泡峰 凛2
そのまま穏やかな雰囲気でホームルームは終わった。渚は、先ほどの凛の態度を気にしながら、話しかける言葉を考えていた。そんな彼をお構い無しに、凛は席を立ち、廊下側の角の席へ向かった。
「よぉ、りぃ。おはよう。」
「りぃおはよう!あっはっ。」
「おはよう、りぃ。おつかれさま。」
順に、はにかみながら言う梅田 灯、爆笑が収まらない雲井 梓、ゆっくりと笑顔で言う黒石 柊。凛の幼馴染であり、家族のような存在だ。
「おはよう。」
一方彼女は、頰を膨らませで不機嫌顔だ。
「いやぁ。漫画くらいだ思ってたよね、マジで。初対面の人に名前呼び捨てにするとか。あっはーっ、笑いすぎてお腹痛いわ。灯はどう思う?」
と、梓。
「あぁ…うーん、もしかすると、洒落た男ってあぁなるんじゃない?あと考えられるとすれば…すごくフレンドリーな環境から移ってきたとか。」
「あ、それかも。それなら少し納得〜。あとさ、りぃは相変わらず最高よね。氷みたいな目つきだったのにさ、急にぱぁって、正に花が咲いたような笑顔になったんだよ?顔芸人できるよ!」
「また梓はおかしなことを言うなぁ。でもダメだよりぃ。咄嗟の判断だったかもしれないけど、転校生だよ?初対面だよ?困らせたらダメだよ。学校案内は…違う人に頼んでもいいけど。」
柊は梓に向けていた顔を凛に向け、優しく言う。
「んー……。気をつける。……できる自信ないけど。」
と、しょんぼりと彼女は返す。
そんな彼らの元に、渚がやってきた。
「ねぇ、泡峰。」
「あ、転校生だー。あたし、雲井 梓。よろしく〜。」
「俺は、梅田 灯。よろしく、白土君。」
突然の自己紹介に戸惑いながらも
「雲井さんに梅田君ね。よろしく。」
と渚。
「で、何かよ……どうしたの?」
何か用?と言いかけて、柔らかい言い方に変えた。
「やっぱり、学校案内してほしいなと思って。」
「そんなにしてほしいなら僕が行くよ。」
そう名乗り出たのは柊。
「僕、黒石 柊。よろしく。」
「…あぁ、よろしく。黒石君ね。」
「ごめんね、うちのわがままさん、警戒心強いの。」
「わがままさんって何よ。」
柊の言葉にまた凛は頰を膨らませる。そんな彼女に意地悪気な顔で
「事実だろ?」
と言った。その穏やかな空気に耐え切れないかのように、
「じゃあ、お願いしようかな、黒石君に。」
と、渚が言った。
「うん、じゃあ、放課後に行こう。」
柊は真っ直ぐ渚を見て答えた。その顔は、意思を固めた時のものだった。