいない。」
「そう?まぁ、別に嬉しくないけど。」
少し寂しげにも見える顔で、鼻で笑う。
「無理しすぎたわ。もう、後1年もここに居られねぇの。」
「え?」
「白土君、腕見てみな。自分の利き腕。」
渚は袖をまくる。するとそこには見覚えのない砂時計のマークがあった。
「それが、君がこの時代に、この世界に生きられる時間。」
「これが0になったらどうなる?」
「どうなると思う?」
「……死ぬ…のか?」
「まぁ、それを防ぐ方法もあるらしいよ。詳しくは知らないけど。」
「そうなんだ。」
ずっと会いたかった男、一度戦ってみたかった男。渚にとって黒羽 柊はそんな存在であった。だが、黒石 柊とは戦えない。